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日本刀

お昼を過ぎたころ、貴族の別荘地フランブエサに一番近いこの街ランポーネの人通りが最も多くなる時間帯だ。

王都からも近いこの街はちょっとした観光客でいつも賑わっている。ちょうどこの時間帯はランチをしたり露店で買い食いしている人々でごった返していた。


そんな中、皆の注目を浴びながら男女のペアが歩いている。

黒いロングテールコートの男性と黒地に白のエプロンのシンプルなヴィクトリアンメイド型のお仕着せの女性だ。男性の方はあちらこちらから声を掛けられており、何度か貴族風の女性に呼び止められ親しげに会話をしていた。だが話しかける女性は皆、ひとたびお仕着せの女性に目をやると驚愕の表情から嫌悪の表情に変わり“()()()()()お会いしましょう”と約束を取り付ける。まるで自分の方が優位に立っているかのようにお仕着せの女性を睨んでの発言だ。


「なんでライバル視されなきゃいけないのよ。何度も何度もうっとうしいわ。メイド服着てんだから従業員ってわかんないのかしらね。あんたと関係持つ訳ないじゃない。」

「つれない返事ですね。まあそれだけアリス嬢が美しいということですよ。気付いてますか?誰もがみんなアリス嬢を見ています。特に男性は振り返ってまで見てますね。」

「いつものことよ、慣れてるわ。あんたこそ女にガン見されてるじゃない。()()()も多い様で何よりだわ。」


終始無表情のありすと穏やかな微笑みを絶やさないユージーン。

二人はこの人ごみの中、この街で一番大きな洋品店に向かっている。クラウンに言われ、ありすの装備を整えるためだ。洋品店といっても普段の装いのものから防具まで幅広く取り扱っている。樫の木亭の制服もこちらで作られたものだ。街の人から貴族、冒険者まで様々な客層から支持を受けている。


ありすはというとユージーンの無慈悲な拷問の後、気を失い昼前に目覚めたばかりである。

起きると枕元にメイド服が置かれていた。ほどなくしてユージーンから装備を買いに行くと告げられ、前の服装では街に出るには忍びないとメイド服に着替えるように指示されたのだ。

普通ならあそこまでひどいことをされたのだから顔を見たとたんに恐怖を覚えるはずだが、ありすは平然としていた。多少の嫌悪感は見て取れたが、まるで何事もなかったかのようにユージーンと言葉を交わしている。さすがのユージーンも自分に対して何か思うところはないのかとありすに問うてはみたが、返事は“別に”だった。


「またふざけた服装なら即却下だからね。」

「大丈夫ですよ、アリス嬢の好きなものを選んでもらって構いませんから。あ、ここです。着きましたよ。」


“コゼルゲイ洋品店”と書かれた突出看板が目に付く。

ユージーンが指し示した店は間口が広く、ショウウィンドウに普段着や鎧などが飾られてあった。

中には数名の客らしき人も見える。もちろんありすには店の名前が読めない。しかしディスプレイの商品に安心したのか店内に入ったユージーンに続いた。



「おお!よく来てくれたね、アドルフさん。キャッシー!おい、キャッシー!“ブルーアイズの君”がいらしたぞ!」


出迎えた店長は接客していた女性を大声で呼んだ。


(は?なんじゃ、ブルーアイズの君って。)


ありすの頭の上にははてなマークが盛大に飛び交っている。

店長に呼ばれたキャッシーという女性は黄色い声で叫びながらユージーンに抱き着いた。


「アドルフ!会いたかったわ!最近ご無沙汰なんですもの。寂しかったのよ。」


甘えた声でユージーンにしなだれかかるキャッシーは店長の娘だ。

栗色の髪をポニーテールにしてメジャーを肩から掛けている。決して美人ではないが清潔感があって仕事の出来そうな雰囲気がする女性だ。


(アドルフって誰?まさか腹黒のこと?どうなってんの?)


いまいち状況がつかめず唖然としているありすをキャッシーの鋭い目が捉えた。

ありすの顔を見て驚きながらも、頭から爪先までをじっくりとチェックを入れる。ありすと目が合ったとたんに青くなり、ユージーンを鬼の形相で睨みつける。


「アドルフ!新しい従業員なの?どういう関係かしら!」

「いえ、彼女は私の友人のお連れ様でして。ダンジョンで装備ごと服もやられてしまいましてね、うちのメイド服を着てもらっているんですよ。店長、装備を一式揃えたいんですが大丈夫でしょうか?現金でお支払いいたしますので。」


こんな時でもユージーンは笑顔を絶やさない。

キャッシーを軽くなだめ、うまく店長に話を投げた。


「いいよいいよ、娘が恋焦がれる“ブルーアイズの君”の頼みだ。さぁ、キャッシー、お連れさんを案内してあげな。気に入るのが見つかるまで何度でも試着していいからね。」

「もう、父さん!」


キャッシーは父親をポカポカと叩いている。

うんざり顔のありすにユージーンが耳打ちした。


「私はこの街では“アドルフ”と名乗っています。間違えないでくださいね。」

「名前だけじゃ――」


“ないでしょ”と言いかけたありすをキャッシーは強引に店の奥へと引っ張って行った。

ユージーンと内緒話をし、ウインクまでされたありすに対してキャッシーは気が気ではなかったようだ。猛烈なスピードでユージーンの視界から消えていく。


「店長、耐性や加護が付いたものをお願いいたしますね。」


念押ししたユージーンはありすの消えた方向に手を振っている。

ただその瞳孔は縦になっていた。一瞬だけ笑顔が消える。

店長はそんなユージーンの変化には気づかずにカウンター横のテーブルへと案内した。

ありすの装備が整うまで店内で待ってもらうことにしたようだ。ちょうど外からも見える位置なのでユージーンを客寄せに使いたいのだろう。


一方ありすは試着室でメイド服を脱がされ、下着だけの状態で立たされていた。

あれだけ敵視していたキャッシーが黙り込んでいる。


「あのー、流石にこの格好では服を見に行けないんですけど。」


ありすは固まっているキャッシーに恐る恐る声を掛けた。

はっとしたキャッシーは自分の頬を両手でパシパシと叩くと改めてありすに向き合った。


「あ、申し訳ございません。あの、あ、余りにもお綺麗だし、均整の取れているお身体だと思いまして、その、ちょっと見とれてしまいまして。さ、サイズはわかりましたのでご要望のものを私が取ってまいります!」


先ほどとは打って変わって何とも腰の低い態度だ。

ユージーンから引き離したい一心でここまで連れて来たのだろうが、改めてありすを見て正気に戻ったのだろう。メイド服姿のありすの破壊力は半端ない。そして脱がせてみてもそれは変わりなかった。愕然とし張り合おうとした自分が情けなくなったに違いない。


「あー、それよりも自分で見て納得したいので羽織るものを貸していただけますか?それかもう一度メイド服着ますけど。」


キャッシーの脳内で何が起きているかをだいたい理解しているありすは普通にショッピングしたい意志を伝えた。

大慌てで店内の一番華やかなヴィンテージドレス取ってくるとキャッシーは今日一の大声でお願いした。


「まずはこちらを着ていただけますか?あなたを美しくコーディネートさせて下さい!」


転んでもただでは起きないというか店の宣伝のために綺麗に着飾らせ街を歩かせたいのだろう。

店の売り上げのことを考えるあたりは父親の商売人気質を受け継いでいるようだ。





店内はしっぽのある種族にも対応した商品が数多く取り揃えられていた。

何度も試着し吟味しキャッシーの意見も聞きながらありすは以下のようなものを選んだ。


下着のパンツは紐タイプでサイドがマジックテープになっている。

排泄の際もいちいちしっぽまで脱がなくてもいい。ブラはスポーツタイプで脇から背中までしっかりとサポートのあるもの、インナーは長袖のボートネックで後ろの裾がしっぽにかからないように短めになっている。

もう一枚重ね着用に防刃耐性のある長袖ハイネックのシャツを、スパッツも同じく防刃耐性のあるものにした。

こちらはしっぽの穴の上側がマジックテープになっており脱着が素早く出来る。十分丈と三分丈を重ねて穿く。

伸縮性のある半袖の膝上丈のチュニック。ベルトループには剣カバーの付いた革のベルトとあのウエストポーチを通す。

チュニックの上からはアルマジロのような素材でできたインナーチェストプロテクター。

耐衝撃・防刃性に優れた特製カップで、胸とカップの間に少し空間を作り衝撃が直接胸へ伝わって来ないようになっている。肩ストラップはズレにくいバックスキンを使用しており、後ろはマジックテープ止めだ。

飾りベルトのたくさんついている指の中ほどまで隠れるアームスリーブに二の腕に巻き付けて使う小物収納バンドもつけた。

ブーツはひざ丈平底でサイドにベルトのあるシンプルなもの。

内側にナイフを収納できるダガーホルダーが付いている。




「ねぇ、これでいい?」


ありすは背を向けて座っているユージーンに近づくとお披露目をするようにくるりとその場で一周した。

全て黒一色である。

これを見たユージーンも少し驚いていたが何も言わなかった。本人が納得しているのだから仕方ないだろう。ありすの横にはうなだれたキャッシーが立っている。煌びやかな衣装どころか露出度皆無で黒しか選ばないありすにショックを隠せないでいた。


「店長、彼女に合いそうなフード付きのマントはありますか?出来れば防刃・防水・防塵の簡単な加護・・があれば言うことはないのですが。」


ユージーンはにっこり笑って店長に圧をかけている。

加護付きの装備は王都でもなかなかお目にかかれない。加護は半永久的に効果が持続する上にその装備自体の耐久性が高い。一方耐性付きは素材を掛け合わせて作ったものなので使っているうちに効果も耐久性も失われていく。もちろん素材を提供すれば修繕してもらえるし、一から新しく作ってもらうことも可能ではあるが集めるのが面倒なものが多い。ギルドで素材集めクエストが発生するのも納得がいく結果だ。加護付き装備もレア素材もよくダンジョン踏破の際に出てくるものだが、いい加護がついているとそのまま冒険者が使用してしまうし、いい素材ならそのまま手持ちにしてしまうので市場には出にくい。

また加護の付いている装備に耐性は付けられない。その逆もだ。なので量産されているのは基本的な耐性の付いているものであり、自分の欲しい耐性を選びたいならオーダーメイドが中心になる。

ユージーンの言う防刃や防水・防塵効果は比較的集めやすい素材で出来るので、いい生地にさえ付いていれば既製品を買う方が早い。

しかしユージーンは“加護品”をお願いしている。


「いやぁ、アドルフさん、それだとちょっと値が張りますよ。オーダーメイドだと“耐火性"もお付け出来ますし。」

「それくらいの加護品なら取り扱っているでしょう?金額は気にしませんので見繕ってくださいな。」


金を出すという客を逃すわけにもいかない店長は小走りでカウンター奥のバックヤードに消えた。

その会話を聞いていたありすは少し申し訳なく思っているようだ。


「ねぇ、あんまり高いのはちょっと、、、。これだけでもいい値段するでしょ?マントは既製品でいいと思うわ。って言うか必要ないよ。」

「いけませんよ。王都に入るならフードでその頭を隠さないと。この街ではそんなに奇異の目で見られることはありませんが、王都には魔族を良く思わない人が一定数いますからね。」


王都では魔族はあまり受け入れられていない。

特にクラウンの本拠地となるラズ地区は保守派の多い場所だ。若い世代ならまだしも年寄り連中は先の大戦で魔族を目の敵にしている。あからさまに差別をされるので魔族の冒険者でもあまり立ち寄りたくないような場所なのだ。


その説明をありすが受けていると、奥から店長が一着のマントを持ってやってきた。

ふぅと息をつき、ひと仕事やり終えたように額を拭うとありすにマントを手渡たす。


「なんとか三つの加護が付いているものがありましたよ。こちらなんかどうです?白い髪のお嬢さんにはぴったりだと思いますよ。」


ありすはそのまま着用してみた。

渡されたマントは手触りがよく、黒色で腿辺りの着丈になっている。裾は5センチほどが真っ白でその上はグラデーションで黒に繋がっている。首元にはきちんとカラーキーパーが入っており、ダッフルコートのようにチンストラップが付いている。それは白地で同じく白い布でくるまれたスナップボタンが付いていた。それを留めてみても窮屈な感じもなく、後ろにマントがずれることもない。フードを被ったり脱いだりしたが違和感はないようだ。


「よくお似合いですよ!全身黒でしたからワンポイントあったほうがいいと思いまして。御髪の色と相まって、より色白に見え美しさが際立ちますよ!」


美的センスを褒めてもらいたいのか、異常に興奮する店長。

ユージーンも問題ないという顔をしている。ありすだけが値段を気にして落ち着かないようだ。キャッシーに至ってはまるで像に祈るように膝を折ってありすを見上げていた。





支払いを済ませるので先に店の前で待つように言われたありすはフードを被り壁にもたれている。

かなりの値段したであろうこの装備を眺めながら、クラウンの言葉を思い出していた。


“じゃぁお前は装備揃えて、傷んだら修理して、宿に泊まって食事して、、、全部自分で賄えるのか?”


(これはマズい。資金マイナススタートじゃないの。返済できる?マジでクエスト受けなきゃ娼婦まっしぐらだわ。)


軽く落ち込んでいるありすの元に店から出てきたユージーンが合流する。


「ねぇ、いくらしたの?高かったんじゃないの?」

「女性はそんなこと気にしなくていいんですよ。」

「いや、気にするでしょ!そもそもクラウンのお金だよね?」

「その“クラウン様”がいいって言ってるんですよ。」


ありすは困惑していた。

ちょっとした貢物ならまだしも、この装備は“ミツグ君”にさせてはいけない金額だろうと直感で分かったようだ。


「マントは私からのお詫びの品です。受け取ってくださいね。」


ありすの手を取り口づけをする。

照れてはいるものの、ありすはものすごく嫌な顔をしてユージーンを見ていた。


「そんな目で見られるのはちょっとショックです。」


まったくショックを受けていない口調のユージーンはそのままありすの手を引いて歩き始めた。





“模造品から本格武器まで幅広く取り揃えております 鍛冶屋メルン”

こう書かれてあるスタンド看板の前でユージーンは立ち止まった。


「こちらでアリス嬢の剣も購入しましょう。こちらも私からのプレゼントということで。」


軽やかな足取りで店に入るユージーンを見て胡散臭さでいっぱいになったありすはしぶしぶといった感じで後に続いた。


店内には大小のショウケースがあり、壁にもたくさんの剣や投擲武器が掛けられてある。

店の奥は工房になっているようで、トンカンと鉄を打つような音が響いていた。入り口付近の地べたに置かれた筒状の入れ物には乱雑に剣が突き刺さっている。


「すみません、女性でも扱いやすい軽い剣はありますか?」

「いよぉ、樫の木亭の旦那!珍しいね。ご婦人さんへの贈り物かい?」

「店長、お久しぶりです。今日は彼女に合う剣を探しておりまして。」


威勢のいい職人気質の店長にユージーンはニコニコと答える。

後ろに立つありすを見て“こりゃたまげた”と口を開けていた店長だが、体格やら手の大きさなどを観察し、いくつかの剣を鞘から出してカウンターに並べた。


「お嬢ちゃんにはこれくらいの長さと重さの剣がいいんじゃないか?あんまり長いと振り切れないだろうし軽すぎてもスパッといけねぇしよ。護身だけっつーんならダガータイプの方がいいと思うぜ。」


提示された剣は全て刃長が50から60センチのものだった。

どれもグリップ部分に細やかな装飾が施されておりポンメル部分に何らかの宝石が付いている。ありすは手に取りながら重さや感触を確かめていた。


「よかったら店内に置いてあるので気になるものがあったら言ってくれよ。お嬢ちゃんのサイズに打ち直してやるからさ。」


余り気に入らない感じのありすを見て、店長は他の商品を勧めた。

ユージーンは大のお得意様だ。来店回数は少ないものの、必ず高価な観賞用の模造刀を購入していた。今回は実際に使用する剣をと聞いたが使用者があまりにも冒険者とはかけ離れた顔立ちの美しい女性だったので、つい華やかさに重きを置いた剣を提示したのである。しかしながら女性が納得のいっていない様子を見てチャンスを逃さないためにも打ち直しまで申し出たのだ。


(あんな馬鹿高そうなの迷惑だわ。後々腹黒に恩着せがましく言われるのも嫌だし。なんかお買い得な剣があればいいんだけど、、、。数字はわかるから、どんな価格帯が多いのか観察するか。)


これ以上ユージーンに鼻につく態度を取られたくないありすは店内をぶらぶらと眺める。

入り口に置かれたぼろい木桶に入っている剣やら槍などが目に入った。乱雑に突っ込まれているそれらは全くと言っていいほど手入れがされておらず、値札のようなものも付いていない。その中に日本刀と思しきものを発見した。


(こ、これって日本刀!!やばっ!)


手に取ったそれは正しく日本刀だった。

柄から鍔、鞘まで真っ黒の一振りで、全体的に緩やかな弧を描いている。一般的な日本刀と比べやや小振りで刃渡り65センチほど、刀身が90センチほどだ。鍔には龍が彫られてある。


「お嬢ちゃん、そこの中のもんは全部不良品だ。観光客にタダで持って帰ってもらうやつだよ。そいつぁ見た目はいいがオモチャだな。重さはあるが、いくら引っ張っても抜けねぇからよ。」


カウンター越しに店長が頭を掻きながら答えた。


(この世界の人、鯉口の切り方知らないの?マジで?これ貰っちゃお!)


にんまりしたありすはこれがいいとユージーンに告げた。

いくらタダでいいと言われても何となく落ち着かないユージーンは、ありすのブーツに仕込めるナイフを一本買うことにした。その際にもありすから投げても勿体無くないくらいの普通のものがいいと言われ無難な値段のナイフにした。





「アリス嬢、本当にそんな模造刀でよかったんですか?やはりデリヘル志願ですか?」


二人は店を出て噴水前広場に差し掛かっていた。

芝生ではサンドウィッチを分け合うカップルや、ベンチには老夫婦が腰を掛け穏やかな時間を過ごしている。噴水の前でユージーンがありすを呼び止めた。


「デリヘルはお断りよ!、、、、ここまで来ればもう大丈夫かな。あのね、これは刀って言ってね、鯉口を切らないと開かないのよ。無理して引っ張ったりしたら鯉口が潰れちゃうし、鯉口を切ってから一気に引き抜かないと刃こぼれしちゃうから気を付けないといけないのよ。あの店長さんは知らなかったみたいだから、うふふふ。この刀、結構値打ちものだと思うわよ。」


ありすはもう刀を腰に下げている。

大事そうに柄の部分を撫でながらご満悦の表情である。


「どうしてそんなことを知ってるんですか?よかったら、今ここで抜いてみてくださいよ。」

「ダメよ、こんなところで抜いたら大騒動でしょ。」

「大丈夫ですよ、誰もいませんから。」


何を言い出すのかとありすが周りを見渡すと、そこには今までいたはずの人々が忽然と姿を消していた。

噴水から流れ出す水の音だけが響いている。只ならぬ様子にありすは不安を隠しきれない。それを見ているユージーンの瞳孔はまた獣のように縦に細くなっていた。



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