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フィアンセ

イーサンは何とか人混みを抜け、教会前の噴水まで辿り着いた。

息を切らせながらシャツのボタンを外し、噴水の縁に腰掛ける。額には玉のような汗が滲み出ており、きっちりと撫でつけた髪からも汗が流れ落ちてきていた。すると横からそっとハンカチを持った手が伸びてきてそれを拭い取る。また反対側からはカップに入った冷たい飲み物を持った手がさっと出てきた。イーサンはそのカップから出ているストローをズルズルと音を立てて啜っている。その間も甲斐甲斐しく汗を拭かれていた。

イーサンの両端に座ったのは召使の二人の女性だった。纏っている服の布面積が異常に少ない、まるで踊り子のような衣装の彼女たちは親の借金のかたとして働かされている者だ。


「あー、あちい。しっかし馬車乗り入れ禁止って何考えてるんだ、イザベラは。」


イーサンは恨めしそうに教会の門を眺めながら、両サイドの女性の腰の辺りを弄っている。

女性たちは苦悶の表情を浮かべながらも自分たちに与えられている仕事をこなしていた。そこへ手下の男たちがやってきて、イーサンの前に跪く。


「若旦那、お疲れ様です。例の女ですがムクゲ亭に泊まっているようで、今は喫茶で茶を飲んでますね。俺たちが攫ってこなくてよかったんですかい?」

「おい、声を落とせ、馬鹿野郎。」


イーサンは顔を歪めながら短い足で手下の脛を蹴った。


「ムクゲ亭か。エリックが泊ってた宿と同じなんて笑えるじゃないか。まあここは俺が紳士的に誘い出すからお前らは手を出すなよ。ただでさえギャラリーが多いんだ、穏便に事を進めないとな。」


そう言って重い腰を上げると、のしのしと身体を揺らして宿屋通りへと歩いていった。





ムクゲ亭の喫茶ではクラウンの帰りを待つありすがアイスティーを飲んでいる。

教会に入れなかった人たちが喫茶にはちらほらと座っているだけで、いつもよりは客が少ない。客同士の話し声も小さく、穏やかな時間が流れていた。


「はぁぁぁ、暇だわ。出来るものならもう一回部屋に戻って寝たい。」


ありすは透明な氷をストローで突きながらため息を漏らしていた。

念のためクラウンについてこいと言われてもいいように準備していたのだが足を理由に明確に居残りを命じられたのだ。鍵を返却してしまった手前、もう部屋には戻れない。クラウンもチェックアウトの手続きをしていたはずだ。

そんなありすを宿屋の入口から確認したイーサンは襟を正し出来るだけ自然に近づいた。


「昨日は悪かったな、本当に知り合いに似てたんだよ。そのことをフィアンセに話したら是非とも会いたいって言ってんだ。ちょっと付き合ってくれないか?」


そう言って断りもせずありすの正面に座り、置いてあったありすの水をあおっている。

その一連の動作を見たありすは不快な表情を顕わにした。


「どなたかは存じ上げませんが、私、待ち合わせしてますので。」

「あんたの連れには話を通してあるって。」

「どういう事でしょう。」

「アレだろ、金髪パーマの男だろ?そいつにも場所は伝えてあるんだ。追悼式が終わったら来るってよ。」


イーサンは短い足を精一杯伸ばして足を組んだ。

落ちてきている前髪を掻きあげて、ありすに流し目を送っている。冷めた表情のありすはいくつかイーサンに質問を投げかけた。


「私に似ている方とあなたやフィアンセとのご関係は?」

「まあ子供のころからの知り合いだな。よく遊んでやった仲だ。俺のフィアンセはこの就任式で退いた巫女頭だ。孤児院でもヤツと顔を合わせているからな。」

「どうして他人の空似の私と会いたがるんですか?本人を探した方がよっぽど実りあるものになると思いますけど。」

「昨日、あんたが立ち去った後に近衛から聞いたんだよ、死んだって。だから余計にフィアンセもあんたに会いたいんだろうな。着いてきてくれるよな?」


つらつらと答えを返しているイーサンだが、少し芝居臭い身振り手振りが鼻につく。

ありすは何か考えているようにアイスティーの氷を見つめていた。


「心配いらねぇよ。あんたがコソコソとあの金髪に付き纏ってるのは王子には内緒にしておいてやるからさ。」


イーサンはテーブルに覆いかぶさるようにしてありすに顔を近づけ、小さな声でそっと囁く。

驚いた顔のありすを見て勝ち誇ったように口の端を吊り上げると、ありすを宿親の外へと誘い出した。



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