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もしかして

最後の一体がドナシアンによって斬り伏せられた。

六体の群れで襲ってきたケイブウルフだ。首元から前足にかけてを一刀両断されている。何体かは罠で自滅したが残りのケイブウルフはドナシアン一人で仕留めた。


「おい、グリフィス!お前も手伝えよ!こっちは罠探知のスキルに魔力使ってんだぞ!」


肩で息をしながら大声で怒鳴りドナシアンは納刀した。

血汁のせいでむせたのか咳込みながら魔物の肉片を蹴飛ばしている。当のグリフィスは頭の後ろで手を組み、何処吹く風という顔で笑っていた。グリフィスは寄ってきた魔物には剣を向けているが、基本その場を動いていない。


「だって俺には罠が見えないんだから仕方ないだろ。次のセーフティールームでポーション分けてやるからさ。」


グリフィスは“早く早く”というように手首を振りドナシアンを急き立てる。

口をへの字に曲げたドナシアンが仕方なく罠探知に魔力を込めた時だった。


“ゴオオオオオオオオオオォォォォッ”


二度目の轟音に二人は身構える。

ダニーが起こしたかもしれない罠よりは音が小さい。揺れを感じないことからこのフロアではないと判断した二人はセーフティールームへと急いだ。





「あの音のお陰でここがわかったようなもんだな。どうだドナ?回復したか?」


あの後、音のした方向へ進んで行くと簡単にセーフティールームを見付けることができたようだ。

既に近い位置まで来ていたのであろう、魔物にも遭遇せず数分で到着している。今はドナシアンがポーションを飲み、体力・魔力の回復がてら胡坐をかいて無言で剣の手入れをしている。グリフィスは相変わらず両手を頭の後ろにやってうろうろと歩き回っていた。


「ちょっと落ち着いたらどうだ。熊じゃあるまいし。焦んなよ。」

「もしかしたら意図的に起こされた罠かもしれないだろ。そもそも罠が勝手に作動すると思うか?」

「またそれかよ。そりゃ魔物だって踏むだろ。現に今までも見てきたしな。なぁ、もう帰ろうぜ。ダニーがあの女連れて外に逃げてたらどうすんだ?」


どうやらドナシアンのやる気スイッチは入ってないようだ。

自分だけが損な役回りだとわかっているのだろう。時間をかけてチマチマと剣の手入れをしている。グリフィスはようやく立ち止まりドナシアンの鼻先に指を突き付けて言い放った。


「俺はアイツが大嫌いなんだ!!シーフだか何だか知らないが偉そうに!俺がトマホークのリーダーなんだぞ!最近のアイツは俺に隠れてコソコソ勝手な行動ばかり取りやがる。今回の件だってそうだ!リーダーの俺に相談も無しだぞ!絶対に逃げちゃいないはずだ!この際だから装備奪ってぶっ殺す!行くぞ!」


こめかみに血管を浮き上がらせ豹変したグリフィスはさっさと通路に向かって歩き出す。

今までのダニーに対する積み重なった不満が爆発したのだろう。

グリフィスは自分の価値を過大評価している。自尊心が誇大で賞賛獲得欲求や承認欲求が激しく、他者に共感することが著しく欠如しているのだ。ダニーは格下、不細工な子分とでも位置付けていたのだろう。そんなダニーがこれまで自分の与り知らないところでオイシイとこ取りをしていたのが許せなかったのだ。


こうなったグリフィスを止めることは出来ない。

ドナシアンは何度も同じような光景を見てきた。シモンのような捨て駒の奴等とは違う。ある程度長く行動を共に続けてきた者に対して起きるのだ。思い通りにならなければ有能であれ平気で切り捨てる。それがグリフィスだ。

目立つことをあまり好まず、グリフィスと好みの女も被らない、ただ魔物でも何でも殺せればそれでいいだけのドナシアンはトマホーク結成時からの唯一のメンバーだった。


(突然だけど毎度のことだな、、、、。)


やれやれという感じでドナシアンは後を追った。




地下四階に出る通路中ほどでドナシアンがグリフィスの肩を掴み後ろへ下げる。


「まだ罠は続くんだ。勝手に前を歩くな。」


この通路には罠が無いようだが次の階に出る付近になると配置されていることが多い。

慎重に歩みを進めた二人の左手には焼け焦げた大地が広がっていた。まだあちこちで炎が燻っている。


「さっきの音はこれだったのか。」


ダンジョンに広がる異様な光景にグリフィスは息をのむ。

これだけ広範囲にわたる罠を見たことがないのだろう。ドナシアンはかすかに残っているドブのような臭いに鼻を押さえた。


「うっ、これはスクワームが焦げた臭いだな。久しぶりに嗅いだが気分のいいもんじゃねぇ。」

「ニオイ?するか?スクワーム?あの直ぐ再生するやつのことだろ?じゃぁ、そいつが勝手に罠に突っ込んだって言うのか?」

「いいや、違うな。スクワームは罠には敏感なはずだ、こんな大層な罠には掛からねぇよ。ここだと飛行型の天敵もいねぇと思うし、“追われてた“にしちゃぁ合点がいかない。」


焼け焦げた所まで近づき辺りを見渡したドナシアンはしばらく目を瞑り考え込んでいた。

そしてある結論に至ったのかグリフィスの元に戻ってきた。


「なぁ、グリフィス。“追われてた”んじゃなくて“何かを追っていた”としたら辻褄が合わねぇか?あいつらの口に合うのは小型の魔物もしくは生き物だ。先に追われてたものが罠を踏んだならスクワームは止まるか逃げるかするだろう。だけどこの焦げ跡からして初めに罠を踏んだのはスクワームに違げぇねぇ。だとしたら?」


ドナシアンはスクワームのだったと思われる焦げ跡を指差し、薄気味悪い何かを企んでいるような笑みを浮かべた。

くんくんと鼻をぴくつかせている。グリフィスは固唾を飲んで次の言葉を待っていた。


「おい、そこにいるんだろ!出てこい!気配を消しても臭いはわかるぜ。髪の毛の焦げた臭いだな。スクワームを罠に掛けたのはお前なんだろ。なぁ、出て来いよ!」


いきなり向こうの岩に向かってドナシアンが叫んだ。

グリフィスはぎょっとしたがドナシアンの鼻が利くことは知っているので同じく岩の方へと身体を向けた。辺りは静まり返ったままだ。何の反応もない。グリフィスはおもむろにポンメル部分の青い宝石を掲げた。


「出て来ないなら出て来てもらえばいいじゃないか。」


口の端をニヤリと上げたグリフィスが岩の上のあたりの崖に向かってトルネードを放つ。


“ドコーーーーーン”


大きな音とともに落石が発生し、大小さまざまな岩が次々と岩陰に落ちていく。

岩陰から飛び出てきたのは二人にとっては意外な人物であった。ボロ雑巾のようになっているありすである。落石から身を守るように出てきた姿は遠目で見ても哀れなものだった。それでも剣を構えグリフィスたちを牽制している。


「ま、まさかあの女か?」

「いや~、アリスちゃんじゃない!今までどうしてたんだい?ダニーは一緒かな?」


アリスに近づこうとするグリフィスをドナシアンが止めた。

軽く首を横に振り自分が向かうと目で合図しその場を離れる。次の瞬間もうありすの目の前に立っていた。


「いょう、久しぶりだな、女。ここまでどうやって来たんだ?それ、ダニーの剣だろ。殺ったのか、ダニーの奴をよぉ!」


剣を抜きありすに向かって斬り上げてきた。

一刀目をなんとかかわしたありすにドナシアンは歓喜の声を上げる。


「やっぱ隠してやがったな、はははは!お前、ちょっとは出来るんだろ、へっへっへっ。手加減してやるから、かかって来いよ!」


振り下ろされる剣に重みはないものの、かなりスピードのあるドナシアンの連撃にありすは喰らい付くのが精一杯だった。

剣先を追うのに必死なので声も出ていない。対してドナシアンは余裕の笑みでありすの太刀筋を観察している。もう十分だと思ったのかありすの横っ腹に痛烈な蹴りを入れた。ありすの身体は綺麗に弧を描いて焼け焦げた地面まで吹っ飛んだ。


「ぐっ。」


肩を痛めたのかありすが短くうなる。

それでも何とか立ち上がろうと上体を起こしているところに今度は腹を蹴り上げられた。


「ガハッ!」


ありすは赤黒い血を吐き腹を押さえながらも剣だけは放していない。

“見上げた根性だな“と言わんばかりの目でドナシアンは唾を吐く。


「おい、グリフィス!この女、ダニーの剣と例のポーチ持ってるぞ!」

「なんだって?!」


ドナシアンの報告に前のめりになったグリフィスはたたらを踏んだ。

罠の存在が怖かったのだろう。うずくまるありすのウエストポーチを遠目で確認する。見覚えのあるウエストポーチだ。被せ部分に独特の模様が縁どられている。


「、、、、アリスちゃん、一番やっちゃいけないことしたねー。」


爽やかな言い方をしているが握りしめた剣のグリップがギチギチと音を立てている。

相当頭にきているのだろう、無理をしてぎこちない笑顔を貼り付けているグリフィスには王子様のような面影はなかった。


「や、やってない。うぅぅ、落ちて死んだのよ。落ちた場所でダニーは既に死んでたの!し、仕方がないから、身を守るものがないから、だからダニーから取っただけよ!私は殺してないわ!」


口を拭い這いつくばった状態で痛みを堪えながらもありすは懸命にダニー殺しを否定する。

ダニーの頭部を叩き潰しはしたが、それはダニーが死んでからだ。殺した事にはならないだろう。再びありすの脳内にSE音が鳴りはじめる。


「、、、だってよ。グリフィス、どうする?」

「どうって、考えればわかるだろ。ポーチとアリスちゃんの命、どっちが大事かなんてさ。」

「だろうな。って訳だ。魔法の使えないデリヘルには死んでもらうしかないなぁ。ただ殺しても芸がない、じわじわ痛めつけるとするか。簡単に死ねるとは思うなよ。」


剣を握っているありすの手を思い切り踏みつけた。

ありすは低いうめき声を上げる。脳内では次第にSE音の激しさが増しているようだ。


(冗談じゃないわ!何で私の命がポーチより軽いのよ!こんな近くに居られたらどう考えても逃げられない。魔物じゃなくて人よ、殺すなんて無理!このままだと絶対に助からないわ。どうしよう、どうしよう、どうしよう、、、、、)


ありすは必死でドナシアンから距離を取ろうと匍匐前進している。

グリフィスはそんな様子を薄ら笑いで眺めていた。


「まず手始めに、その手癖の悪い腕を斬り落とすか、あぁ?そんな手は斬り落とされても文句は言えねぇよなぁ。ダルマにしてから犯すのもアリだぜぇ。」


ドナシアンはトントンと剣身の腹を掌に当て、ねっとりとした目つきで舌なめずりをしながら剣を振り上げた。


“ドゴゴゴォォォォーーーーーーーーン“


その時大きな地鳴りと共に向こうの天井が落ちてきた。

上層階で落盤が発生したのだろうか、巨大な岩が次々と落ちてくる。ちょうど焼け焦げた地帯の中ほど辺りだ。落盤により巻き起こった土埃が辺りを覆う。

グリフィスとドナシアンは突然の衝撃に身構え、ありすは顔を伏せた。土埃で視界がどんどん悪くなる。


「くそ、何なんだ!上の階で罠が作動したのか?」

「チッ!この感じだと落とし穴だろうよ。しっかし、埃で周りが見えねぇ。グリフィス、動くんじゃねーぞ!」


いきなりの落盤に驚く二人はありすを気にかけていない。

ありすはゆっくり匍匐前進を続け、土埃が目に入らぬよう薄眼で辺りを見つめた。もうもうと土埃が舞う中、ありすには壁や岩、罠、二人の位置まで全て見えていた。落盤現場の方へと目をやる。


(あ、あれは!もしかして、、、)


落ちて重なる岩の上に誰かがいるのが見えた。

この土埃で視界が悪いせいだろう、他の二人には見えていないらしい。しかしながらありすにははっきりと見えている。大粒の真珠のような涙を流し、声を限りに叫んだ。


「クラウン!助けて!」



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