万事屋じゃねぇんだ
翌朝、クラウンたちが朝食を摂っている個室にアードルフが入ってきた。
急いで来たのか息が上がっている。神妙な面持ちでクラウンの傍に跪き頭を垂れた。
「すみません、少しお耳に入れておきたいことが。」
「なんだ?言ってみろ。」
クラウンが手を止めアードルフを促した。
「昨夜、イザベラさんが亡くなりました。」
アードルフの報告にクラウン以外も食事の手を止めた。
クラウンの眉間に皺が寄る。
「死因はなんだ。教会内でか?」
「はい、自室で毒を含んだ状態で発見されました。部屋には割れた陶器が散らばっておりまして、隣の部屋にまで割れた音とイザベラさんの喚き散らす声が聞こえていたそうです。」
毒を飲んだと聞いたセレマは苦い顔をして舌を出している。
スバルもありすと顔を見合わせて眉を顰めていた。そんな中、ボルボは顔色一つ変えないで齧ったパンをアードルフに向けた。
「そりゃ大金持ちの婚約者が捕まってどうしようもなかったら自殺するしかねぇんじゃねえか?生きてたって仕方ないだろ?婚約者が犯罪者だったってだけで本人もそういう目で見られるんなら、まともに暮らせねぇわな。」
そう言うと、手に持ったパンをスープに浸けて豪快に頬張った。
そのまま一人ガツガツと食事を再開している。もう話は終わったと言わんばかりの態度にアードルフは怒りを覚え、拳を握りしめた。
「で、アードルフは俺がソナーズ商会の息子をブチ込んだことで間接的に追い詰めたって言いたいのか?」
不機嫌そうなクラウンの声がアードルフを正気にさせた。
アードルフを見るボルボは薄ら笑いを浮かべている。アードルフはそんなボルボをひと睨みするとクラウンに対して深々と頭を下げた。
「いえ、滅相もございません!私は自殺以外も視野に入れております。うまくは言えませんが、色々な出来事が絡み合っているように思えますので引き続き調査をしクラウン王子殿下にご報告をと考えております。」
「わかった、下がれ。」
ドアの前で恭しくお辞儀をするアードルフをボルボが蔑むような眼差しで見ている。
アードルフが出て行くとボルボは大袈裟なため息を吐いた。
「はぁ~あ、もう巫女頭でもない奴が死のうが俺たちには関係ないだろ。万事屋じゃねぇんだからよ。クラウンもあんな話に耳を貸すなよな。それよりか早いとこ次の街に行こうぜ。ラズ地区最大の色街なんだしよ。」
机に肘をつきながらクラウンの方を見たボルボは不自然なほど機嫌がよかった。
その様子はまるで話題転換に必死なようにもとらえられる。もしくはまた個人行動をしようという魂胆なのだろうか。色街と聞いて、ありすは露骨に渋い表情をし、セレマは顔を赤くして俯いている。スバルはまたかというように眉を下げた。
「おいボルボ、遊びに行くんじゃないんだぞ。エルダーに着いたらまず冒険者ギルドに向かうからな。それから宿を探して、領主の屋敷に顔を出す。」
「げっ、先にあの女に会いに行くのかよ。お前も物好きだな。俺はパスするぜ。用事が済んだらどっかで落ち合おうや。」
そしてボルボは先に箱馬車の停車場へ向かうと言って席を立った。
身勝手なボルボにさすがのクラウンもムッとしている。
「ねぇクラウン。そう言えばこの街には領主の代行とかいないの?前の街だったらそういう男爵いたわよね?ちょっと街の苦情が近衛に行くのはおかしいと思うんだけど。」
先程のクラウンの発言に対して疑問を持ったありすが口を開いた。
「ああ、その件も含めて次の街エルダーでコトネン伯爵に話をするつもりだ。大した仕事もしていない男爵は何人かいるはずだからな。」
「よくそれでやってこられたわね。仕事がちゃんと回ってないんじゃないの?」
呆れたありすは頬杖をつき、クラウンに向かって軽くため息を吐く。
「今までは数か月に一度はコトネン伯爵自らがローワンに出向いて対応してたんだ。だが少し前に体調を崩したみたいでな。今は息子が代行してる。だがこの様子だと追いついてないみたいだな。とにかくコトネン伯爵には直接話をしようと思う。他にも領地内での出来事など詳しく聞かなければいけないからな。」
クラウンはコップの水を飲み干すと、話を切り上げ会計に向かった。
ありすは複雑な表情をしている。そして席に着いているスバルに愚痴をこぼした。
「ねえ、これってさ、絶対に後から私だけ派遣されてさ、テコ入れしろって言われる案件じゃない?だいたいさ、いかがわしい街に領主がいてさ、国宝がある街に領主代行もいないっておかしくない?」
「あり得なくはないね。アリスちゃんのスキルをマスターも知ってるんだったら、その可能性は高いかも。」
申し訳なさそうな顔でありすに答えるスバル。
「そんなこと言わないでよ~、スバルさ~ん。」
ありすはものすごく嫌そうな顔をして机に伏せてしまった。
明日も投稿します。




