真っ白に燃え尽きた
カミルたちと別れた後、職安ギルドに顔を出す。
三つの受付には依頼書を持って数人が並んでいる。読み書き出来たら手伝ってあげられるのだがこればかりはどうしようもない。
受付カウンターの向こうの机で書類整理しているポールさんに声を掛け、中に通してもらった。作業の邪魔にならない程度に状況を確認する。
「今は圧倒的に人手が足りないね、いやギルドのね。例の奴隷商の事件が広まり出して以降バレないうちに奴隷を解雇したり、雇用主が奴隷を連れて駆け込み契約しに来たりで。不当な契約を結ばせるわけにはいかないから内容を吟味したり双方の意見を聞いたりで結構な時間が取られちゃってさ。カミルには断っておいたんだけど私たち職員の知り合いに声を掛けて増員予定なんだ。職員に応募してきた人たちもイマイチだったし。」
ポールさんは仕分けしている書類から一切目を離さずに現状を述べている。
断罪した貴族以外の者の動向を考えていなかった私の失策だ。五人では無理だな。精鋭たちではあるが限界がある。ブラック企業にさせるわけにはいかない。とにかく人員をネズミ算的に増やすようにお願いした。彼らの知り合いなら水準も満たしているだろうし純血人族以外の職員が増えたら職安ギルドの敷居も低くなるのではないだろうか。この区だけでも偏見や差別が和らいでくれることを祈る。
「ラミレスさんはどう?誹謗中傷浴びてない?」
「概ね友好的かな。嫌な顔をされるときもあるけれど、子供ウケはいいよ。“ヤギのおじさん”って言われてた時はへこんでたけど。おじさんじゃないってさ、ははは。」
カミルのお陰かな?
王都は純血人族以外肩身が狭いと聞いていたがガチガチの保守派と言われている人たち以外はもしかしたら何とも思っていないのかもしれない。どちらかと言うと世間体を気にしているように思える。
あまり邪魔をしても悪いので職員増加の事だけ念押ししてギルドを出た。
真っ白に燃え尽きた従業員たち。
喫茶、カフェ共に営業時間が終わりキッチンから見た風景である。全員魂が口から抜け出ているようだ。あのマッチョたちですらうずくまっている。
「さあさあ、みんな!片付けや掃除があるんだよ!もうひと踏ん張りしなさいな!終わったらゆっくりお風呂に入りなさいよ。湯は張ってあるからね!」
ロミルダさんが手を叩きながらみんなに激を送る。
お風呂?はて?個室にはシャワールームしかなかったような気がするのだが。
「ロミルダさん、あのお風呂って?」
「ああ、言ってなかったかしら?裏手に浴場があるのよ。お弟子さんたちがよく使ってたの。綺麗に掃除してあるから、よかったらアリスさんも入っていったら?」
お風呂!
お弟子さんたちってことは銭湯みたいなものかしら?ここにきて大浴場に出会えるとは思いもしなかった。さすがに何も手伝っていないのに入るのはマズいと思いホールの掃除を手伝った。どうせなら最後にゆっくりと入りたいし。ついでにロミルダさんとフォルカーさんに厨房の件も話しておこう。今はお迎えが来る人たちに手伝ってもらっているが長期で調理も出来る人を雇わなければならない。どんな人がいいかはご夫婦に聞いた方が確実だ。
結局あの後ご夫婦と話し込んでしまったので大浴場には入らず仕舞いに終わった。
どんな感じなのか見ておきたかったのだがいきなりマーカスさんが迎えに来たので仕方なく帰ったのだ。
カミルは過保護か!だいたい私が攫われた原因はお前だっつーの。
閉店後の執事カフェの扉の前で無言の大男が立っていたものだから従業員は驚いたらしい。
迷惑客かもしれないと片づけをしていたマッチョたちがモップ片手に応対、ラハナストの使いと聞いて事なきを得たそうだ。
マーカスさんとマッチョたちはすぐに意気投合したそうだがラハナストと私の名前が出ていなかったらどうなっていた事か。




