私闘
冒険者ギルドに着くまでずっと阿呆どもに話しかけられたが全て無視した。
一番手前の受付へ向かう。
「おい、ねーちゃん!デリヘル受付は二階だろ?待てよ!」
股間濡らし野郎が腕を掴んできた。
それを強引に振り切って受付に大声で尋ねる。
「私闘を申し込みたいんですけど、立ち合いお願いできますか?」
フロアに響いた“私闘”というワードに皆が皆一瞬動きを止めた。
周囲が静まり返る中、阿呆二人が喚き散らす。
「おい!話がちげぇじゃねぇか!騙したのか?!」
「いい加減にしろよ!お前がデリヘルだって言うからついてきたんだろうが!」
受付の職員は手に負えないと判断したのか奥の方に声を掛けている。
すると中年のがっしりとした肉付きの男性が出てきた。うちのマッチョたちを彷彿させるピッタリめの制服を着ている。私と目が合い少し戸惑った様子だ。
「私は副ギルドマスターのザボイと申します。お嬢さんは冒険者ですかな?」
「はい、この通り。」
首から下げ服の中に入れていた冒険者のタグをザボイさんに見せた。
周りにも見えたのだろう、Fランクだのデリヘルだの言っている声が聞こえる。やはり色でランクが分かれているのか。それにしても何故デリヘル登録していることがわかるのだろう。これも色なのか、それとも形だったりするのだろうか。
「そうですか。では私闘の意味はお分かりですかな?」
「もちろんです。この二人に申し込みたいのですが、いけませんか?」
ザボイさんにこてっと首を傾げてみせた後、阿呆二人の方に振り返り全力で笑顔を作った。
自分で言うのもなんだが息を飲むほどの美しさに感嘆を漏らしている者もいる。事実だから仕方ない。当の二人も呆けている。
「い、いや、私闘をするからにはそれなりの理由がないと困るんですよ。」
ちょっと視線を外しながらもザボイさんは仕事を続けている。
さすがだな、副ギルマス。“いいよ”とはいかないか。
「理由ならあります。この二人が私の喫茶で無銭飲食したり、従業員に対して悪質な嫌がらせをしているので困っているんです!二度と店に近づかれたくないからというのはダメですか?」
ここでもまた名女優の演技が光りますよ、ザボイさんどうですかな。
か弱い女性を演じ、思わず守ってあげたくなるような雰囲気を出してみた。さあ、どうよ?
「おいおいおいおい!そんなことぐらいで私闘に持ち込むか?頭イカれてんじゃねーのか?」
「いいじゃんかよ~。俺たちが勝てばこの女、ヤりたい放題だぜ。受けてやろうじゃん、げへへ。」
阿呆どもがある意味正気に戻ったようだ。
ニヤつきながら勝った気で拳を突き合っている。見かねたザボイさんが代理人を立ててもいいと言ってくれたのだがこちらとて負ける気はないので丁重にお断りした。
私と阿呆二人は別々の部屋で書類に目を通す。
目を通すと言っても読めないから読んでいる振りをしているだけだ。一応こちらの要望は店と店員に今後一切近づかないことだ。向こうは私をパーティーメンバーに入れることらしい。その他細かい注意事項は職員に直接聞いた。
本来なら私闘は行われることを秘匿しなければならないらしい。場所、日時、結果についてもだ。今回私が大きな声で宣言したものだから外野がうるさくて仕方ないそうだ。ほとぼりが冷める頃の一週間後に街の外でと悠長なことを言われたので今決着をつけたい旨を申し出た。
しばらく経って相手の了承も得られたとのことで冒険者ギルドの地下へと案内された。
入ってきたのとは違う扉から出る。一階の受付とは反対側なのか人もいないしレンガ造りの通路で右手にすぐ下に下りる長い階段があった。
地下施設って怪しくない?ギルドに必要ある?
下りた先にはまた扉があり、連れてきてくれた職員はここまでだと言って階段を引き返していった。とにかくさっさと終わらせて黒モフと街を探検したい。
私は勢いよく扉を開けた。




