イメージして
その他の意味の分からないスキルにがっくりと肩を落とした私を心配してか、黒モフが紙を覗き込んできた。
「何じゃその文字は。見たことが無いのぉ。魔族の文字か?」
「あ、ああ、まあそんなとこね。実は私、ここの字が読めないのよ。だから冒険者ギルドでも自分のスキルが読めなくてね。」
「なるほどのぅ。じゃからわしと同じ【鑑定】スキルがあるのに分からんかったんじゃな。そもそもスキルに魔力が通ってないものなぁ。」
「何でそんなのが分かるの?」
「うーむ、そこからか。ちぃと面倒じゃの。」
「お願い、教えて!どうやったら使えるようになるの?」
あからさまに嫌そうな顔をされたので全力土下座でお願いする。
食い下がらなければそのまま寝てしまいそうな勢いだった黒モフは渋々説明をしてくれた。まず魔力の通っていないスキルはグレーで表示されていること。
そしてスキルを使いこなしたい場合――
“スキルをイメージして実践すること“
言われてみれば簡単なことだ。
恐らく私のスキルで魔力が通っている、所謂使える状態にあるものは最初にクラウンに騙されてパーティーを組んだ最低の初クエストの時に習得したに違いない。あの時は生き残るのに必死だった。言わば極限状態にあったのだ。何のスキルを持っているかなんて知らなくても命を懸けた状況で取った行動がたまたま持っていたスキルに当てはまった感じだと思う。そう考えたらあのイベントは自身の成長に必要だったという事になる。
【仮説立案】【論理的思考】【プレゼン】、これもカミル絡みのイベントのお陰だろう。そうなると今が【鑑定】や【念話】の取得タイミングでしょ!黒モフ救出もイベントだったのか。
「【鑑定】とか【念話】ってどうしたらいいの?例えばあなたをじっと観察したり心の中で問いかけたりするのかしら?」
「バカを言うでない。【鑑定】はそんな一朝一夕に出来るもんじゃないわい。【鑑定】にもランクがあるしの。何でも見えるものなら上級レベルじゃが、物の判別しか出来んようなら下級じゃな。わしも徐々に全てが見えるようになったんじゃ。うぬとは見てきたものの数が違うからのぅ。それに見えたとしてもうぬは字が読めんのじゃろ?宝の持ち腐れじゃな。」
黒モフのハッと吐き捨てるような物言いにムカつきはしたが、それはそうだなと思う。
この歳で外国語は覚える気にならない。本当に翻訳スキルくらい初期所持させとけよって思った。
ヨゼフさんは【鑑定】の下級レベルだから物品の判断しか出来ないというわけね。スキルレベルは1から10まであって凡人は良くて4、達人は8以上かららしい。
【念話】は相手も同じスキルを持っていないと無理なのだそうだ。受信者がいなければ発信も何もないわな。
「ちなみにわしは【念話】を持っておるぞ。」
「うそ、マジで?話しかけてみていい?」
「やってみるといい、そう簡単にはいくまいて。」
ちょいちょいムカつくのよね、この黒モフ。
生きてきた時間でマウント取るの止めてほしいわ。とにかく漫画やアニメのようにやってみますか。まず目を見なきゃダメよね。上達したら明後日の方向を向いていても会話出来るでしょ。黒モフの顔を真っ直ぐに見つめ心の中で話しかけてみる。
❝ねぇ、聞こえる?あなたに猫吸いしたいわ。一緒にくっついて寝たいの❞
体感十分程度、ずーっと念仏のように同じことを思い続ける。
しかし全く黒モフが受信した様子がない。途中から目も閉じてしまっているし寝ているのではないかと思ったくらいだ。腹が立ってきて可愛さ表現よりも欲望重視の命令形になってしまった。
❝もー、触らせなさいよ!頼むから一緒に寝て!❞
するとどうだろう、黒モフがびくりと身体を震わせ目を見開いた。
ついでに口も開いている。これはもう伝わっているでしょう。
「ま、まさかこんな短時間で、、、、。」
そうでしょ、そうでしょ。
ゲームの主人公はこんなもんよ。部分的に欠陥があるもののチート能力健在って感じね。
❝どうなの?お返事は?一緒に寝よ♪❞
❝何を言うとるんじゃ、この破廉恥娘が!❞
「いいじゃない、減るもんじゃないでしょ。変なことしないからさ。」
「うぬには貞操観念が無いのか!」
「私の居たところでは一緒に寝たり抱っこしたりチューするの当り前よ。」
私のジェスチャーがいやらしく見えたのか黒モフが距離を取った。
地味にショックなんですけど。そう言えば実家の猫にも警戒されてたっけ。餌をもらうときだけは妙に懐いた素振りを見せていたけど。そんなツンデレなところが好きなんだけどね。




