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姫ロリと黒ロリ

ちょっとちょっと、何よこのビミョーな反応は。

ここは“おぉ!”ってなるとこでしょ。空気読みなさいよ、このNPC風情が。

とにかく気を取り直してここは話を進めてしまおう。このゲームの世界観が潰れたとしても責任は持たないし、青いヤツらが私を送り込んだことを後悔しても知ったことではない。


「職安ギルドを設立したいと思うの。職を求める人に職を与え、雇用したい人に人材を提供する、、、、、至極シンプルな内容よ。冒険者ギルドで放置されてる依頼があるでしょ?冒険者じゃなくても出来るやつ。それを取り扱うわ。そこに救済措置として売られた奴隷たちを放り込む、こんな感じかしら。」


これならやむを得ず奴隷として売られた人もある程度の収入源が得られるはずだ。

マージンとかその他もろもろの計算はカミルに投げてしまえばいい。元凶はカミルなのだからそれくらいして当然だと思う。案を出したのだから私はもう必要ないだろう。


「しかし、そうなると本部はこのラズ地区でいいのか?商業ギルドの本部はクラン地区、冒険者ギルドの本部はダース地区にあるからな。カミル、立地条件のいいところはあるのか?他の地区の調査も必要になるぞ。」

「殿下、申し訳ないですが中通りは空地もないですし他の地区の事となるとさっぱりです。」


いい調子だ、何か皆で議論し合っている感じで一体感がある。

でも今他の地区に必要だろうか。


「ちょっと待って。一応お試しでギルドを作るんだから他の地区は考えなくていいと思うの。あくまでもカミル区長が奴隷売買に関係してたことを隠すためが目的なんだから。空地がないんだったら買収しなさいよ。お金、腐るほどあるんでしょ。商才があるんだから儲かってるんでしょ?」


いやらしい顔をしながら手でお金のジェスチャーをしてやった。

カミルが何言ってんだという顔をしている。銭ゲバなんだから隠し持っているでしょう。無いとは言わせない。


「そ、そんな、僕、いや私のような若輩者では雀の涙ほどで――」

「嘘はいいし、“僕”でいいわよ。ね、クラウン。」


カミルには釘を刺し、クラウンには微笑んでおいた。

この屋敷に入ってきたときにクラウンには【マッピング】してもらっている。地下に隠されている奴隷と怪しげな部屋は確認済みだ。不自然に小さな部屋があるらしいのでそこが隠し金庫だと当たりを付けている。


「それと既に売られてしまっている奴隷たちをカミル区長に買い戻してもらうから、よろしく。証書があるんでしょ?出来るわよね?」


漫画に描いたようなガーンという顔のカミルを見て少し笑ってしまった。

今、地下に押し込められている奴隷は預かっているだけで金銭のやり取りはしていないらしい。数日後の晩餐会で奴隷商と貴族たちが直接交渉するのだそうだ。カミルは場の提供料を奴隷商から貰っただけだと言う。それも犯罪に加担しているって言うんですよ。


「買い戻すって一軒一軒足を運ぶのか?かえって目立つし、そんなことをしているのがわかれば他の奴等は逃げるか奴隷を処分してしまうんじゃないのか?」


もう魂が抜けてしまっているカミルの代わりにクラウンが質問してくる。

クラウンが疑問に思うのも尤もだ。何人の貴族に売ったのかは知らないが奴隷を回収しているうちに情報が洩れ逃げ出される事もありうる。


「だから晩餐会とクラウンが肝になるのよ。」


今日奴隷商が捕まったということは数日内に貴族の間で話題になるだろう。

おそらく晩餐会でカミルに自分たちの事がバレていないか確認を取ろうとするはずだ。そこで一同を集めクラウンから王子殿下として勅命だか何だか言い方はわからないけど絶対的な命令を出してもらって奴隷を返品させるって寸法よ。これなら逃げることはできない。納品書に契約書もあるのだから。


「拒んだり認めなかったりするものが現れたらどうするんだ?」

「あんたの絶対命令でしょ?拒めるわけないじゃない。それにこっちには書類だって揃ってんだから認めないわけにはいかないでしょ。奴隷を返品したら不問にするって付け加えればいいのよ。みんなこぞって手放すんじゃない?それかまとめて“なんちゃらの儀”ってのぶちかましといたら?」


そうだ、カミルにやったようにその中二病的なやつで逆らえないようにすればいいのではないだろうか。

我ながら妙案だと思ったのだがクラウンはあまり使いたくないらしい。理由は言わなかったのだがそれを使えばヌルゲーになるからだろうと推察する。その辺りはゲーム規制と言ったところだろうか。

まぁ貴族の統率はクラウンに任せた方がいいだろう。餅屋は餅屋って言うしね。貴族社会の事をとんと知らない私よりもよっぽどいい働きをしてくれるはずだ。





新ギルドの方向性や晩餐会での行動予定を立てられた頃には日が沈みかけていた。

応接室の窓から夕陽が差し込んできている。


「今日の所は帰るぞ。ボルボにも話を通さなきゃいけないしな。明日の午後、両ギルド長と会談してギルド新設の合意を取り付ける、それでいいな?」


それにしてもクラウンはボルボ(オッサン)大好きよね。

どうしてそこまでボルボを大切に扱うのかがわからない。ここでクラウンと一緒に帰ってはまた嫌味をふんだんに言われるだろうから居残ることにした。


「私はもう少しカミル区長と打ち合わせをするわ。捕らわれてる人の事も気になるし。」

「そうか、ならちょうどいい。二階の角部屋にずっと動かない二人がいるようだ。確認しとけ。」


ヨゼフに連れられクラウンとユージーンは部屋を出ていった。

さすがに徒歩では帰せないので馬車を用意してあるらしい。この屋敷に厩務員などいなかったはずだ。あの中の誰かが兼任しているのだろう。カミルってどんだけ人員削減してんのよ。銭ゲバじゃなくて守銭奴ね。とにかく今は謎の二人の確認をしなければならない。


「二人がいる部屋に案内してくれるかしら。」


カミルがびくりと肩を震わせる。

クラウンの言うように確かに二人いる。二階かどうかはわからないが私の【探索(サーチ)】にも引っかかっているのだ。全員集合の時にも動いていない。

カミルは目を合わせようとしなかった。


「従業員じゃないんならあんたが買った奴隷なんでしょ?早く案内しなさいよ。」


引きずるようにカミルを連れ出し問題の二階へと向かう。

メインホールを下りて右へ曲がり突き当り右の階段を上った。無駄に屋敷が広い。貴族とはこういうものなのだろうか。よくあれだけの使用人で回しているなと思う。仕事が早いか使ってない部屋は放置しているに違いない。


問題の部屋の前に着いた。

カミルがもじもじしてなかなか開けようとしない。睨みつけると観念したかのようにドアをノックし入室した。

入るなり怒号が飛んでくる。


「カミル!夕食はまだなの?いつまで経っても愚図なんだから!リィナからも言ってやってよ!」

「ティナ、そんなに怒らないで。カミルにも事情があるのよ。」


なんなんですか、この姫ロリと黒ロリは。

いきなり目に飛び込んできたのは色白と褐色のコスプレ少女二人だった。色白はピンク基調で褐色は黒基調の衣装だが、レース&フリル盛り盛りのデコラティブなのは同じだ。おまけにハーフボンネットまで着けている。二人とも前髪パッツン姫カット、縦ロールのツインテールときたもんだ。


「ちょっとカミル!新人連れ込んできたの?いい根性してるわね。」


色白ピンク髪の姫ロリが睨んできた。

なんかさっきからイメージが逆なんですけど。姫ロリはとにかく気がきつい。褐色水色髪の黒ロリの方がぽわんとしておっとりした口調だ。

カミルがあわあわしている。いったい何の修羅場を見せられているのだろう。

私はにこやかな笑顔でカミルの方を見た。


「カミル区長、()()もお家に返しましょうね。」

「そ、それだけは、、、。」


泣きそうな声で懇願されても困る。

それにしてもカミルはこういうのが趣味なんだ。お人形みたいですね、露出はほぼ無いし()()()で。引き気味に笑ってしまった私を見てピンク姫ロリが目くじらを立てる。


「ガキのくせに、なに上から目線なのよ。新入りらしく傅いたらどうなの?」


手を腰に当ててふんぞり返るピンク姫ロリ。

それをまあまあと宥める水色黒ロリ。やっぱり色的に性格が逆に思える。

私の事を“ガキ”と言うからには二十歳前後なのだろうか。それはそれでイタイ。私より小さいし二人でじゃれてるような感じでお子ちゃま度満開なんですけど。それにそんなに胸を張られてもぺったんこではないですか、ははははは。も、もしや男の娘か?

ロリーズを訝しげに眺めているとカミルが衝撃的な事実を告げてきた。


「彼女たちはエルフなんだ。その、えっと、とても珍しい双子でピンクとアクアマリンのオッドアイだろ、かわいくてさ。」


えーーーーーーーーーーーーー!!!

顔には出さないがめちゃくちゃ驚いた。まさかのエルフ女子?現実世界ではよくたわわなものをお持ちの、ボン・キュッ・ボンの、あのエルフですか?なんだか牛蒡のようなんですけれど。あ、それかめちゃくちゃさらしを巻いているとか?

確かに瞳は二人の髪の色と同じで左右違う方が相手の色になっている。凄い髪形のせいで見えにくかったが耳も尖っている。エルフ、エルフか。


「あの、そんなに見られると恥ずかしいんですけど、、、、。」


水色黒ロリが軽く握った拳を顎近くに添え、身体を斜めに後ずさる。

なんかちょっと庇護欲がそそられた。昭和のぶりっ子みたいだけど。カミルに至ってはもう興奮しすぎて鼻息が荒いし鼻の下を伸ばしまくっている。せっかくの美男子が台無しになっているではないか。


「あたしたち故郷もりには帰らないわよ。元々旅に出てたところを攫われたんだし、買ったんなら最後まで面倒見てくれなきゃ困るわ。ここなら三食昼寝付きで快適なんだから出ていくわけないでしょ!」


ビシッと指を刺されても困る。

マニキュアまでピンクなんだ。ここまで徹底した姫ロリは見たことがない。

さてはカミルの奴、このエルフ共に貢いでやがるな。キャバクラか!

ん?キャバクラ?その手があったか!


「ねぇ、カミル。だったらこの子たちも働かせなさいよ。じゃないと職安ギルドの意味がないでしょう。キャバクラなんてどう?大して今やってることと変わらないんだからこの子たちにも出来るでしょ?」


我ながらナイスアイデアに思わず顔がほころぶ。

カミルはというと何故だかかなり憤慨している様子だ。双子たちからも抗議の声が上がっている。


「きゃばくら?って何か知らないけどダメだ!この子たちの瞳に僕以外が映るなんて許せない。それにこんなにかわいいんだから変な虫がついても困るからね。」


なんじゃそりゃーーー!!

キモいにもほどがあるでしょ。かわいいか?服装とメイクで誤魔化せるレベルだと思いますけど!それに相手は軟禁状態にされているにも拘わらずカミルの事をバカにしまくっているのよ!気づかないのか。愛は盲目なの?なんかめっちゃ白ける。


「そこは“エルフだから働きにくい”とかじゃないんですねー。あーそーですかー。愛の形は人それぞれですから口出しはしませんけどねー。でも程なくカミル区長は財政難になって破綻するかもしれないですよねー。エルフちゃんたち、ご愁傷さまー。」


もう棒読みで未来の事を言ってやった。

三人とも“え?”って言う顔してますけれども事実ですからね。って言うか、カミルは当事者なんだからわかれよ!


「だって他の奴隷を買い取らなきゃいけないでしょ。ギルド立ち上げの諸々の費用とか全部カミル区長持ちなのよ。あんたたちを養う余裕すらなくなっちゃうかもね。」


指を折りながら諸経費の話をし、ちらりと双子の反応を窺った。

ヤバいよねって顔してますがな。しめしめ、否が応でも働かせてやるわ。何歳か知らないけど世間を舐め腐ったような態度で生きていけるとか思うなよ。働かざる者食うべからず。

そもそも主人がカミルだからこんな生活を送れるのだ。普通なら性奴隷とか見世物とか実験台とか劣悪な環境での労働でしょ。

カミルが最後まで双子たちを外に出すのを嫌がったので自分ちのメイドにでもしたらと言っておいた。

そこまで知るかって話。次は地下にいる奴隷さんたちを拝見といきましょう。





そういうわけで今は地下室へと続く階段を下りている。

本当に無駄に広い屋敷だ。地下というから薄暗くじめじめしたところだとばかり思っていたのだが、とても明るく清潔感があった。食材の備蓄倉庫もあるらしいがネズミやゴキブリなど全くいない環境と言っていい。そのさらに奥の鉄の扉の先に奴隷たちは閉じ込められているようだ。


重い扉を開けると少し空気がよどんでいる感じがした。

改めてフードを深く被りなおす。元々は牢獄として使っていた場所らしい。牢獄と言っても屋敷の地下にあるのだから“お仕置き部屋”くらいの感覚だったのだが違った。完全に警察などにある牢屋だ。しかも左右にそれぞれ四部屋もある。複数人収容するためなのか各牢には簡易の二段ベッドが両方の壁にあり剥き出しのトイレもあった。

一気に汚さが増したような気がした。実際には汚くなないのだが見た感じが悪い。思わず顔を顰めてしまう。そして奥の牢屋を見て思わず声を上げた。


「ちょっと、奴隷って男性もいるの?」

「え、そうだけど、おかしい?」


思い込みで貴族が奴隷を買うというのが女性をいたぶるというのに直結していた。

だから男性が閉じ込められているのに驚いたのだ。そうよね、今や時代は多様な性の在り方を謳っているのだから固定観念はよくないな。

手前の牢には女性たちが、奥の牢には男性たちが入れられていた。女性八人、男性八人。中には年端のいかない子供までいる。一応は健康状態が保たれているものの自分の未来を不安に思ってか、顔色が悪い者が多い。


「カミル区長、これを見て心は痛まないの?」

「え、いやぁ、純血人族には興味ないって言うか、、、、。」


ダメだこりゃ。

あははと言いながら頭を掻いているカミルに閉口した。興味がないとかそういう問題じゃないでしょ。

私たちが入ってきたので彼らがざわつき始めた。落ち着かせるために今の状況を説明する。


「みなさん、心配しないでください。あなたたちはここで保護されています。いくつかの質問に答えてもらえますか?」


牢越しだが全員に現状に至るまでの経緯を聞いた。

女性の多くは攫われており、男性は自ら進んで売られた者が多い。

攫われた者は無条件で家に返す。とにかく身元保証人が引き取りに来てくれるまでは身柄を預かることにした。もちろんその間は働いてもらう。

売られた者はほとんどが生活苦からの身売りだった。だとしても人身売買は違法だ。処罰の対象なのだがどうせいたちごっこになるに違いない。だったらこのまま働かせて仕送りをするなりなんなりした方が良さそうだ。下手に帰してまた売られでもしたら元も子もない。みんながみんな泣く泣く子供や自分を売ったとは思えないからだ。だったら王都に出稼ぎという形で働いてもらおう。お金が貯まればなにかしら解決するでしょう。所詮世の中、金なのだ。

取り敢えずはカミル区長かヨゼフさんあたりに攫われた人たちの実家を聞き出してもらおう。明日にでもこの人たちの引き取りの催促を送ればいいかな。



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