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捏造されてそう

荷馬車のロータリーにはいくつかの屋台が出ていた。

少し遅めの昼休憩を取っている御者や人足が木陰で休んでいる。黒モフと一緒に空いているベンチに腰掛けソフトクリームを食べているところだ。なんとカミルからお小遣いをもらっているので買い食いが出来るのだ。店に入ってしまうと街の雰囲気が分かりづらいので木陰でアイスでもという事になった。今日は少し暑い。黒づくめの服なので余計にそう感じるのかもしれない。きっと黒モフも暑いだろう。


先ほどメイド喫茶に寄って無銭飲食の代金を渡してきた。

みんなに心配されたが怪我もないし決着はついたとだけ話しておいた。彼女らが深く知る必要はない。


❝で、どうじゃった?あいつらを負かしてやったのか?❞


紙皿に入れてもらったアイスをペロペロしながら黒モフが【念話】で尋ねてきた。

【念話】は食べながらでも話せるので便利だ。もう黒モフの目を見なくても伝えることが出来る。


❝うん、始末したよ❞

「は?」


黒モフが口からアイスをこぼした。

しかも声を出している。近くの人に聞かれるとマズいではないか。


❝こら!しゃべったらダメでしょ❞

❝す、すまん。いや聞き間違えたかの?始末したって❞

❝うん、そうだよ。始末した。だって生きてたら迷惑じゃない❞


にっこり笑って黒モフを見た。

目が点になっている。背中の毛も少し波打っていた。


❝何も殺すことは無かろう!❞

❝だって絶対に報復しに来るタイプじゃん。放っておけないでしょ❞

❝うぬには良心というものはないのか!❞

❝もう、私だって見境なしにそんなことはしないわよ。まあ、私基準ってのもあるけどあれは明らかに社会のゴミでしょ?❞

❝、、、ゴミか。つくづくうぬを敵に回したくはないのぅ❞


黒モフは私を諭すのは止めたようだ。

半ば諦めたかのようにため息をつき、残りのアイスを口に含んでいた。もしかしたらさっきの奴等には素晴らしいご両親がいたかもしれない。でも喫茶の従業員に危害が及ぶ事を考えたら妥当な判断だったと思う。見たこともないご両親よりもうちの従業員の方が大切だ。自分勝手だが所詮人間なんてそんなものだろうと思う。ましてやこれは私しかプレイヤーのいないゲームなのだ。現実世界で“正義執行”していたら完全にアウトだろうが今はバーチャル、しかも自分でやりたくてこのゲームをしているわけではないのだし。


❝あ、そうだ。私のステータス減少したりしてない?変化ある?❞

❝いや、特にないのぅ。小物を仕留めたところで変化するわけがないじゃろ、まったく❞


そうか、NPCを殺してもペナルティーは無いわけね。

PVPだと話は変わるのかもしれないが現状私しかいない。心置きなく『クズ判定』を下せるわけだ。だが殺戮マシーンになるつもりはない。障害物は排除するくらいの心構えでいよう。


そろそろ他の場所を見て回ろうかと腰を上げた時、人足たちの気になる会話が耳に入った。


「また街道で馬車が襲われたんだってな。」

「ああ、バーの街へ向かう箱馬車だ。前はシーの村からのが襲われただろ。最近王都近くのコトネン伯爵様の領地内で多いよな。」

「何しろ神出鬼没らしくてよ、箱馬車しか襲わないらしいぜ。男は皆殺しで女子供は攫われるんだってよ。」

「まあお貴族様や有力商会の馬車だと足がつくからだろうな。」

「う、うちは大丈夫なのか?」

「箱馬車じゃねーし大丈夫だろ。それにそんなに儲かってねーし、オッサンばっかりだからよ。」

「あはは、そりゃそうだ。」


人足たちは“さ、仕事仕事”と立ち上がって荷馬車へ向かって行った。

箱馬車?路線バスみたいなものだろうか。クラウンは次の街ローブッシュまで来いと言っていたがどれくらいの距離があるのだろう。バーとかシーとか聞いたことのない街の名前だが王都から便が出ているのだろうか。

ロータリーにはそれっぽい馬車が何台か停まっているが字が読めないのでわからない。

ここは城を背にして右側の門付近のロータリーなのでローブッシュ行きはおそらくもう一つのロータリーから出ていると思われる。出立するときにカミルに詳しく聞いておこう。


❝うぬはいつ発つんじゃ?❞

❝そうね、明日には出ようかな。そっちは?❞

❝森までは遠そうじゃし、うぬのスキルで連れて行ってもらおうかの❞


黒モフはすんと明後日の方向を見ている。

よかった、ここに残ってくれるんだ。その方が何かと都合がいい。旅に疲れたら黒モフに癒してもらおう。



馬車の往来に気を付けながらそのまま大通りをクラン地区方面へ向かう。

一本中に入ると住宅街になっていた。国道沿いの街並みという表現がしっくりくる。左手の小路に入った。最悪迷子になったら“カミル区長の自宅はどこですか”と聞けば何とかなるだろう。城が見える方向へ歩けば中通りにつくと踏んで住宅街をくねくねと歩いて行く。中には自宅兼店舗みたいな日用雑貨屋もあった。


「アリスさん!アリスさんよね?」


見慣れない風景にきょろきょろしていると不意に声を掛けられた。

店前で井戸端会議をしているおばさま集団の中にミネアさんがいたのだ。


「久しぶりじゃない。今日はお仕事?」

「こんにちは、ミネアさん。いいえ、今日は王都を見て回ってます。」


久しぶりじゃないわ、昨日も会ったでしょ、執事カフェの前で。

かなりマッチョに魅せられているおばさまだ。


「奥さん、聞いて。アリスさんはねあのカフェを考案された方でね、区長の婚約者なのよ!」

「あら~まあまあ!噂には聞いてましたけど、魔族のお嬢さんってみんなこんなに綺麗なの?お肌ツルツルで羨ましいわ~。」

「不良どもを撃退したんですって?度胸があるのね!区長の事も尻に敷いちゃいそうね、オホホ。」

「お式は再来月なんでしょ?さぞかし豪華なものになるんでしょうね。区長前からパレードするんでしょ?いい男にはお金も名声も美女も集まるもんなのね~!」


何言ってんだ、おばさんたち。

カミルとは何でもないし、魔族なんて一言も言ってない。不良を撃退?さっきの事か?結婚式?パレード?噂のレベルを超えてるでしょ。


「い、いや、私もうこの街を出ますので。どうかそっとしておいてください。噂話はほどほどにお願いします!」


逃げるようにその場を離れ近くの路地を素早く曲がった。

“お幸せに~”なんて叫び声が聞こえる。どうなってるの、この街。色々と捏造されてそうで怖い。


「うぬはカミルの番なのか?」

「違うわい!」



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