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就任式

アードルフがサリアの遺品を持ち帰った翌日、聖堂では厳かに新たな巫女頭の就任式が執り行われようとしていた。

たくさんの人で埋め尽くされており、開け放たれたドアの外まで溢れかえっている。新しい巫女頭を一目見ようと集まった信仰者や観光客で教会内や敷地はどこもごった返していた。

聖堂中央の通路には赤い絨毯が敷かれており、中庭を通って教会の建物廊下から入口まで続いている。ポールパーテーションによって仕切られているその上を新しい巫女頭と教会警護団長が並んで歩くのだ。


しばらくして祭事用の巫女服を纏ったイザベラが祭壇前にしずしずと現れた。

ざわついていた聖堂が一気に静まり返る。


「みなさま、お待たせいたしました。私、イザベラは次期巫女頭にジュディーを指名いたします。ジュディー、こちらに。」


イザベラと入れ替わるようにして壇上の黒檀で作られた巫女台に立ったジュディーの姿を見て、観光客は歓声を、信仰者は祈りを捧げている。

周りに見えるようにしてイザベラはジュディーに炎の印を手渡すと再び言葉を続けた。


「本来ならサリアが巫女頭になっていたはずです。でも残念ながらベア観光坑道で命を落としてしまいました。サリアは命懸けでベア観光坑道に安らぎをもたらしたのです。彼女の炎を絶やさないためにもより一層の祈りと坑道内の定期的巡回を行いたいと思います。ジュディーがその役目を果たしてくれると私は信じています。新しい教会警護団長アードルフと共に!」


聖堂の内から外から割れんばかりの拍手が巻き起こった。

壇上に立っていたアードルフは聴衆の前で一礼するとジュディーの手を取り壇上を降りて赤い絨毯の上を歩き出す。二人は大勢から祝福の言葉を受けながらも前へ前へと進んでいった。

それを見送るイザベラの隣にイーサンが並び立つ。


「ねぇ、イーサン。式はいつ挙げるの?どれくらいの規模で行うのかしら?私、あなたの屋敷でガーデンパーティーがいいわ。」


イザベラはイーサンに腕を絡ませ、ねだるような上目遣いをしている。

来賓席に座っているクラウンたちは放置されたままだった。


「今じゃなくてもいいだろ。野暮用が入ってるから俺はもう行くぞ。」

「ええ?待ってよイーサン!やっと結婚出来るのよ、もっと真剣に考えてよ!」


イーサンは引き留めるイザベラに軽く手を振って、巨体を揺らしながら人混みを押し分けて消えていった。

こちらもクラウンには挨拶なしだった。ボルボが立ち上がりイザベラに声を掛ける。


「前途多難だな、イザベラ。せいぜい頑張れよ。」

「うるさいわね!」


本来ならこのタイミングでサリアの追悼式を進める予定だったにも拘わらず、イザベラは巫女頭の私室に姿を消してしまった。

それを見たクラウンとスバル、セレマは唖然としている。さすがのボルボもクラウンの顔を見てお手上げのポーズを取った。サリアの追悼式のために残った者は皆一斉にどうなっているのかとヒソヒソ話をし始めている。聖堂内が騒めきに包まれた。


「あの姉ちゃん、やる気なさ過ぎだろ。」

「マスター。さすがにこれはマズいんじゃ、、、。」


苦笑いのセレマに気が気ではないスバル。

まるで今の会場の動揺を表しているかのようだ。巫女たちが慌てて私室前に集まっている。


「ボルボ、なんとかあの女を引き摺り出してこい。」


ため息を吐いたクラウンは遺体の入っていない棺に頭を下げると、そのまま聖堂を後にした。



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