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許すまじ

「ヒネクさん、真面目にやってくださいよ!そろばんはオモチャじゃないんですから!ジェシーさんを見習ってください!」

「だって分かんねーもん。いいだろ、なんかカシャカシャ鳴ってよ、楽器みたいじゃん。」

「俺はもう三個くらいは間違わずに計算できるかも!すごくない?ね、ザシャ、褒めて!」


金髪ロン毛なんちゃってイケメンことヒネクに向かって怒っているのは行商人の息子ザシャだ。

彼は両親たちと行商中に攫われたそうだ。行商人の子供は狙われやすいという。定住しているわけではないし、知らない者と歩いていても商売の延長なのではと思われがちなのだそうだ。

ザシャは男性陣の中で最年少の十五歳で黒髪マッシュルーム、丸眼鏡を掛けている。

見た目も可愛くどう見ても小学生にしか見えない。黄色い帽子にランドセルが似合いそうだ。対してヒネクはもう二十歳らしい。売れないホストが子供に叱られている変な絵面になっていた。

その横で異常に元気がダダ洩れしているのがジェシー。マッチョ同様家計の足しにと力仕事希望で売られたそうだがザシャと同じくらい小さい。田畑を耕していたそうで肌は浅黒く短めの深緑色の髪に良く似合っていた。両耳にピアスをしていたので珍しく思い尋ねたところ出身の村では十五歳になるとピアスを開けるという儀式があるという事だった。ちなみに私と同じ十七歳、、、。見えない。


マッチョ二人はもう一人の行商人の息子ドニの指導を受け、真剣にそろばんを弾いている。

ドニの教え方が上手いのか意外と上達が早いように思えた。ドニはザシャより一つ年上だ。茶髪のショートヘアで後ろ髪だけ長いのか一つに結んでいる。あまり笑わない真面目タイプの男の子だ。

そろばんが壊れてしまわないか心配になるくらいギュッと握っているマッチョたち。他の珠に触れないようにそっと指を使っている姿はどことなく愛らしさを感じる。そんな中、ちょび髭貴族と手を握り合っていた赤い髪のロングヘアの男性がため息をついた。初めて見た時と違って髪を結んでいる。中性的な顔立ちは妙に憂いを帯びていた。


「カレルさん、どうかされましたか?」


もしやちょび髭の元に帰りたいと言い出すのではと恐る恐る聞いてみた。


「いいえ。みなさん頼りになる方々ばかりで誰にしようか目移りしてしまって。もちろんあなたも入っていますよ、アリスさん。」


少女のように頬を赤らめもじもじしている。

え?もしかしてそういう人?男女問わないタイプですか?社内恋愛禁止にするつもりはないが私は除外してほしい。申し訳ないがこの手の顔には興味がない。愛想笑いだけして女性陣の方へと移動した。


こちらではキャスとミッシェルが指導にあたっている。

ミッシェルは行商人の娘だがキャスは商家の娘らしい。商家なら捜索依頼なんかが出ているのではと確認したところ他国出身でクラン地区アガノフォフ領の商家に見習い来ていたが使いっ走りばかりで何も教えてくれないのでこれを機に実家に王都で働く旨の手紙を出したから問題ないという。おまけに見習い先の息子に結婚を迫られていたので逆に今の状況の方が有難いそうだ。黄色のロングヘアを高い位置で一つのお団子にして涼しい目元はちょっと知的さを感じる。ちなみに彼女は十八歳。十八で結婚か、私には無理だな。


「あー!もう私だけ出来なくてもよくない?私にレジ任せて間違えたら困るでしょ?」

「サッチん、根性なさすぎ~。()()()なんかさぁ、パチパチパチでこの通り!さすがタッチんって感じっしょ?」

「変な呼び方しないでよね!タチアナの方が一つ歳下でしょ?」

「いいじゃんサッチん、楽しくやろうよ~。ね、キャスっち。」

「二人とも真面目にやって。サッチが言うように間違われたら困るの。私だってずっと会計は嫌だから絶対にマスターしてちょうだい。」


うわ、キャスは歯に衣着せぬ物言いの子なのね、私みたい。

いや私はまだオブラートに包むことを知っているからまだかわいい方かな。あのやる気がない青髪おさげがサッチで黒髪ショートがタチアナか。しかもギャル語っぽいのを使っている。確か一番若いんだっけ?十五だったかな。ギャルは別次元の生き物として認識しているから少し苦手だ。まず何を言っているのか分からないし距離感が無いところが怖い。ここはキャスに任せておこう。


ミッシェルはマーシャとユーリヤを教えている。

マーシャはラズ地区レセンデス領のワックス村出身だ。同じ地区なら荷馬車経由で帰宅させたらと思ったのだが、無理矢理親に売られたようなので帰すのは止めたのだ。どうせまた売られるに決まっている。飾り気のないおかっぱで素朴な艶のない栗毛、目にかかるくらいの前髪が余計に暗い印象を与える。それにお世辞にも健康状態が良いとは言えなかった。私と同い年には見えないくらい華奢、というかガリガリだ。いつも俯き加減で主張をしない空気のような存在。だから今も黙っている。挨拶の練習の時も聞き取れない程小さかった。

ユーリヤはヒネクと同じ孤児院出身だ。肩までのグレーの髪をハーフアップにしている。冷たい感じがする雰囲気美人だ。


「、、、、、、、、、、。」

「マーシャさん、どこかわからないところあります?」


緑のツインテールを揺らしながらミッシェルが覗き込む。

マーシャは目も合わさずに首を横に振った。ぼそぼそ言っているが普通の人には聞き取れないだろう。私はバッチリ聞こえてますとも!少なくともコミュ障ではなさそうだ。


「もっとハッキリ話してみたら?男どもはともかく、ここの女子は怖くないでしょ?男はみんなサイテーね、気持ち悪いわ。アンヌなんかお姉さんみたいで憧れるわよね~、歳下だけど。でもいいのよ、歳なんて関係ないわ。素敵なものは素敵だもの。」


そう言ってユーリヤは向こうにいるアンヌをうっとりとした目で見つめている。

これは、あれか?多様性のある職場だなぁ、おい。凄くそれを意識して作られたゲームなのだろうか。時代だなと遠い目をしていたらいきなり視界にユーリヤが飛び込んできた。


「もちろんアリスお姉さまが一番です!」


両手をぎゅっと握りしめられ頬ずりされた。

申し訳ないがさすがにこれは無理だ。やんわりと引き剝がしてマーシャに話題を振った。


「マーシャさん、前髪切ろっか?その方がずっとかわいいしみんなの顔もちゃんと見えると思うな。女の子はみんなカワイイんだから自信持って!ね、ユーリヤさんもミッシェルさんもそう思うよね?」

「もちろんです、アリスお姉さま!後で私がカットします。孤児院では私がみんなのカットをしていたんですよ、うふふ。」

「ま、前髪、だけで。この髪型が好きだから、、、。」


異常に興奮しているユーリヤがヤバいと思ったのかマーシャが自分から話してくれた。

これはこれで良しとして、長居をするともっと怖くなりそうなので後はミッシェルに任せ、アンヌの方へと後退りしてその場を去った。


アンヌはガルヌラン伯爵夫人(クソババア)に買われていたツェツィーリヤと話している。

何だか雰囲気が暗い。どうしたのだろうか。


「アリスさん、ちょっと相談があって。」


アンヌに空いている丸椅子をぽんぽんとされたので仕方なく座った。

どうもツェツィーリヤは中年以上の肥えた女性に恐怖を感じるらしい。同性の若い女性に対しても気恥ずかしさが勝ってしまいおどおどしてしまうという。それはそうだろう、ババアに抱かれ、同世代の複数の女性と閨を共にしたのだったら尚更だ。よく今ここに居られるものだと逆に心配になる。無理をしてはいないのだろうか。ちなみに男性との経験はないそうだ。ババアが若い女と比べられるのが嫌だからだろう。

不謹慎だが少し泣きそうな顔のツェツィーリヤは儚げで抱きしめたくなるほどに色気があった。許すまじ、クソババア。思わず拳を握り締めた。


「女性客はそう多くはないと思うけれど、無理に接客しなくてもいいから。テーブルの片づけだけでも十分なんだから気にしないで。ダメそうなら他の仕事にしようか?」


そう提案するもツェツィーリヤは大丈夫と言うばかりで終始ビクビクしている。

ここの仲間と時間による解決方法しかないだろう。ツェツィーリヤの事は物怖じしないアンヌに託して様子を見ることにした。



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