覚悟を決めて
街道からかなり離れているゴツゴツした岩が点在する小高い丘がいくつもある場所だった。
他の場所に比べて剥き出しになっている岩肌も多いように思う。盗賊が言うにはこの辺りらしいがそれらしき建物などは見当たらない。猿轡を外しナイフを喉元に当てて再度質問する。
「本当だって!正確な位置は俺にもわからないから指笛を吹いていつも中に入れてもらうんだ!」
「あっそ、わかったわ、おやすみなさい。」
思い切り盗賊の後頭部を殴り気絶させる。
逃走しないように足の腱を切ろうとしたら焦ったモーガンに突き飛ばされた。久しぶりの尻もちだわ。モーガンは盗賊の両足も縄で縛り再度猿轡を噛ませると、両手と顔に麻袋を被せた。
「こっちの方が手っ取り早いのに。」
「どうしてそうやって傷付ける方法ばかり取るんだ!」
そんなに怒ることですか?
何だったらもう用済みなのだから殺してしまってもいいとまで思っているのに。生き証人ってところかしら。モーガンを見ると指笛を吹こうとしている。
「ダメダメ!!大勢出てきたらどうするのよ!」
慌てて腕を掴んで指笛を止めさせた。
岩に隠れて辺りを窺う。もしかして地下通路があるのかもしれない。だが周りは生憎膝丈の草が生い茂っていた。もうしばらくすると日も傾いてくるだろう。早々に見つけ出さないときっと奴等は夜行性だから動き出してしまう。
風がそよぐ音しか聞こえない中、しびれを切らしたモーガンが立ち上がろうとする。
「もう指笛吹いちまおうぜ。時間が惜しい。」
「、、、、あった!あったわ!洞穴みたいな入口!」
十時の方向を指差したのだがモーガンにはわからないのかキョロキョロしている。
モーガンにはあれが見えないのだろうか。捕らえられた人を地下に運び入れるのは効率が悪いと思い地下通路の線は選択肢から外した。そしてこの辺りから指笛を吹いて聞こえる範囲くらいの岩になっている斜面を片っ端から観察しまくったのだ。すると一か所だけ最初は岩肌に見えていたものが突如として洞窟の入口になったのだ。すかさず【探索】をかける。中には十人ちょっといるようだ。点が動かないのできっと寝ているのだろう。
「まだ寝てるみたい。十二、三人ってとこかな。」
「おいおい、どこのこと言ってんだよ。頭大丈夫か?」
なんかやたら小馬鹿にしてくるな。
【探索】で確認するように言ってみたが何の反応もないという。なにかこのスキルを阻む工作がされているのだろうか。それともモーガンのスキルが低いからだろうか。だとしても私がこの洞穴を認識するまでは私が【探索】をかけても引っかからなかった。洞穴入口付近に何か認識疎外の魔法か魔術を施してあるのかもしれない。
そう言えば私は真眼の持ち主だった。もしやそれで洞穴を認識することが出来たのだろうか。真眼さまさまだな。
とにかく【隠密】スキルで入口に近づくことにした。幸いなことにモーガンも【隠密】持ちだったので二人で慎重に近づく。モーガンは半信半疑で着いてきているようだ。
「ほら、ここだよ。」
小石を洞穴に向かって放り投げる。
私にはころころと転がって見えるのだがモーガンには壁に小石が吸い込まれたように見えたそうだ。口を両手で押さえて驚きを隠している。オッサンにしてはかわいらしい。
「で、でも奴等が出てくるんじゃねぇのか?」
「大丈夫だと思う。多分人感センサー的なものしか付いてないんじゃない?石ころや草なんかが入るたびに警報が鳴ったんじゃ落ち着かないでしょ。」
「確かに、、、でも“ジンカンセンサァ”って何だ?」
「あー、んー、ある程度の体温のある動くものにしか反応しないってことかな。」
「すげぇな。」
知らんけど。
なんか雰囲気的にそんな感じかなって思っただけだし。腕を組んでフムフムと納得しているモーガンに枯草や枝を一緒に集めてもらうことにした。文句を言いながらもちゃんと【隠密】スキルを使いながらたくさんの素材を集めてきてくれた。
民家の玄関ドアくらいの大きさの洞穴入口が半分くらいは埋まるであろう枯草が集まったところで私が切り落として来た低木の長めの枝を入口にいくつか並べる。その上から草や枝を隙間が見える感じで乗せていく。
「なあ、何やってんだ?これ。」
「害虫を煙でいぶり出すのよ。迷路になってたら面倒でしょ?出てきたらサクッと殺っちゃって。」
野宿の時に困らないように購入したオイルを振りかける。
マッチで火を点けようとしたときにモーガンに手首を締め上げられた。
「ちょっと待てよ、殺す気か?」
「い、痛いじゃない!声を落としなさいよ!気付かれるでしょ!」
放してくれはしたものの、モーガンの顔は沈み切っている。
掴まれたところがまだジンジンしていた。
「場所がわかったんだから引き返そう。」
「別に焼き殺すわけじゃないわよ。気を失ってもらうのに手っ取り早いってだけよ。ここから出てきた奴等は任せるわ。生け捕りにしたかったらそうしなさいよ。狭い出入口だし一度に出られるのは多くて二人くらいじゃない?あんただったら出来るんでしょ。」
「ひ、人質がいたらどうするんだ?」
「居ないって。居たらあの三人が抜け出してくると思う?襲われたのってもう日にち経ってるんでしょ?足がつかないようにすぐに売られてるわよ。」
「だが、、、、、。」
「何かあったら私が泥を被るから。あんたの経歴に傷は付けないわよ。覚悟を決めて。」
「あ、ああ、、、。」
「じゃ、風の生活魔法って使える?」
「風?ああ、それは使える。何させるんだ?」
「煙が穴の中に行かなきゃ意味無いでしょ。風を起こして穴の中に煙を送ってくれる?」
今度こそマッチで着火した。
チロチロとした弱々しい炎に緩やかな風魔法を当てさせる。ものの一分ほどで大きく揺らめく炎になった。枯草からイイ感じに煙がもうもうと溢れてくる。枯草を追い足してさらに煙を発生させる。
焼き殺すわけではないと言ったが一酸化炭素中毒で死ぬ者も出てくるだろう。
煙はヤバいという事をこの世界の人たちは知らないのだろうか。みんな熟睡していることと他に出口が無いことを願う。
炎に照らされたモーガンの顔からは一切の表情が消えていた。




