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説明君

馬車の通った後の轍、多くの人によって踏み固められた道。

幅も十分にあり馬車も対面通行出来そうだ。すれ違う人もまあまあいる。後ろを振り返っても歩いている人が確認できた。これが正規ルートでしょ。

相変わらずマーキュリーさんとボルボさんは私の悪口を言っているようだ。遠くても聞こえますとも、地獄耳なんで。取り敢えず説明君ことスバルさんからある程度の情報は仕入れておくか。


「あの、マーキュリーさんもかなりの腕前だと思いますがどこかのお嬢様ですか?その、話し方がなんだか独特だったので。」


あれはまさしく貴族令嬢の話し方だ。

“なくって?”なんて悪役令嬢でしょ!この前の村で私が妄想してたじゃない。品がいいんだか分かんないけどお高くとまっていることは確かだ。


「ああ、マーキュリーは隣国の元第六内親王だよ。武の才が認められて皇族を離れる代わりに国の女性騎士団の団長になったんだ。本当は政略結婚をさせられるのが嫌だったみたいだけどね。」


なるほど、お姫様か。

婿は自分で選び取るタイプね。だからあんなにクラウンに猛アタックって訳か。でも団長っていう身分なのに召喚されちゃって隣国は大丈夫なの?アマゾネス率いるボスが居なくなるのはマズくない?


「皇族でも召喚されちゃうんですか?国の主要人物だと物議を醸しだしたりしません?」

「彼女はもう一般人だからね。彼女は乗り気らしいよ。それにもしそんなことがあった場合は代理人を立てられるんだ。まぁ、あんまりいい人材は期待できないけど。優秀な人物をみすみす他国には渡したりしないだろ?呼んだ王子が勝てなかったら殺されちゃうんだからさ。」


そうだ、勝てなきゃ殺されるんだった!

せめてギロチンとか一瞬で死ねるやつにしてほしい。でもこの国以外なら口裏を合わせて“主要人物です”って主張しちゃえば回避できるんじゃないの?それに“ただの人”が召喚されてもどこそこの国の偉い方のご子息だからとか嘘ついて強い人を代理になんて考えも出来るわね。他国にコネがあればだけど。


「なるほど、召喚もあまり公平ではありませんね。抜け道はたくさんありそうです。私のように魔族なんかも召喚されることは多いんですか?」

「そうだね――この大陸で絶対数が多いのが人族だからあんまり聞いたことはないけど、神族は召喚してしまったら必ず神族の国に報告しないといけないんだよ。神族だけは例外で殺してはいけないんだ。向こうはあくまでもレンタルしてあげるっていうスタンスなんだよ。」


神族の方が立場が上なのか?

争いごとになったら人族が絶対に負けるとかだろうか。それとも弱みを握られている?


「神族って特別なんですか?そもそも人族と神族と魔族しかいないんですか?」

「え、そこから?」

「あ、すみません。基本的なことが分からなくて。面倒でなければ教えていただけるとありがたいです。」


スバルさんは戸惑った様子だったが私が本当に困っていると分かると親切に説明してくれた。

やっぱ説明君だわ。必須キャラね。人当たりもいいし、仲良くなっちゃおう。


スバルさんによると、この大陸は「人族」「魔族」「神族」で構成されていて、大半は人族、残る占有率が魔族と神族。

6:3:1の割合くらいだそうだ。面積的には魔族領が一番大きいらしい。人族の中には獣人やエルフ、リザードマンなんかが含まれている。亜人と呼ばれており年配の人や人族至上主義的な人たちは、見た目が現実世界の人間とは違う者は人族の恥とまで思っているようだ。もちろんエルフなんかも耳が尖っているからNG。でもそこそこ獣人や魔族とのハーフなんかも居るようで広い目で見ればそこまで生きにくい世の中ではないようだ。

但し、この国の王都や上流階級の人たちの一部にはまだまだ受け入れられていないところもある。ここは閉鎖的な国なんだろうね。


ハーフが居るとは言うものの、神族だけは神族の国から一歩も出ないので交わることはないらしい。

神族が神族以外の種族と子を成すことは神族の国で固く禁じられている。国から出られないのに出会いも何もあるわけないと思ったのだが、月に一度の交易の時に一目惚れなんかがあったりしてゴールインしちゃうそうだ。

その時は神族であることを剥奪される。どういうことかと言うと、性器を切り取られ国外追放されるそうだ。子孫を残せないようにするためらしい。そこまでする?って思うけど、光属性の魔法の流出を防ぐためらしい。光属性の魔法は神族しか生まれ持って授からないのだ。極稀に人族で光属性を使える者が存在するけれども神族のそれには到底及ばないそうだ。光属性魔法は神族の特権みたいな感じかな。

だからもし万が一召喚で神族を呼び出してしまった時には必ず神族に連絡しなくてはならないという決まりがある。神族の偉い神官様のような人が召喚者の生殖機能を一時的に停止させるか性交をしようとすると自爆する魔法をかけるそうだ。なんて恐ろしい。

過去に報告をしなかった国は瞬時に神族軍に壊滅させられたという。やっぱ、神族最強なんじゃん。


でも神族の国で一人くらい居なくなっても分からないのではないのかとスバルさんに質問したら、現代でいうマイクロチップみたいなのが埋め込まれていて国から出たら直ぐに分かるのだと言う。

こぇー。完全管理下に置かれてるじゃん、神族の人。


「ところでスバルさんはこの国の方なんですか?珍しい武器を持ってらっしゃるようですが。三節棍ですよね?」


スバルさんは腰に三節棍を携帯している。

カンフー映画でよく見るやつだ。あれはなかなか扱いが難しいってネットでも書いてあったっけ。


「あ、これね。よく知ってるね。」


そう言って腰から三節棍を外すと私に渡してくれた。

持ってみた感じ、結構重さがある。ここで振り回すわけにはいかないのでそっとスバルさんに返した。するとスバルさんが握ると一本の真っ直ぐな棒になったではないか。


「え?!どうやったんですか?凄い!!」


思わず大きな声で騒いでしまった。

握っただけで繋目が無くなったんだよ!これは興奮してしまう。最新の武器ではないだろうか。


「これね、魔力を流すと長い棒になるんだ。こうして元にも戻せるよ。戦う相手やタイミングによって使い分けられて便利だろ。俺の相棒ってとこかな。俺はこの大陸出身じゃないんだ。ちょうどここに修行に出ててね、そこで召喚されたわけ。どこの出身であってもこの大陸に居れば召喚されるみたいだね。」


さらりと言っているが、召喚されて嫌ではないんだろうか?

負ければ死ぬのに。私みたいにゲームだって分かっていたら別にどうってことないけど、NPCだから今までの生活もあるでしょうに。


「スバルさんは召喚されて怖くないんですか、その、死んじゃうかもしれないのに。」

「ああ、こういうのには慣れてるからね。どの道死ぬんだから。」


ふっと全てを諦めたような顔になった。

なになに?心に闇でも抱えているの?すごくいい人なのに。私が心配そうな顔をしたものでスバルさんは少し困った顔つきで話を変えた。


「アリスちゃんのも、それ刀だよね。俺の過ごしたところでもあったよ。古いのになるといい値段が付いたりさ。それって名工が作ったもの?それとも家宝か何かかな?」

「あ、これ前の街でタダで貰ったんです。観光客用にオマケとして店に置いてあったものなんですよ。」

「模造刀なの?」


タダで貰った発言に驚いたのか模造刀と言われてしまった。

私もこんないいいものがタダなんて今でも信じられないくらいだし仕方がないか。


「いいえ、ちゃんと斬れますよ。店の人は抜けなかったみたいです。ちょっと抜刀するのにコツがいるんですけど、店主さんは知らなかったみたいで。だから抜けない振りしてタダで貰っちゃいました。お得でしょ。」


NPCに刀という認識はあっても鯉口とか言っても分かんないだろうし適当に話しておいた。

どんな修行をしていたのかとか、パーティーメンバーについてだとか、これからどうするのかなどワイワイ盛り上がっていると目的の街リンゴンに着いたようだ。

もうそろそろ夕方になるのであちらこちらから人が街に戻ってきている。訓練を終えたような人、クエスト帰りの冒険者のような集団、どの人もみんな疲れ切った様子だった。


街に入ってからもあの三人は一言も口をきいてくれない。

まぁ無視とか慣れてるけれども!当面の癒しはスバルさんに担当してもらおう。ジャックさんの次にまともな人に出会えてよかった。ちょっぴり闇を抱えてそうだけど、私が引き出さなければ済むことだ。


この街で初めて立ちんぼの女性を見た。

こういう街には女性の癒しも必要なんだろう。私は絶対にならないけどね。今度あのオッサン、いやボルボさんがそんなこと言いだしたらぶん殴ってやる!


街の中ほどに立っているわりと大きめの宿屋に着いた。

クラウンに付き従って中に入ると『樫の木亭』と同じ制服のホテリエに出迎えられた。チェーン店か?この系列の宿屋は旅人の懐に優しいのか?


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」


これまた制服の似合うかわいらしいホテリエがクラウンに話しかける。

確か樫の木亭でも清潔感があってルックス重視な従業員ばかりだった。これも人気の一つだろうか。


「ああ、予約している――」

「お待ちしておりました、クラウン様。ようこそお越しくださいました。」


クラウンが話しているのに被せるように奥から男性が出てきた。

ここの支配人直々に挨拶というやつだろうか。さすがは王子様だけあっておもてなしも半端ないのだろう。

背が高く真っ赤な髪を後ろで束ねたオールバックの切れ長の目をした男性だ。

袖の裾にスリットが入った黒のジャケットを羽織り、ストレートカラーの白のシャツにボルドーの蝶ネクタイ、黒のベストを身に着け、グレーと黒のストライプのパンツの裾からはピカピカに磨かれたドレスシューズが覗いている。

ん?何か違和感がある。もう一度視線を彼に顔に戻した。


「げ!」


腹黒ではないか!

思わず本音が口に出てしまった。さっき見た赤い髪の男は何だったんだ!見なかったことにしよう。赤い髪の男だと思えばいい。そうそう、全然知らない人。なんとなくこちらを見られたような気がするが無視だ。


「支配人、先に食事にしたい。案内してもらえるか?」

「かしこまりました、こちらへどうぞ。」


クラウンはわかっているのだろうか?

私にだけ見えている幻覚か?色々被害を被ったからトラウマになっているのかもしれない。落ち着こう。


「アリスちゃん、大丈夫?顔色悪いけど、気分悪い?」

「あ、ちょっと長く歩いたからかな、大丈夫大丈夫。」


ああ、癒しのスバルよ。

気遣いの出来るあんたはサイコーだ。腹黒の事は忘れて美味しいご飯でも食べよう。気を取り直してみんなの後を追う。


「いつまでスバルとイチャついているんですの!売女と食事だなんて気が重いですわ。でも支配人っていい男ね。あ、もちろんダーリンには負けておりますわ。ね、ダーリン♪」


この女は言いたい放題だな。

どう見ても腹黒の方が男前でしょ。さてはお妃狙いか?地位と名誉が一番って顔してるもんね~、この女狐が。


クラウンをお誕生日席に、両側をボルボさんとマーキュリーさん、ボルボさんの横にスバルさん、マーキュリーさんの横に私で着席した。正面がスバルさんでよかった。オッサンや女狐だったら美味しいものもマズく感じてしまうかもしれない。しかしながらどうして味覚があるのだろう。女子社員にバリウムみたいなのを飲まされたせいかな。あれが味覚とかに反映しているのだろうか。若干どれを食べても薄味くらいにしか感じないし空腹感も尿意も便意も意識しないと感じない。

食べたいかなとか飲み物を飲むかとか思わないとそうしたいとは思わない。排泄もしかり。どういうシステムなんだろう。起きたらしっかりと青いヤツらを問い詰めないと、後々何か身体に悪影響が出ても困る。


食事はボルボさんが適当に頼んだので肉系統が異常に多い。

マーキュリーさんはそれに付随している葉っぱを女子らしく食べていた。私は葉っぱよりも肉一筋なので構わないのだが、他の男性陣もこれで大丈夫なのだろうか。

相変わらず味が薄い。飲み物は炭酸がダメなので一人お水を飲んでいる。果実酒もあるようなのだが字が読めないので水でいいと言った。後で飲食代を請求されても困るし。横がスバルさんなら聞けたんだけど、マーキュリーさんには字が読めないことはバレたくない。学がないとか小馬鹿にされるのは目に見えている。


「明日、ボルボはスバルとコイツの実力を見てやってくれ。俺はマーキュリーがどこまで育ってるか確認するから。」

「嫌だ~、ダーリンたら、育ってるかだなんて、んもぅ。」


女狐はくねくねキャッキャしながら両手を頬に当てている。

キモっ。よくクラウンは流せるわね。スバルさんも引いてるじゃん。ジト目でクラウンとマーキュリーさんを見ていたらいきなりボルボさんが机を叩いた。周りの席のお客様もじろじろとこちらを見ている。


「はぁ、何言ってんだクラウン。この魔族は娼館入りだろ。男誑し込むことしか取り柄のない魔族に実力も何もないだろう!」


うわぁ、偏見って怖いわ。

もうお前なんか“さん”付けで呼んでやらない。何で私、サキュバスなのよ。マジでもっと他の魔族があるでしょう。って言うか、何でこの物語の男性は女性に身体で働かせるのよ。おかしいでしょ。マジでヤクザかホストか!ハンカチがあったらギリギリと噛みしめたいわ。


「言っておくが、コイツは山賊を退治している。人数は少ないがな。だからお前に実力を見て欲しいんだ。」

「嘘でしょ?そのチンケな剣を適当に振り回していただけじゃないんですの。」


人の得物をチンケとか言うな。

スタイリッシュな刀と言え。あんたのゴテゴテした宝剣より見た目が美しいのだから。スバルさんまで“ウソ”みたいな顔しないでほしい。唯一の仲間じゃないの。

なんか収集つかない感じだし、食べ残しも勿体無いから今はお腹を満たしておくとしますか。





結局最初のクラウンの指示通り、明日はクラウン・マーキュリーペア、ボルボ・スバル・ありすペアで訓練を行うことになった。

ご馳走様した後にみんなでフロントへ集まる。


「明日八時に朝食を取ったら行動開始だ。以上、解散してくれ。」


クラウンは鍵を受け取りボルボと共に階段を上って行った。

ボルボは最後まで嫌そうにクラウンに愚痴っていた。それがお前の仕事だろ!文句言わずにやれ!ホントうちの無能なオヤジ社員のようだ。ムカムカするわ。

マーキュリーさんもスバルさんも鍵を受け取って部屋へ向かっている。私も受付のホテリエに鍵を貰おうとカウンターに近づいた。


「あ、お客様は先ほどの金髪のお客様と相部屋ですよ。」


にっこりと微笑まれたが、嫌な予感しかしない。

私はホテリエに部屋番号を聞くとお辞儀をして猛ダッシュで後を追いかけた。



“ドンドンドンッ”


「マーキュリーさん、開けてください。聞こえてますよね。相部屋なんですから開けてくださいよ!」


やっぱりだ。

マーキュリーさんに閉め出しをくらった。絶対にやると思ったんだ。一人一部屋だと思うじゃない。何度ドアを叩いても開けてくれない。仕方ないからフロントに行って開けてもらおう。あの女も“さん”付けはしてやらない。




「お部屋にはいらっしゃいますね。シャワーでも浴びてらっしゃるんじゃないですかね。少しお待ちになってはいかがでしょうか、裏の庭でもご覧になっては?」


なんと受付で対応したのは腹黒だった。

すっとぼけやがって。あー、でも無視した方がいいわ。本当に彼女もシャワーかもしれないし庭を見てみるのもありかな。取り敢えず知らんぷりしてありがとうと言って庭に出てみた。



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