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お前の憶測

ボルボは聖堂内の私室に籠るイザベラを何とか説得し終えると、クラウンたちの後を追うようにしてなんとか中庭に辿り着いた。

あちらこちらでお祝いムードの信仰者が話をしている。もうこの辺りには三人の姿は見当たらなかった。居ないのを確認しながら教会建物の廊下に差し掛かるボルボに後ろから声を掛ける者がいた。


「ボルボ殿、少しよろしいですか?」


真新しい服に袖を通しているアードルフである。

襟元には警護団長の証が、腕には赤色の警護団の腕章を付けていた。絨毯の通り抜けも終わったようで、傍には巫女頭の姿も見えない。ボルボはイザベラの説得にだいぶ時間をかけてしまったようだ。


「おお!警護団長直々に声を掛けてもらえるなんて、ありがたいねぇ。おめでとうでよかったか?」

「ええ、光栄に思っています。あの日から気になっていたことが警護団長の任を受けて少しずつわかってきましたしね。」


アードルフはわざと含みのある言い方をした。

しかしそう簡単にボルボの顔は崩れない。貴族特有の笑顔の仮面を着けたままだ。そんなボルボにアードルフは更に切り込んだ。


「ボルボ殿はあの日の深夜に巫女頭と面会されていますよね?」

「なんだよ突然。巫女頭は月籠り中だったろ?会えるわけねぇじゃねぇか。」

「聖堂には隠し通路があります。そこを通ったのではありませんか?」

「隠し通路?何のことだ?」

「ボルボ殿は団長を務められていたのですからご存じのはずですが。」

「ああ、悪りぃな。お前と違って俺はまともに団長してなかったからよ。知らねぇわ。」


ボルボはおどけた口調で手をひらひらとさせている。

相変わらずニヤケた口元で、アードルフの問いに対する返答が嘘か本当かわからない。


「そうですか。炎の印をイザベラさんに届けた際にボルボ殿のお名前が出たので、てっきりお会いしていたのかと思いましたよ。月籠り中のイザベラさんは王子殿下ご一行がこの街に来たことを知らないはずですからね。」


アードルフはイザベラに炎の印を返した時にボルボの名前が出たのを記憶している。


「そんなの、俺たちが出かけた後に近衛の誰かがイザベラに話したか、近衛たちの会話を聞いて知ったんじゃないのか?決めつけるには根拠が足りなさすぎると思うぜ。」


ボルボの回答はイザベラとほとんど変わらない。

何故ボルボが来ていることを知っているのかイザベラに問い質すと、近衛が話しているのを聞いたと言っていた。念のためアードルフは近衛にそのことを確認したのだが、扉前で話したかもしれないと返答されたのだ。

少し詰まった感じのアードルフを見てボルボは口の端を吊り上げる。

ここで引き下がるわけにはいかないとアードルフも食い下がった。


「そう言えば、あの日王子殿下の元に報告を上げに行った近衛が突然辞めてしまいましてね。」

「そりゃ残念だな。ここは面白くないだろうから、そういう輩も一定数いるだろう。巫女頭が交代したのを機に辞めたんじゃねぇのか?」

「それが、我々が坑道に向かった直後に自室に退職届を置いて姿を消したようなんですよ。狭き門をくぐってきた近衛がとる態度ではないと思いませんか?しかも大金を手にしたから働かなくてもよくなったと同室の者に話していたらしいのです。」

「へぇ~。で、それが俺とどう関係があるってんだ?」


ボルボは改めてアードルフに向き直り、腕を組んで不敵に笑っている。

動揺すらしないボルボにアードルフも強気で持論を展開した。


「イザベラさんに会うために彼を買収したんじゃないんですか?そしてサリアさんをベア観光坑道に向かわせるようにイザベラさんを焚きつけた。月籠り初日の最終門番は彼でしたし、早朝に教会近くで貴殿に似た人物と彼が話していたという目撃証言もありましてね。ついでに王子殿下に炎の印の事もリークするよう示唆したのでしょう?」


目撃証言があると聞いたボルボの表情が少し変わった。

アードルフを探るような目をしている。その機微な変化を見逃さなかったアードルフはここぞとばかりに捲し立てた。


「そして貴殿の真の目的はトレードでアリスちゃんを追い出すこと、違いますか?魔族嫌いの貴殿ならあり得なくはないでしょう。それによりよい駒を揃えられるのなら一石二鳥ですものね。これは秘宝を絡めた立派な犯罪ですよ。」


一瞬の沈黙の後、ボルボは腹を抱えて笑い出した。


「ハーッハッハッハッ!導き出した答えがそれか?お前、頭大丈夫か?」


アードルフに近づいたボルボはニヤニヤしながら顔を覗き込んでいる。


「確かにその日は宿には帰らず外で飲んでたな。仮に俺がイザベラと会って、近衛を唆したとしてよ、そこまでして自分の大将を不利な状況に持っていくと思うか?こっちはな、命懸けで従者やってんだ。」


ボルボは低く威圧感のある声でアードルフを睨みつけた。

腕に覚えのあるアードルフですらすくんでしまうようなそんな雰囲気を纏っている。


「、、、、それは。それは第二王子との勝負に勝算があったからでしょう!だが負けてしまった。セレマ君の魔法攻撃は誰もが予想できませんでしたからね。だから貴殿はあの時みっともないくらいに狼狽えていたんじゃないですか?」


アードルフも負けじと必死で声を張っている。

それを聞いた周りの信者たちが遠巻きにちらちらと二人の様子を窺っていた。気付いたボルボは騒ぎになるのはマズいと思ったのかアードルフの首に腕を回し小声で囁いた。


「全てはお前の憶測にすぎねぇんだろ?確固たる証拠がなけりゃ、笑われるのはお前なんだぜ。そんな訳わからねぇことに頭を使うんだったらよ、この街がよりよくなるための事を考えた方がいいと思うけどな。」


そう言って軽くアードルフの胸の辺りを叩くと、ボルボは振り返りもせずに手を挙げて教会入口の方へと歩いていってしまった。

残されたアードルフは足元を見つめながら拳を握りしめ、固く口を結んでいた。



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