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してやられた

翌日、八時過ぎ、私は馬車に揺られている。

両隣にロリーズ、対面にカミル。何をさせられているのだ。二対二で座ればいいだろう。


「いや~、圧巻だな!いつまででも眺めていられるよ。正に聖霊様だ。」


デレデレのカミルはもう溶けてしまうのではないかというくらいふにゃふにゃになっている。

確かに推しを眺めるのはサイコーだけれども!

ロリーズの服が邪魔でシートがぎゅうぎゅうなのだ。おまけの両方からグイグイと押されている。どうして私が物質的にも精神的にも肩身の狭い思いをしないといけないのか。職安ギルドに着いたときにはもう疲れがピークになっていた。カミルがフランシスさんにわざとゆっくり走らせたに違いない。


職安ギルドでも注目の的だった。

姫ロリと黒ロリに腕を組まれたカミルが入った時には何かのセレモニーだと勘違いした人たちが拍手していたほどだ。ギルドの盛況ぶりを確認するために私はフードを目深に被り出来るだけ他人の振りをしていたのだが、あのクラークさんに呼ばれてしまった。声がでかい!室内全員の視線が突き刺さる。


「アリスさんも登録がまだでしたよね?ささ、こちらに!」


もう逃げられない。

どんな噂かは見当がつくがあちらこちらでヒソヒソ話が沸き上がっている。それに加えてカミルがロリーズを“()()かわいい天使なんだよ”と触れ回っているのだ。とんでもない修羅場を期待している人がほとんどだろう。

仕方なく大きく手を振っているクラークさんの受付へと向かう。


「カミルのハーレムを容認するなんて、なんて懐が深いんでしょう!大聖霊様の御使いのようなお方だ!」


いちいち派手なアクションを付けるな!

余計なことも言うな!小声で話せ!なんで私がカミルの妻ポジションな訳?もう恥ずかしいし早くこの場から立ち去りたい。


「もうさ、サインだけするからクラークさんの方で全部書いてくれない?」

「はい、喜んで!!」


居酒屋か!





ギルドでの登録と依頼を受け、隣の喫茶へ向かう。

ロリーズたちもかわいらしさや華やかさを余すことなくギルドに居た人たちに振り撒けてご満悦のようだった。その都度カミルが“()()”と言い回っていたが。


裏口のインターフォンを鳴らし二階へと上がった。

二階ではフォルカーさんとロミルダさんが今日のシフトのチェックをしているところだった。二人ともロリーズを見て目を剥いている。そうですよね、あんまり見ない種類の子ですものね。キョロキョロと辺りを見まわして落ち着きのないロリーズの頭をガシッと掴み強引に頭を下げさせた。


「おはようございます。従業員の負担を考えてお掃除要員連れてきました。ピンクがティナで水色がリィナです。よろしくお願いいたします。」

「ちょっと、触んないで!髪型が崩れるでしょ!痛いじゃない!」

「い、痛いですアリスさん。暴力は止めてください。」


え?痛くないでしょ。

押さえつけただけで別に爪を立てたわけでもない。二人とも大袈裟すぎるのでは?いつもならティナの暴言を諫めるリィナも同じように()()している。おかしいなと思ったらギャラリーが下りてきていたのだ。しかも大量のメンズが。リィナは隠れて舌を出している。

今この状況を見た者はまるで私が悪役のように見えていることだろう。


「ひどいです、アリスさん。()()()()もそう思いますよね?」


リィナにいきなり話を振られたカミルはぶんぶんと縦に首を振っている。

()()()()なんて呼ばれたものだからデレた顔になっているのは明白だ。そんなことで私を売るのか?カミルの愛も本物ではないという事か、残念だ。少し睨みつけてやると“やっちまった”みたいな顔をされた。もうどうでもいいけど。

当の本人たちはメンズの群れの中に移動していた。ちやほやされて嬉しいのだろう、わかるよ、わかる。私もそういう時期があったもの。女子たちもぞろぞろと下りてきたので改めてロリーズの紹介をした。


閉店後に二人もしくは片方が“クリーン”をかけに来てくれること、一応()()()()の庇護下にあること、甘やかさないこと。

このことを明確にしたときに“クリーン”が使えることに対しての羨望、カミルの所有物であることに対しての憐憫の眼差しがロリーズに注がれる。おまけに私が雑な扱いをしているように受け止められたであろう。一気に従業員の心を掴んだわけだ、リィナにしてやられたな。きっとここでは“甘やかさないこと”は実行されないだろう。

取り敢えず働いてもらえるだけましかな。


帰り際にも盛大に愛想を振りまいたロリーズは余裕綽々で帰っていった。

おまけに普段は絶対にしないであろうカミルへの過剰なボディータッチでスイーツの店に寄ることを勝ち取ったようだった。なかなかにカミルの扱い方が上手い。いや、カミルがチョロいのか。



楽しい休日を満喫したであろうカミルと違い、こっちは喫茶とギルドへ行ったり来たりで散々だった。

字が読めないし書けないので手伝いをしたわけではないが精神的に疲れた。もちろん緊張感を持って【隠密】スキルも発動させているので身体が疲れていないわけがない。いくら体力も化け物的な数値であれ疲れるものは疲れるのだ。スタミナないし。

ギルド運営も喫茶経営も喫茶の定休日と決めた木曜までには何としてでも軌道に乗せたい。もうしばらく張り付きを実行して気付いたことや改善点などを挙げれば後は静観を決めてもいいだろう。

今日はもうこのまま黒モフにくっついて寝てしまうことにした。



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