企業面接か!
朝になり会議室のような所に通されると普通の朝食が置かれていた。
これがアルミのトレーに乗せられた務所飯だったら暴れるところだったわ。モーガンと二人で美味しく朝食をいただいた後で自警団のお偉いさんっぽい中年男性との面談になった。
「私はローブッシュ自警団団長のハイドだ。まずはこれを見てもらおう。」
見覚えのあるボウガン一式をゴトリと机の上に置かれた。
「ローブッシュに駆け込んだ箱馬車がこれを持っていてな。冒険者が盗賊と戦っていると言うんだよ。これは君たちの持ち物か?」
ハイド団長が眼鏡の奥から鋭い眼差しでこちらを見ている。
机に両肘をついて指を組み顎を乗せている様はまるで某アニメの主人公の父親のようではないか。何か?このゲームはパクリが多いのか?
「いいえ、それは盗賊の狙撃手と思われる者のボウガンです。」
モーガンが真面目に答えた。
背もたれにもたれず椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばし顎を引いている。握りこぶし二つ分くらい開いた膝、軽く握った手を腿の上に置いている。
企業面接か!まあ私もかしこまった感じで座っているから人の事は言えないけれども。もしや自警団には不遜な態度は取ってはいけないのだろうか。
「だろうな。街道沿いの小高い丘の上に奇妙な死体があってな、このボウガンの矢が突き刺さっていたらしい。」
ものすごい勢いでモーガンが私を睨みつけた。
これは“お前やったな!”って感じだろう。目ん玉が飛び出るのではと思うくらいに目を剥いてプルプルと怒りを堪えている。どう対応したらいいのよ。エヘッって笑っておこうか。
「街道沿いの死体も同様に剣が差し込まれていた。君たちの仕業か?それに縄で縛られていた盗賊は三人以外死亡している。どういうことか説明してもらおうか。」
三人という事は最初の麻袋と飛び出して来た二人だろう。
やはりみんな死んでいたか。そりゃそうだ、自警団が到着するまでかなり時間があったし。空気中の一酸化炭素濃度が高かったのだろう。いい感じに枯草が燃えてくれて全部穴の中に送り込んだのだから。なんて言い訳しようかな。
「【探索】でまず剣士を見つけました。二人で応戦していたのですが離れたところからボウガンで狙われたので私は彼女を残し狙撃手の元へ向かいました。急いで彼女の元へ戻るために手段を選ばず討伐しました。戻って来てからも彼女が危険だったので同じくです。」
落ち着いた雰囲気でモーガンが流暢に説明している。
なんかモーガンが美味しいとこ取りしてない?やったのは私なんですけど!
「手段を選ばなかった結果があんな晒し方になるのかい?」
相変わらずハイド団長は眼鏡の奥から目を光らせている。
歳の頃なら四十路手前といったところだろうか。センター分けの耳に掛かるくらいの長さの髪で横は刈り上げているように見える。焦げ茶色の髪にテンプル部分が白いフチなし眼鏡がよく似合っていた。顔はまあ普通だな。制服効果で男前に見えるだけだろう。なんだかんだ言ってこういったRPGやアニメの世界は男前が多い。モブキャラですらファンがいるくらいだ。だがこのゲームは恋愛シミュレーションではないと思うのでそんなに男前率が高いわけではない。
「それは、頭部を野生動物や魔物に持って行かれないために止む無くとった処置です。三人目は無傷で確保しました。その男にアジトの位置を吐かせて討伐に向かいましたが、何せ大人数相手でしたので洞穴入口から出てきた所を少しずつ対応していく作戦を立てたのです。そこで――。」
「その前に、どうして入口を見つけられたのか知りたいね。かなり高性能の高価な認識疎外の魔術装置だったらしいじゃないか。」
「そ、それは、、、、。」
なんだか団長さんを観察していたらモーガンがやり込まれている感じになっている。
一応モーガンは猟奇的な私を庇おうとしてくれているみたいだ。さすがに殺し過ぎたか?いや量的にはそうでもない気がする。ホラー映画のようなご遺体にしたのがまずかったのだろう。ここで私たちが正常な人間であるかどうかを確認しておかなければ、盗賊は片付いたが変人をのさばらせておくことになる。結局のところ、ハイド団長は真面目さんなのだ。
「私、そういうのぼんやりと見えるんです。逆にその装置がどこにあるのかは分かりませんでした。なのでモーガンさんでもわかるように入口に木の枝や草を置いたんです。そしたら思いついたんですよ、盗賊をいぶり出せばいいんじゃないかって。相手は弱くなって勝手に出てきてくれるし、私たちの戦力でも簡単に倒せるかなーって思いまして。えへっ。」
“見える子”を演じて、大量虐殺は突然の閃きだった事を前面に押し出した。
にっこりと微笑み天然ちゃんを装う。ハイド団長は眼鏡の奥から穴が開くのではというくらいにこちらを見ていた。どうせ私がFランクデリヘルだという事は知っているだろう。もしかして【鑑定】している?見られたところで凡人よりちょっと強いかなくらいのステータスだしスキルも大したことないし構わないでしょう。スキルに無くても“何となく見える”程度なら適当に誤魔化せるだろうし。嘘をつくからには徹底しなければ。
「何とか無傷でいられてモーガンさんにはホント感謝してるんです。私だけじゃとっくに捕まっていたでしょうから。私としては盗賊退治も経験できたし棚ぼたラッキーって思ってます!」
モーガンの腕をギュッと掴みはにかんでみせた。
ハイド団長は眼鏡のブリッジをくいっと上げて俯き、モーガンは顔を赤くしてあたふたしている。この世界の男どもはチョロいぜ。
「と、とにかくですね、我々は故意にあのような仕留め方をしたわけではなく、あくまでも最善の策として戦ったわけでして――。」
「もういい、わかった。証明書は書いてやる。一時間後に取りに来い。冒険者ギルドに持って行けば討伐依頼を受けていなくても報酬は貰えるだろう。以上だ、時間を取らせて悪かったな。」
モーガンの言い訳がましい説明を遮ってハイド団長は部屋を出て行った。
「ねえ、なんであんなかしこまった話し方したの?めっちゃ偉い人とか?冒険者ギルドと関係あるの?」
ほっと胸を撫で下ろしているモーガンに尋ねてみる。
ガシガシと頭を掻きながら呆れ顔のモーガンはこちらに向き直り顔を覗き込んできた。
「あのなぁ、ここは誠実かつ下手に出とかないとダメだろ。それこそ自警団の奴等に手柄を横取りされることもあるんだぜ。自警団自体が腐ってる所もあるんだ。ここは良心的な方だよ、証明書まで書いてくれんだから。」
「証明書って何?」
「はぁ、それも知らねぇのかよ。普通討伐依頼を受けたら処理までするのがルールだ。魔物にしろ罪人にしろ全て受けた側が然るべきところに持って行くなりして完了なんだ。」
「へ~。それで?」
「もし盗賊討伐依頼を受けたんだったら全員を捕らえて近くの自警団や近衛に届けるまでが仕事だ。だから護送用の馬車や運び屋なんかをこちらで雇わないといけない。だが今回の場合は特殊なケースでな、俺たちは偶然賊に出くわしたし、御者が通報してくれたから事件として自警団が動いたんだ。俺たちが助けられた側になっていたら冒険者ギルドに出されていた報酬は半分自警団、半分は冒険者ギルドの運営資金になる。俺たちが盗賊を全員片付けたという事実はその場に駆け付けた自警団しか知らない。だから自警団は“盗賊討伐をしたのは○○という冒険者です”っていう証明書を発行してくれるんだ。」
「へ~。」
「適当な自警団なら事実を曲げて報告して報酬をせしめてただろうな。」
「そうなんだ。」
知らんがな。
っていうことはクラウンと退治した山賊の報酬って貰えなかったってことだよね?私、損してない?
「と言う訳で、これから一時間どうする?証明書にはあんたの名前も書かれてるだろうし一緒に時間潰すか?」
一緒に潰すかって言われてもな。
私はクラウンに会わなければならない。どこかの宿に泊まっているはずなのだが。
「うん、そうね、、、、。ね、この街に宿屋ってどれくらいあるの?私、仲間と待ち合わせしてるんだけど。」
「結構広い街だぜ。どこの宿屋か知らないのか?って言うかそれくらいパーティーなら打合せするだろう、普通。」
どうせ普通のパーティーではありませんよ。
半数には嫌われているし、居ても居なくてもどうでもいいんでしょうけれども!
「、、、まあ人それぞれ事情があるわな、すまん。」
ムスッとしている私に向かってモーガンが頭を下げた。
私が召喚者だと知っているのはモーガンだけだ。複雑な事情とでも思ってくれているのだろう。なるべく私に関心が行かないように自警団に色々と話をしてくれていたし感謝するかな。




