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何かがある

バルカン団長は私に炎の印を預けると、片付けがあるからとさっさと執務室へと戻っていってしまった。

きっと次期団長のために私物の整理や引継書の確認をするのだろう。気の早い事だとは思うが、待ち望んでいたのだから無理もないかなとも思う。しかしバルカン団長はそんなに教会警護の仕事がお嫌いなのだろうか。確かに花形ではないが、私は国宝を護れることに誇りを感じている。皆は左遷だとか窓際だとか言っているが、前線の近衛だって毎日戦っているわけではない。そもそも今は穏やかな時世なので戦いに出ることもない。教会警護は城や国境の警備と何ら変わりはないと思うのだが。

まあ私の愚痴はこの辺にしておいて、炎の印をイザベラさんに返しに行こうか。


今日も普段と変わらず信仰者や観光客が教会(ここ)を訪れている。

今しがた見たトレードの様子が夢だったのではないかと思えてくるほどに穏やかだ。教会(ここ)が平和なんだと、ありふれた日常に安らぎを感じる。


「アードルフ様、ごきげんよう。」


すれ違う巫女たちに挨拶をされ、聖堂の入口に辿り着いた。

今朝の出来事があってからは中から鍵はかけられていない。その代わり警備の近衛を入口に配置しておいた。その近衛に声を掛け、中に入る。


早朝に籠っていた独特な臭いも消え、いつもの聖堂に戻っていた。

あれはイザベラさんの好みだったのかは知らないが、やはり聖堂では香を焚かない方がいい。何もしなくても心が落ち着く。

辺りを見回してもイザベラさんの姿は見えない。私室に入っているのだろうか。


「イザベラさん、ただいま戻りました!」


エコーがかかったように聖堂に声が響く。

少し声を張りすぎたか。私室のドアをノックすればよかったな。この場所にはふさわしくない音量だったと反省していると、奥にある私室のドアが開く音がした。


「大きな声出さないでよ!急に出て行っちゃうし、戻ってくるのが遅いじゃない!」


イザベラさんのキンキンとした声は私の比ではなかった。

普段は落ち着いた声の持ち主なのだが、今日はずっとこんな調子だ。お告げとやらを聞いてから様子がおかしい。

私はポケットからハンカチに包んだ炎の印を取り出し、腕を組んでこちらを睨んできているイザベラさんに見えるように掌の上で開けてみせた。


「あ!ボルボが持って帰ってきたのね!」

「え?今、何と?」

「な、何でもないわ、それよりサリアは?戻ってきたの?」

「いえ、亡くなられました。」

「そう、仕方ないわね。じゃあ巫女頭はジュディーでいいわ。」


イザベラさんは私から炎の印を奪うように掴み、さっさと自分の首にかけている。

今、ボルボ殿の名前を言わなかったか?聞き間違いではないと思う。何故イザベラさんが知っているのだろう。そして全くと言っていいほどサリアさんの事を気にしていないところが、ボルボ殿のアリスちゃんに対する態度と重なった。


「何よ。なんか言いたいことでもあるの?」


無意識にイザベラさんを見過ぎていたのか、彼女は不機嫌な顔をしている。

まさかとは思うが念のため確認はしておくべきか。


「どうしてボルボ殿の事を知っているのですか?イザベラさんは月籠りでこの聖堂からは出ていないはずですよね?」

「そんなの、近衛が噂してたからに決まってるじゃない。それより早く就任式の準備をしましょうよ。団長さんも心待ちにしてるんでしょ?私だって一刻も早く巫女頭なんて引退したいんだから。」


すらすらと答えているように見えるが、私はイザベラさんのギョッとした一瞬を見逃さなかった。

きっとこの二人には何かがあるに違いない。


「わかりました。ではバルカン団長とジュディーさんを呼びましょう。聖堂(ここ)での協議になりますがいいですか?」


私はイザベラさんに許可を取ると、すぐに二人を呼びに行った。



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