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そんな訳ないでしょ

なんなの?このデブ。

フィアンセ、フィアンセ連呼してさ。女が呼んでるから安心するとでも思った?それに自分にはフィアンセがいるから清廉潔白ですって臭わせがウザいのよね。

そんな訳ないでしょ!もう顔見たらわかるわよ。悪い顔してんじゃん。

挙句の果てに私がセレマに付き纏ってるですって?

どこをどう見たらそうなるのよ。私も王子殿下ご一行だっちゅーの!

もしかして私だけ連れて行かれなかったから部外者だと思われてる?

失礼しちゃうわ!


でもこれは黒マントに似てることを理由にして絶対に私を連れ去ろうとしてるわよね。

もしかしてこいつは人身売買組織のチンピラなのか?だったら叩き潰しちゃっていいよね?気は乗らないけど、あんたの小芝居には乗ってあげようじゃないの。


私は仕方なくこのデブの後ろについて歩いた。

フロントの方で腹黒がずっとこちらの様子を窺っていたので軽く手を振っておいた。恐らく腹黒はこの状況を分かっているのだろう。目と口の端が笑ってるもの。まあいいわ、万が一の時の保険とでも思っておきましょう。


表に出ると、これまたいかにもSPですっていう風貌の男が二人近づいてきた。

なんなの?マフィアなの?武器は持っていなさそうね。腕っぷしが強いのかしら。男たちは私を挟むような感じでピタリとマークしてきている。


「そいつらは気にしないでくれ。これだけ人が多いとぶつかってきて難癖付ける奴がいるから警戒してるだけだ。」


はぁ、そんな訳ないでしょ。

だってちょっと他の人が距離取ってるじゃない。難癖付けるのはあんたたちなんじゃないの?もしやこの界隈では有名なチンピラだったりする?


宿屋から少し離れた路地裏に連れて来られた。

そこには豪華な馬車が停まっている。その傍にはやけに風通しの良い服装の女性が二人立っていた。女を侍らせてるわけ?この見た目で?まあ個人の自由ですから口出しはしませんけど。

さてどこに連れて行かれるのやら。


「馬車に乗らないといけないほど遠いのですか?やはり話ならさっきの喫茶でよくないですか?」

「これは俺の仕事用の馬車だ。歩いていってもいいが疲れるだろ?」


そうよね、あんたみたいな体型だったら歩くの大変そうだもんね。

でもこのオネーチャンたちはなんなの?ものすごく嫌そうに突っ立ってるじゃない。きっと無理矢理こんな格好させられてるんだろうな。悪趣味な男だわ。


馬車に乗ったのは女性だけだった。

あのSPどもは別行動なのかしら。隣に座るように言われたが頑なに拒否してやった。その代わりにオネーチャンたちが餌食になっていたのだが私が庇ってあげる義理も無いので好きなようにさせている。チンピラデブは目の前でやたらとイチャついているのだが、気持ち悪いことこの上ない。まさかこっちがムラムラするとでも思ってるのかしら。ある意味目に毒なので窓の外に視線を外す。裏路地を出て曲がるときにクラウンの姿が見えた。





移動中フル無視を決め込んでいたら、いつの間にか話しかけられなくなった。

馬のいななきと同時に馬車が停まる。この御者は運転へたくそだったわね。それに豪華な馬車の割りにはクッションがよくない。まあチンピラデブくらい肉厚なら大したことはないのかもしれないけど。


「着いたぞ。」


チンピラデブは私やオネーチャンたちを押しのけて我先に降りて行った。

ほんと態度悪くない?後ろから蹴飛ばしたい衝動をぐっと堪えた。オネーチャンたちは降りないのね。やはり私だけをここに連れ込みたいわけか。


なんだか怪しげなクラブのような建物だ。

窓なんかには新聞紙のようなものが貼られていて中が全く見えない。入口に立っているサングラスを掛けた厳つい男性がドアを開けた。耳によろしくない不快な音楽と変な臭いが押し寄せてくる。立ち止まってしまった私の背中をグラサン男が店内へと押し込んだ。


店内はもっと最悪だった。

変な薬を鼻から吸引しているやつや、本意か不本意かはわからないが夜の営みを行っているのもいる。当人同士が喜んでいるのはいいとして、見るからに犯されてそうな人もいるじゃん。やっぱそういう所だったか。


「趣味の悪い店ね。音はうるさいし臭いし。こんなところを選ぶなんて、あんたの服と一緒でセンスないのね。」


大音量の音楽の中、ありったけの声を張り上げてチンピラデブに言ってやった。

チンピラデブは一瞬だけ目を見開き肩眉を吊り上げたが、すぐに大きな声で笑い出しサッと右手を挙げた。あれだけうるさかった音楽がピタリと鳴り止む。その代わりに男の呻き声や女の喘ぎ声があちらこちらから聞こえてきた。


「これでいいか?そんなにエロ声が聞きたいとは思わなかったぜ。ははははは!」


チンピラデブが笑うと仲間や取り巻きたちも次々と笑い声を上げた。


「ここまで来て聞くのもなんだけど、これって私を騙したってことでいいかしら?」

「えらく肝が据わってるじゃないか。だいたいの奴はこの光景を見て怯えるんだがな。ああ、そうだよ。こんなに簡単に釣れるなんて思わなかったぜ。あんな金髪野郎よりもっともっとかわいがってやるからよ。」


チンピラデブはそう言って私のフードを取った。

周囲からはどよめきが聞こえる。その反響に気分良くしたのか、チンピラデブは私の髪をすくい上げ、大きく深呼吸しながら匂いを嗅いでいる。


「サリアもエリックもいなくなっちまってよ、俺は怒りを覚えたね。むちゃくちゃに壊してやりたかったのに勝手に死にやがって。二人とも俺のお気に入りだったんだぜ。三人でヤリまくるのが夢だったのによ。」


悔しそうに話しながらも匂いを嗅ぐのは止めない。

あろうことか反対の手は自分の股間を押さえている。ああ、チンピラデブ(こいつ)は両方いける口なのか。サリアと黒マントに手を出しててオネーチャンたちも摘まんでいるとなると、これはもうただ単に性欲が強いだけでしょ。穴があったら何でも入れたいってやつね。


「でもそんなことどうでもよくなるくらいにお前を抱きたいんだ。」


キモ―――――!!

両手を上げて襲い掛かってくるチンピラデブに思わず上段蹴りかましてやりましたよ!チンピラデブは横に大きく吹っ飛び、手前の机や椅子を壊しながら転げまわっている。パンチでもよかったけど、もう触るの嫌で嫌で。帰ったら絶対にシャンプーしよっ!


「クラウン!そこで聞いてるんでしょ?早く入ってきてよ!じゃないとこいつら皆殺しにしちゃうわよ!」


私はいつまで経っても入ってこないクラウンに腹を立てて、入ってきたドアに向かって大きな声で叫んだ。



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