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落ちたな

地下一階を探索して小一時間、グリフィスのイライラは頂点に達していた。

このフロアは少し入り組んでおり、地下二階へのセイフティールームが見つけづらい。予めマップに印を書き込んでいたのだが、そのマップはシモンが持ったままだった。書き込んだダニー自体も似たような通路が多くてわかっていない。その為かいつもより魔物との遭遇率が高かった。魔物の処理はグリフィスかドナシアンが行っている。二人は序盤なのに体力がかなり減ってきているようだ。


「おい、ダニー!何回同じところを通ってるんだ!早く見つけろよ!」

「同じとこじゃねーし!俺だってクソアマ担いでなきゃ、もうちとまともに探索出来らぁ!」

「だったら歩かせたらいいだろ、足があるんだから!」

「何度も言わせるな!おめぇらは俺の後に着いてくるのに慣れてるから問題ねーけど、クソアマはド素人だぜ。違うところ踏んでみろ、全員罠に掛かっちまってお陀仏だ!」

「なら、ドナシアンに持たせればいいだろ!」

「何かあった時にとっさに動けなくなるのはごめんだ。俺は嫌だね。」


ありすは今、ダニーによって担がれている。

本当の意味でお荷物状態にある。グリフィスもドナシアンも手がふさがるのを良しとしないため仕方なくダニーが担いでいる形だ。


(失礼しちゃうわね!ここまで嫌がられたのは初めてだわ。だったら置いてってくれたらいいじゃん!でもダニーって本当に罠が見えているのかしら。あの気持ち悪い目薬何よ?ホラーかと思ったわ。ぼんやりだったら私にもわかるんだけどあの二人はそれさえも見えてないの?)


担がれているのでずっと地面しか見てなかったありすは、ダニーが避けて通っている“何か”を何度も目にしていた。

朧気ながらではあるが円形のほわっとした光の放つものが見えていたのだ。微妙に色が違うし大きさも違うように感じていた。


「とにかくそこいらには罠がないようだから、休憩しようぜ。クソアマも頭に血が上ってんだろ。」


ダニーはありすを下ろすと首を曲げ肩をコキコキいわせていた。

周りを見ても同じような景色に他の二人はうんざりしている。解放されたありすは背伸びをし身体をほぐし始めた。


「女!動くんじゃねー!ちょっとでも妙な動きしてみろ。叩っ斬るからな!」


相変わらずドナシアンはありすに容赦ない。

ありすはジト目でドナシアンを見ている。信じられないとでも言いたげな顔だ。


「ああもう!ちょっとおめぇら二人で待ってろ。クソアマ担いでその辺見てくるわ。」


ダニーはありすをひょいと担ぐと来た時とは違う通路へ向かおうとした。

足元にナイフが飛んでくる。


「おい、待てダニー。女は置いていけ。こっちに渡せ。」


もう一本ナイフを構えてドナシアンが牽制する。


「はぁ?てめぇ、クソアマが逃げたらどうすんだ?闇雲に逃げられちゃ罠に巻き込まれるのはおめぇらなんだぜ!」


ダニーが足元のナイフを蹴り飛ばすと、落ちた先で広範囲に炎が上がった。

あの罠は踏めば焼かれるシステムのようだ。起動したタイミングは見られなかったものの、ありすにも炎の音と熱気は伝わっている。バチバチの二人に今度はグリフィスが仲裁に入った。


「もういいだろ、二人とも。こんなところで時間くってる暇はないんだ。いいか、トマホークのリーダーは俺だ。俺の言うとおりにしろ。俺とドナシアンはここで待機、体力を回復しておく。ダニーはその通路の確認だ。アリスちゃんを連れてってもいいがすぐ戻れよ。」

「へいへい、わかったよ。じゃあ、ちょっくら行ってくるわ。」


ダニーは回れ右をして手を振りながら歩いていく。

通路にその姿が消えるまでグリフィスは目で追っていた。完全にダニーの気配がなくなるのを確認してドナシアンに向き合う。


「おい、ドナ、【罠感知】のスキルを発動させろ。お前、確か持ってたよな。」

「なんだ唐突に!魔力が持ってかれるから嫌に決まってんだろ。レベルも低いから役に立たねーしな。」

「おかしいと思わないか?ダニーほどのシーフが地下一階で迷うと思うか?事前に地図も見てるんだ。頭に入っててもおかしくない。どうも怪しいニオイがするんだ。」

「まさか、考え過ぎじゃねーか?あいつ、ちゃんと魔物も避けて道選んでたと思うぜ。」

「そもそも、デリヘルを奪う計画はあいつが立てたんだ。転移装置といい、このダンジョンの情報源といい、他のAランカーとつるんでるのかもしれないんじゃないか?警戒するに越したことはない。マジでわざと罠を踏ませるかもしれないしな。」


グリフィスの目は真剣だった。

ドナシアンもありすの魔法が使えないという発言が引っかかっている。怪しんでいる点は違うものの要警戒ということで双方の意見が一致した。





二人を残してきたダニーは通路を抜け比較的広い場所に出た。

罠の数も少なかったので先ほどよりはスムーズに進めている。ナクラマダンジョンは罠にさえ気を付けていればAランクパーティーでなくても探索は可能だ。ただし地上階は魔物が密集しており、地下一階から四階までは普通ではありえない程の数の罠がある。魔物は最下層のダンジョンボス以外は回避できるが数が多いので広範囲の魔法や魔術でごり押ししながら、【罠探知】と【罠解除】のスキル持ちをパーティーに入れての攻略が定石となっている。おまけに地下一階が一番罠の多い階であり道も入り組んでいる最難所となっている。地下七階のレア鉱石以外にうま味のないこのダンジョンに潜る冒険者は少ない。どういう仕組みなのかわかってはいないがほとんどの罠は解除しても一定時間で再起動する。なので永遠に地下一階が最難所なのだ。


「ったく、やってらんねーぜ。」


ダニーは足元にある石を蹴飛ばした。

索敵しながら必死になってセイフティールームを探しているダニーに対して他の二人は感謝するどころか不平不満をこぼしている。ダニーはそれが気に入らないようだ。


「まさかこんなに罠があるとはな。てっきりアイツが盛った話かと思ったぜ。奪った地図も全然違うじゃないか!次顔見たら腕の一本でもへし折ってやる。」


トマホークがこの街に来てまだ一か月も経っていない。

最近になってここのギルドに異常なほどの高額報酬でナクラマダンジョンの鉱石採取が定期的に出るようになったのを知ったからだ。自分たちが潜るダンジョンについても詳しく調べていない。

腕は立つが素行が悪くパーティーから追い出された者たちの寄せ集めがトマホークだ。パーティーにも評価がつきもので、最低の評価しかされていないトマホークは異常な数のクエストをこなさないとAランクパーティーにはなれなかった。そこで彼らは各地を転々とし、高ランクパーティーに入っている最弱メンバーを獲物にした。ダンジョンの情報を強引に盗み、簡単にクエストを達成し、ようやく規定数に達した彼らはAランクパーティーになったのだ。ダニーが言う“アイツ”とは以前の街でカモったシーフのことである。


「だいたい、グリフィスも文句言い過ぎなんだよ。剣士は魔物を切るのが役目だろ。なんかあったら“リーダーリーダー”って、ざけんなよ!」


ダニーは壁際にありすを乱暴に放置すると、自分のベルトに手をかけた。

ありすはもう何度も放り投げられているので自然と受け身を取っている。


「もうここでヤっちゃおうぜ、クソアマ。クエスト完了してもどうせグリフィスが一番先だろ。たまには俺だって初物食いしたいんだ。今なら誰も来やしないって。」


ズボンを下ろしながら近づくダニー。

ありすはブーツに装着されている護身用の短剣を抜いた。


「来ないで!あんたの一物切り裂くわよ!!」

「いい根性してるねぇ。だが逃げようったってそうはいかないぜ。罠がどこにあるのかもわかんねーだろ?いいから壁に手をついてケツ突き出せよ。すぐ終わらせてやるから。」


いくらゲームだといっても人に対して刃物を向けるありすは手が震えていた。

ダニーはニヤニヤしながらありすに手を伸ばす。その瞬間、ありすの短剣がダニーの掌を切り裂いた。


「っ痛てぇな、クソアマ!」


ダニーは後ろへ飛びのいたが中途半端に下したズボンがあだとなって転んでしまった。

ありすは辺りを見まわし来た方向とは逆に駆け出した。


「おいおいおいおい、クソアマ!いい加減にしろよ!って、罠が見えてるのか?だったら追いかけっこからの正常位だな!」


ズボンをしっかりと穿きなおしてありすの後を追う。





足元を見ながらの逃走にありすは苦戦していた。

罠がまだはっきりとはわからない上に、重なっていたり連続して配置されてあったりして思うように走れない。息が上がり、気付いた時には行き止まりに入り込んでしまっていた。ダニーの足音がどんどん近づいてくる。不意にあのSE音がありすの脳内に鳴り響いた。


(どうしよう、もう引き返せないし。こんな短剣じゃ戦えないよね。そもそも人を刺すとかあり得ないよ、怖いもん。自害する?それはもっと無理。確か青いのが言ってたよね、自殺はダメだって。未遂に終わって植物状態になるって。じゃぁどうする?あんなのに犯されるのは絶対に嫌!考えろ、考えろ。)


短剣を握りしめ俯くありすにとうとうダニーが追いついた。

徐々に距離を詰めてくる。ダニーはシーフなので気配を消してありすに近づくこともできたはずだ。しかしそれをしなかったということはじわじわと恐怖を味わわせたいに違いない。弱者に対しての精神的な嫌がらせだ。


「もう追いかけっこはお終いか?そりゃ道がねーもんな。じゃぁ俺が押し倒してフィニッシュってことだよなぁぁぁ!」


ダニーは叫びながら猛ダッシュでありすに飛び掛かった。

さも悔しそうな顔をしているであろうありすの顔を覗き見る。恐怖で顔を引きつらせていると思いきや、あろうことか不敵な笑みを浮かべていた。ありすはダニーと目が合ったと同時に鳴り止まないSE音に負けないくらいの大声で言い放つ。


「二人そろってフィニッシュよ!」


ダニーの身体をがっちりときつく抱え込んだ。

なす術もなく二人は倒れ込む。ダニーは倒れる瞬間ありすの後ろの罠に気付いた。


「おっ、、、ヤベっ!!」





“ドゴゴゴゴゴーーーーーーーー!!!!!”


轟音と共にダンジョン内に激震が走る。

後を追い始めたグリフィスとドナシアンは身を低くし岩陰に避難した。


「いったい何の音だ?地震か?魔物か?」


ようやく【罠感知】のスキルがなじんできたドナシアンは周囲を警戒している。

魔物独特の嫌な気配はしないようだ。揺れがそんなにも続かないことから地震でもないと考えられた。


「、、、、、きっと罠が発動したんだろう。ダニーだ。ダニーに何かあったか、ダニーが何かをしたかだ。ドナ、悪いが先を急ぐぞ!」


グリフィスはダニーがしでかしたと確信した目でドナシアンを見た。

その瞳に促されるようにドナシアンは歩き出す。ここまでお互い信頼がないパーティーも珍しい。グリフィスは疑心暗鬼になって何が真実なのかわからなくなっているようだ。





まだもうもうと土埃が舞う一角を見つけた二人は注意深く近づいてゆく。

視界がよくないのでドナシアンの歩みも慎重になっていた。発生源であろう場所に辿り着いた二人の目に飛び込んできたのは出来たばかりの巨大な穴だった。


「、、、、マジかよ。どうする、グリフィス。」


ドナシアンはその規模を見て言葉にならないようだ。

覗き込んでみるも底が見えなかった。爆破の罠か、落とし穴の罠か。爆破なら地面がえぐれているだけでこんなには深くならないだろう。落とし穴にしてもスケールが違い過ぎる。

グリフィスはポーチから光る魔鉱石を取り出し穴へ投げた。するすると吸い込まれるように落下する。元々弱い光の鉱石のため途中で見えなくなった。底に落ちた衝撃音もまだ落石があるようでその音と重なって聞こえない。


「落ちたな。ダニーを探しに行くぞ。」

「おい、この深さなら助からないだろ。行くだけ無駄だ。引き上げようぜ。」

「無駄じゃない。奴が死んでても奴の装備は貴重だ。回収する。それにダニーが罠を踏むか?それはないだろ。アリスちゃんが踏んだか、偽装工作か確認の意味もある。行くぞ。」


ダニーのウエストポーチは無限収納のレアアイテムだ。

嘘か本当かはわからないが昔に所属していたパーティーでダンジョン踏破した際にたまたまドロップしたらしい。

それは所有者の魔力に比例して収納量が決まる。自分の魔力と繋げておけば他の誰にも使えない。譲渡は可能だが誰も譲ろうとは思わないだろう。所有者が死ねば白紙の状態になって魔力を上書きできる。グリフィスはそれを狙っていた。もし生きていたとしても裏切ったという名目で殺すつもりだろう。



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