阿呆ども
水曜になり忙しさのピークも過ぎてそうそう監視をしていなくても大丈夫だと判断し、今日は名札の特許提出や王都の散策をしようと思っている。
なんと黒モフも一緒なのだ。数日前からヨーコさんと少しだけのお遣いに出掛けているらしい。もちろんヨーコさんとは【念話】が出来ないのでペットとして付いて回るだけなのだが。ヨーコさんのお手製の真っ赤な首輪を付けてもらっている。
商業ギルドの受付では黒モフに対して嫌な顔をされたがタイミー本部長の名前を出して強引に応接へと入った。
特許担当は動物が好きらしく私の名札の説明を聞くよりも黒モフをチラ見する方が多かったように思う。契約書は前回の時に貰っておいたのでカミルが記入してくれていた。だから後は商業ギルドのハンコを貰うだけなのだ。
お昼を少し回った頃つつがなく申請も終わり晴れて王都散策へと繰り出すことになった。
どうせ近くなので職安ギルドと喫茶にも顔を出しておく。
職安ギルドは未だ人員は増えてはいないがとにかく職員レベルが凄い。少し列ができ出したかなと思ってもあっと言う間に捌いてしまうのだ。現実の部下に欲しい、切に願う。
ポールさんに手だけ振って喫茶裏口へと移動した。
調理の邪魔にならない程度にキッチンへ入り観察する。
黒モフは気を遣ってか入っては来なかった。こうして眺めていると両喫茶ともみんな接客がだんだんと様になってきている。たどたどしい者はまたそれがいいとウケているようだった。固定客も付き始めている。忙しいにもかかわらず従業員一同弱音を吐かない。休みたいとか面倒臭いと言われるかと思ったのだが思いのほか真面目なようだ。どちらかといえば生き生きしている。やっぱり奴隷は嫌だものね。
そろそろお暇しようとした時、メイド喫茶の方で怒号が飛んだ。
「だーかーらー!マキちゃんの置いた水がこぼれたのー。俺の大事なところにさ~。ちゃんと拭いてくれよ~、メイドなんだろ?」
カウンターから見えたのは冒険者風な若者二人組だった。
ボサボサ頭の男性が股間を濡らしながら喚いている。もう一人の坊主頭はゲラゲラ笑っていた。テーブルの前で怯えたように縮こまっているのはマーシャだ。マーシャは引っ込み思案であまり自分の意見を言えない。だからと言って自分の殻に閉じこもることなくみんなと協力してきた健気な子だ。
「そ、それは、お客様、いえご主人様が私の手を、、、。」
「あーー?何言ってるか聞こえねぇなぁ!もっとハッキリとデカい声でしゃべってくれるか?だいたいこんな暗い女が接客ってどうかしてるぜ。ユキちゃんとか他のメイドとチェンジできねぇの?」
周りの客にもお構いなしで大きな声でマーシャをけなす。
これはよくない。ロミルダさんにマッチョ二人をこちら側に寄こすように言ってからテーブル席に向かう。
騒ぎを聞きつけアンヌが先に庇いに行った。
「申し訳ないんですがお帰り願えますか?他の方々にも迷惑ですので。お代は要りませんからどうぞお引き取りを!」
アンヌはきつい口調で毅然と立ち向かっている。
流石は年長さんといったところか。結婚していたというししっかり者のアンヌにはやはりこの喫茶のリーダーになってもらおう。
「なんだ?あんたがこの店の偉い人か?ちょっと歳くってんじゃないの?なぁ、お前もそう思うだろ?」
「うわ、それ言っちゃう?ぎゃははは。別に女だったら誰でもいいくせに?とっとと抜いて、いや拭いてもらえよ、あははは。」
二人はなんとも下品な会話を面白おかしく話している。
マーシャもアンヌも震えていた。少し二人を下がらせよう。ずいっと割り込んでテーブル前に仁王立ちした。
「「アリスさん!」」
「は~ん、こちらのご主人様たちね、営業妨害してくる盛りの付いた阿呆どもは。」
もう見るからに“あくどいことやってます”という顔つきの二人組だ。
私の顔を見て一瞬思考停止したもののニヤニヤしながら舌なめずりをしている。
「へぇ~、めちゃくちゃ美人じゃん。ここのオーナーか何かか?ちょうどよかった――」
「ちょうどいいのはこちらも同じよ。あんたたちギルドに登録してる冒険者?」
股間濡らし野郎の話を遮って冒険者かどうか確認する。
野良の冒険者はどうか知らないが確か冒険者同士の私闘はご法度だったと思う。冒険者に野良があるのかどうか知らんけど。
「当りめぇだろ。聞いて驚けぇ!俺たちはCランク冒険者だ~。すげぇだろ?カッコいいだろ~?」
「カッコいいかどうかは置いといて、周りにも迷惑なんでこの店から出てもらえないかしら。」
その時、“カラン”とドアベルが鳴りマッチョ二人が息を切らして入ってきた。
「ほら、ボディーガードが来たわ。摘まみだされたくないでしょ?Cランクがそんな事されたら恥ずかしいもんね。」
阿呆二人はピッチピチのタキシードの着た、いかにも腕っぷしの強そうなマッチョを見て少し分が悪いと思ったようだ。
「べ、別に俺たちは強さを見せ付けに来たわけじゃねぇよ!水引っ掛けられたから詫びろって言ってんだ。何だったらねーちゃんが代わりにってものアリだぜ。」
「そんなら俺も混ぜてくれよ!三人で仲良くやろうや、げへへ。」
もうマッチョの事は忘れたのか腕を組んでいる私の胸を凝視しながら顔を崩している。
これはもう『クズ判定』下してもいいのでは?自分でもだんだん営業スマイルが引き攣ってきているのが分かる。
「じゃあ冒険者ギルドへ行きましょうか。そちらでお話ししましょう。」
「はあ?何言ってんだ、おい。今ここでしろよ!その綺麗な手でナニしてくれるだけでいいんだからよ。」
いやらしい手つきで大笑いする阿呆ども。
こいつらイメクラかなんかと間違えてんのか?ここは純粋な喫茶店であっていかがわしいお店ではない。
「私も冒険者なんです、デリヘルの。分かるわよね、冒険者ギルドに行く意味。」
“うふっ”みたいな感じに後ろで手を組みにっこりと笑ってあざとポーズを決めてみた。
阿呆どもは目ん玉が飛び出るくらいに驚いて興奮気味に席を立ちドアへと向かう。アンヌが心配そうに声を掛けてきたがウィンクしておいた。裏手に居る黒モフに待機するように念話しその場に居合わせたみなさんに謝罪を済ませると阿呆どもを追った。




