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どうしたらいいんだよ!

俺は第三王子の後にくっつくように無言で廊下を歩いている。

こういう時、何の話をしたらいいかわからない。初対面でもないけど仲良くもない相手は本当に困る。ガツガツ話しかけてもきっと迷惑に思うタイプだろうしな。

でもヤバいよな、あのボルボとかいうヤツ。俺を鍛えるとか何考えてるんだよ。剣術なんてからっきしなの、見りゃわかるだろうに。まあ攻撃魔法だってあの通りノーコンだし、役に立てる気がしねぇ~。のんびり日常生活送りたかったなぁ。なんで召喚されたのが俺だったんだろう。俺じゃなくてももっと他に適任者がいたと思うんだけどな。だいたいこれまでの神生で何かに当たった試しがない。こんな事で運を使いたくなかったよ。


階段を上って奥の部屋の前に着いた。

ここが第三王子の部屋か。心持ちドアが大きくていい素材な気がする。中に通されてソファーに座るように言われた。


何聞かれるんだろうな。

第二王子(マセラティ)には相手にもされなかったもんな。さっきみたいに冷たくあしらわれたら心折れそうだよ。第二王子(マセラティ)より厳しそうな顔つきだけど、まさかいきなり痛い目に遭うとかないよな?


俺は自分でも知らないうちに足を小刻みに揺らしていた。

ダメだ、ダメだ、こんな態度じゃ舐められてしまう。俺は神族なんだぞ!もっとでんと構えていたらいいんだ!ちょっと落ち着くために辺りでも見回すか。


しかしさすがに俺たちよりいい部屋に泊まってるな。

ソファーとかふかふかじゃないか。ベッドもデカすぎだろ。これぞVIPルームって感じだな。うちのお偉いさんたちも出先ではこんなところに泊まったりしてるんだろうな。

そういえば第三王子はどこに行った?もしかして、俺、また閉じ込められた?

勢いよく立ち上がった時にさっき入ってきたドアの方から第三王子が歩いてきた。

よかった、そんなことあるわけないよな。こいつは俺が神族だってわかってるもんな?だったらもっと丁重に扱ってもらわないと困るよ。


焦ったのを誤魔化すためにもちょっと軽く伸びをする素振りをしてみた。

第三王子には明らかにバレているとは思うが、それには触れずにもう少し待ってくれと言って向かいに座ってくれた。第二王子(マセラティ)よりはいいヤツかも。


相変わらず何を話していいかわからず無言でいると、廊下からカラカラとワゴンを押す音が聞こえてきた。

もしかしてって思った時にはもう遅かった。視界に入る自分の手に蕁麻疹が浮かび上がる。ドアを開けて入ってきたのはあの支配人だった。


「おや、これでも反応しますか。だいぶ抑えてみたんですが、やはり溢れ出る気高きオーラはどうしようもないみたいですね、ふふふ。」

「冗談も休み休み言え。邪悪さが漏れ出してるだけだろうが。」


なんだよ、こいつら。

知り合い以上なのか?やけに親しいじゃないか。ああ、痒い。痒いけどこいつらが気になる。俺は首元を掻きむしりながらも二人を見ていた。


「セレマ、お前が言ったようにコイツは魔族だ。それも飛び切り質の悪いな。」

「聞こえの悪いことを言わないでくださいよ。飛び切り品行方正な、の間違いなのでは?」


魔族と言われた支配人は穏やかに笑いながら机にカップを並べている。

微笑みだけなら大神官にも引けを取らない上品さがあるんだよな。顔もいいし。うちのお偉いさん方はだいたいがイケメンで性格が歪んでいる。きっとこの支配人も性悪に違いない。さっきも俺に嫌がらせ(ウインク)してきたくらいだしな。


でも一切魔族要素がないこの魔族はいったい何者なんだ?

人族擬態が完璧すぎる。普通は目や耳、歯、爪なんかうまく消せないはずだ。それほど高度な技術を持った高位魔族ってことなのか?第三王子に取り入って何かをしようと企んでいるとか?謎だな、警戒しておいた方がいいよな。


「聞いてるか?おい!掻きすぎだぞ、血が出てるじゃないか。」


第三王子に腕を掴まれた。

支配人(魔族)の事を考え過ぎて無意識に同じ所をずっと掻いていたようだ。爪の間に血が付いている。俺は無詠唱でヒールを掛けた。首筋のピリピリは治まったが痒いのだけは取れない。

参ったなと思いながら顔をあげると、二人から凝視されていた。


「お前、無詠唱で治癒が出来るのか?!」

「逸材じゃありませんか、おぼっちゃん。よかったですね。」


そこに食いつくのか?

それになんで支配人が同じソファーに座って茶を飲んでんだよ。


「これくらい、普通だろ。」


ちょっと恥ずかしいのもあって受け答えがぶっきらぼうになってしまった。

でもこんなことで驚かれたのは初めてだ。そう言えば他のみんなはいちいち詠唱してたな。カッコよく見せたいからだと思ってたんだけど、違ったのかな?

それにしても仲良しかよ、この二人。息ピッタリじゃないか。


「さっきはあんな態度を取ってしまって悪かったな。色々とこちらにも事情があってな、今なら何でも話せるから安心してくれ。その前に、ちゃんと王位継承の儀についての知識はあるんだろうな?この首輪の事も、俺についてる影の存在も知ってるよな?」


念を押すように第三王子が確認してくる。

逆に知らないヤツなんているのか?王子はいつでも見張られて盗聴されてるってことだろ?この大陸で唯一王位継承の儀を行っている馬鹿な人族国家が存在しているって習ったよ。まさか自分が召喚されるとは思ってなかったけどさ。


、、、、待てよ、だとしたら今だってその状況は変わらないはずだ。

王子が堂々と支配人が質の悪い魔族だって言っていいのかよ。なんでも話してくれっていうのって罠なんじゃないのか?言質を取られて永遠に奴隷のように働かされたり、犯罪に加担させられたりするんじゃないのか?俺、自国に帰れなくなっちゃうかも。一生こき使われて、寂しく一人で死んでいくんだ。


「その顔つきならわかっていそうだな。」


え?俺、そんなに顔に出てた?

第三王子はソファーに背を預けると、にこやかにお茶を啜り出した。どういう事だ?わかってるからこそ、こっちは焦ってるってんだよ!相変わらず支配人は読めない顔してるし、もうどうしたらいいんだよ!



お読みいただきありがとうございます。

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