ボス部屋
そこはまるでボス部屋のようにだだっ広かった。
扉も自分が入ってきた所と相手が入って来るであろう所しかない。そのすぐ横には簡素な階段があって壁の真ん中あたりで平らになっている。監視役が立つのだろうか。天井までの高さは三階建ての一戸住宅ほどだ。言うほど高くない。地面は学校の運動場のような感じで固いし小石が散らばっている。
案の定、向こうの扉から阿呆どもが入ってきた。
その後ろからギルド職員と色違いの制服を着た厳つい男性が続く。おそらくギルドマスターだろう。アメリカの戦争映画に出くる軍曹のような感じだ。ベレー帽でも被せたいなと思っていたら後ろの扉が開きザボイさんが入ってきた。ガチャっとロックされた音がする。私闘が終わるまでは出してもらえなさそうだ。
「では両者ともに中央の白線まで進んで構えなさい。私が“始め”と言ったら私闘開始とする。」
ギルドマスターが早速あの階段の上に立ってメガホン片手に叫んでいる。
反対の手は後ろに回して本当に軍隊のお偉いさんっぽい。後方でザボイさんも階段を上った音がした。
真っ直ぐ前に進むと互いに離れた位置に白線が引いてある。
両側二車線の横断歩道くらいの距離だ。あまり近くても遠くても有利不利があるからだろう。
阿呆二人はヘラヘラしながら頭の後ろに手を回したりポケットに手を突っ込んでいる。
やる気はあるのだろうか。構えることもしないなんて本当に失礼極まりない。こちらは遠慮なく構えさせてもらう。腰を落とし鯉口に左手を添え右手を柄にかけた。
「では、始め!!」
ギルドマスターの掛け声とともに猛ダッシュし坊主頭の首を飛ばす。
その流れから股間濡らし野郎の心臓を貫いた。驚いた顔のまま崩れ落ちる男を見て血振りをし納刀する。
「またつまらないものを斬ってしまった。」
これ、言いたかったんだよね。
ちょっと私めちゃカッコよくない?深呼吸しギルドマスターの方を見る。ギルドマスターはメガホンを落として愕然としていた。背後から駆け寄る足音が聞こえる。
「き、君!何してるんだ!!」
幽霊でも見たんじゃないかというような顔でザボイさんが迫ってくる。
『クズ判定』下しただけですけど。別に良心の呵責も感じない。こいつらが悪いのだ。
「えっと、何か違反がありましたか?“当ギルドは私闘にて命を落としても一切の責任を負わない”って書いてましたよね?自己責任ですよね?」
ちゃんと職員に確認している。
そんなことが書いてあるという事は命を落とす者もいるという事だろう。だいたい私闘を認める時点でおかしいのだ、お互い殺す気満々なのに。危なくなったら仲裁でもするつもりだったのだろうか。
「あ、ああそうだ!しかし私闘の内容が内容なだけに殺してしまうとは思わないだろう!」
「その判断はおかしいと思いますよ。内容がショボいってザボイさんの私見ですよね。それに私が普通に勝ったとしてもこいつらは嫌がらせや付き纏いをする可能性があります。碌な人間じゃなさそうだし。あ、これ私見ですけど。」
穏やかに笑みを浮かべてザボイさんを見る。
ヤベェ女だと思っていることだろう。自分でもそう思う。それに私は手加減が出来ないし、何より“こいつらはクズだ”と思った時点で自分の中で殺すことは決まっていた。
ザボイさんの視線がすっとずれる。私の後ろを見ているようだ。
「アリス君だったかな、君はFランクだったよな。Fランクの君にどうしてあんな動きが出来るんだ?事前にステータス等は見せてもらっていたが、さっきのはFランクとは言えないもんだぞ。」
後ろからギルドマスターのだみ声が聞こえる。
そりゃ私、化け物級みたいですから。ステータスの偽りがバレているのかは分からないが登録した時は確かにFランクだったのだ。あの鬼畜ダンジョンイベントのお陰で強くなれたのは間違いない。ランク更新などの方法も知らないし適当に誤魔化しておくか。
「登録後すぐにダンジョンに入りまして。それで強くなったのではないかと思います。昇格の仕方もわかりませんしそれ以来クエストは受けていませんので。」
「ふむ、そのダンジョンの依頼はどんなものだったんだ?」
「この近くの街のギルドの依頼でした。トマホークというパーティーに入る形でですが。」
敢えて“デリヘル”とは言わなかった。
デリヘルなんて絶対に認めない。デリヘルどころか殺させそうになったんだし。それに依頼内容すら知らない。
「――トマホーク、、、あの事件ですよ、ギルドマスター!デリヘル嬢と管理者だけが帰ってきたって言う、、、。」
ザボイさん、それ言わないでほしい。
何を興奮しているのかは知らないが、あれはほとんどクラウンのお陰で帰ってこられたようなものなのだ。事件と言えば事件なのだが被害者は私なのだ。
「そのデリヘル嬢がアリス君という事で間違いないか?」
「そうですけど!デリヘルデリヘルって連呼しないでもらえませんか?私自身認めてませんので。」
「あ、いや、すまない。トマホークはこちらとしても目に余る存在だったので有難かったのだが、、、、よければ詳細を語ってはくれないか?」
トマホークってよっぽどクソだったのね。
他のギルドでも噂になっていたなんて。でもギルドマスターはなんでそんなに食い気味に尋ねてくるのだろう。
「調査書か何か読まれたんじゃないんですか?あのギルドで全てを語ったんですけど。」
「管理者が助け出したと聞いてはいるが本当は君が――」
「それは無いです!全部クラウンのお陰です!」
静まり返るボス部屋。
しまった、クラウンの名前出しちゃった。でも名前を言うなとか言われてないし。
「そうか、やはり第三王子殿下だったのか。という事はアリス君、君は召喚者だな。魔族の召喚者とは珍しい。」
バレてる―!!
でももう王子の地区行脚は国民に知れ渡っているだろうし隠しても意味がないのではと思う。まさかここで魔族迫害とかされるのだろうか。強そうな二人に襲い掛かられでもしたら無傷とはいかないだろう。仮に倒せたとしてこの地下から誰にも見つからないで脱出は無理そうだし、脱出できたとしても犯人が私なのは確定だ。どうすればいい?いっそ戦って死んでしまえば現実世界に戻れるのでは?
いろいろ考えているとギルドマスターが私の肩を叩いた。
「安心しろ、私闘は秘密厳守だ。ここであった事、結果などは公表されない。もちろんここでの会話もだ。君にはここから別の出口で帰ってもらう。魔族と知れただけで嫌な思いをするかもしれないが、それは一部の古い考えの者だけだ。【鑑定】されない限り今の見た目なら大丈夫そうだしな。俺でも惚れてしまいそうだ。」
ニィっと白い歯を光らせサムズアップされた。
なんと爽やかな暑苦しいオッサンなんだろう。いかにも外人さんって感じだな。ここでボコられる心配はなさそうだ。少なくとも敵視されてはいないだろう。しかし召喚者なら強いのは当たり前だと思われている節がある。召喚者補正があると勝手に勘違いしているのだろうか。
とにかくギルドマスターたちの気が変わらないうちにクズ共の処理を任せてギルドを後にした。
もちろん無銭飲食代金はきちんといただいている。残ったお金は前の時と同じようにギルド側で有効活用されるようだ。ついでに“クリーン”もかけてもらったので阿呆どもの返り血は綺麗さっぱり取り除かれている。




