私が最年少ポジション
なんだか今日は腹黒の様子がおかしい。
おかしいというか、元に戻ったというか、ここで会ったときの刺々しさが全く感じられないのよね。頼んでもいないのに起こしに来てくれたし、装備まで“直しておきましたよ”な~んて甘い声で言うものだから、警戒度マックスだった私は余計に調子抜けしてしまったのよね。ほんと、どうしちゃったのかしら。
あのつけ狙うようなねっとりとした視線ではなく、絵に描いたような執事の笑みを返されたときはドキッとしたわよ。まあいつもの腹黒って感じでよかったっちゃーよかったんだけれども。もしや、前の時みたいにあの支配人が抹殺されたとか?考えたくもないわね。
でも装備を修復してくれたのはありがたい。
クラウンに直してなんて言えないもの。それに見合った働きができてなかったと思うしさ。きっと腹黒も私がうろつくこと前提で装備渡してるわよね。絶対に私たちが揉め事になるのを願ってるんだわ。だって私のお願いをクラウンが渋っていたのを知らないわけないもの。
昨日の夜、アードルフさんが帰った後にクラウンに相談したらめちゃくちゃ嫌な顔をされた。最後には“自分の責任は自分で負えよ”って言ってくれたんだけど。
考えても仕方ないので取り敢えず教会に行きますか。
この時間ならまだアードルフさんも出掛けてないだろうし。
姿見鏡で服装をチェックしてドアを開けた。
「アリス!頼む!助けて!」
いきなり転がり込んできたのは昨日の天使ちゃんだ。
えーっと、セレマだっけ。どんだけ慌ててるのよ。って言うか、ベッドの下に潜り込んじゃったんですけど。
全開になったドアの向こうから嫌な声が聞こえる。
「おい!セレマ!ったく、どこ行きやがった!」
イケてると思ってるオッサン登場だわ。
うわ~、目が合っちゃった。舌打ちしてる~。せっかく今日は自室で朝食を摂って顔見なくてラッキーだと思ってたのに。
「おい、魔族女。セレマ見なかったか?」
お?珍しくそっちから話しかけんじゃん。
口のきき方なってないけどね~。あと、その呼び方どうにかならないの?ありすって名前があるんですけど。呼ばれたくないけどさ。
「おはようございます。見なかったわよ。今ドア開けたばっかだから。」
絶対に挨拶はする。
社会人なら挨拶は基本だって言ってるでしょ。その上で嘘を吐くんだけどね。なんでそんなに睨むかなぁ、君は。
「くそっ、逃げられたか。しゃーねぇ、スバルでも連れ回すか。で、お前、歩けんなら身体売ってこいよ!ふらふら遊びまくってんじゃねーぞ。」
なにその言われ方。
遊んでないし、身体売らないし。ムカつかせキング決定だわ、この男。
「今日はリハビリで近衛の人たちと出掛けるのよ。無茶はしないけどね。」
「はっ、逆ハーってか?いいご身分だな。」
「とんでもないことでございます。」
くぅぅぅ、よく耐えた、私!
私の見事な営業スマイルにボルボも嫌気が差したのか、回れ右して下階に行ってしまった。
そっとドアを閉じ、もう一度部屋に入る。
「ちょっと、セレマ。どういう事?私、朝からあんな悪態つかれたくなかったんですけど。」
もそもそとベッドの下から這い出してきたセレマに小言を漏らした。
「だってさ、、、。あのボルボとかいうヤツ、ヤバくね?命がいくつあっても足りない気がする。」
「それな!」
思わず相槌を打った。
わかってるじゃん、この天使ちゃん。ここは一人でも味方が多いに越したことはない。スバルさんはなんだかんだ言って中立派だしね。でもセレマもいざ本人を前にしたら中立スタイルになるんだろうな~。なんかそんな気がするわ。
「アリスはどこか出かけるの?」
「ええ。アードルフさんと一緒にベア観光坑道に行くの。」
「え?何でまた?」
「巫女の遺留品を探しに行くんだって。」
「お、俺もついて行っていいかな?ボルボに見付かりたくないし。」
セレマは人差し指同士をつんつんしながら上目づかいで話している。
この仕草、癖なのかな?んーー、かわいくもキモくもないって、キャラとしてはビミョーじゃない?あー、でもどっちかって言うとかわいい部類に入るのかな。弟にしたいキャラって感じかな。
「ねぇ、セレマっていくつなの?」
「え、二十三だけど。」
「!!!」
に、にじゅうさん?
聞き間違えてないよね?童顔キャラか!どう見ても十五、六でしょ。ちょっと、運営さん!キャラ設定間違えていませんか?私と同じくらいの身長しかないし、どう見ても子供でしょ!もしかして神族は若く見える種族とかですか?予備知識がないからわからないんですけど!
だいたい私が最年少ポジションってどうよ。
うわ~、やりにくっ。まあ、普通に接しますけどね。最初は丁寧語から、打ち解ければタメ口で。今でも十分フランクに話してるつもりだけどさ。
「ガキに見えるって言いたそうだな。」
ギクッ。
若く見えることはいい事ですよ~。特に歳取ってからは武器になりますからね。多大な恩恵を受けている私だからこそそれはハッキリと言えますよ!
むちゃくちゃ嫌そうな顔で私を見ないでください。男性は大人びて見られたいのかもしれないけれども!
「全然そんなことないです、はい。私なんかまだ十七歳なんで。人生の先輩って感じで尊敬します!若輩者ですがよろしくお願いします!」
こんだけ持ち上げてあげたんだから許して。
セレマにもうそれはそれは折り目正しいお辞儀をしてみせた。
「これがミステリアスか?ちょっと変わってるの間違いじゃねぇのかな。」
腕組みをして何やらセレマがぶつぶつと呟いているけれども、全部聞こえてますよ!
ミステリアスって何よ。ちょっと変わってるって聞き捨てならないんですけど。
「とにかく私は出掛けますので。」
「待ってよ!ついて行くからな!」
どうしてもボルボに捕まりたくないらしい。
まあ気持ちはわかるから連れて行きますか。まずはボルボに見付からずに受付まで進まないといけないわね。さすがに【探索】してもピンポイントにボルボだとはわからない。この子、隠密系スキル使えるのかしら?




