打ち合い
槍の穂先がスバルの顔をかすめた。
五月雨のごとく繰り出される突き攻撃にスバルは防戦一方だった。何度弾いてもすぐさま目の前に穂先が現れる。スバルは後ろに大きく距離を取った。
「そりゃ~、避けてばっかだったら他人に当たっちまうよな、ヒャハハハ!でもまあ避けられたことは褒めてやるぜ。大概の野郎はそのまま目ん玉貫かれて死んじまうからな、ヒャハハハ!」
余裕のジェイクは手を止めて石突を地に着ける。
槍の長さは自身の身長の倍はあった。石突の衝撃音からして重さもなかなかのものだと窺える。それをあれだけの速さで扱えるのだ。相当な筋力と鍛錬を積んだに違いない。
対してスバルは攻めあぐねていた。
近づこうにもジェイクの槍がスバルの三節棍よりも長いので、当然先程のような攻撃を受けてしまう。回り込んでみてもすぐに正面を向いてくるし、背中を取れたと棍を打ち込んでみても自在に操る槍によって防がれてしまった。
一撃入れるには槍の間合いに入らなければならない。ジェイクの挙動を探りながらもスバルは考えていた。何故ボルボが最初は得物を棒状にして使えと言ったのかを。
「どうした?もう手はないって顔してるな、ヒャハハハ。降参しちゃう?無抵抗でも殺しちゃうけどね~、ヒャハハハハハハハハ!!」
ジェイクは再び槍を構えると、今度はスバルの足元を狙ってきた。
スバルも棍で捌いたり、左右にずれたりしながらいなしている。命中しなかった穂先がガツガツと地面をえぐっていった。
ジェイクは攻めながら柄の持ち位置を少しずつ前にずらしスバルとの距離を縮めてきている。スバルは足元に気を取られていてそれに気付いていない。そのまま突き出せばクラウンの身体を貫ける位置にまで近づいていた。
「死ね!」
穂先がスバルの心臓めがけて飛び込んでくる。
スバルは咄嗟にしゃがみ込み、端送りした棍でジェイクの鳩尾を突き込んだ。その反動でジェイクは大きく後退し、腹を押さえて咽返っている。
仕留めることを優先したジェイクが槍を突き出す前に微妙に力を溜めたことによって一連の流れるような攻撃にゆらぎが生じてしまったのだ。その僅かな違いに気付いたスバルが身を屈めたのである。
「ゲホゲホッ。くっ、これも避けやがるか。クッソー!!ぜってぇ、ハチの巣にしてやんからな!!」
ジェイクは口元を拭うと槍を右前に構えなおした。
スバルも同じように構え、二人は出方を窺うように睨み合いながら反時計回りにじりじりと動き出した。
何かを掴んだのか、今度はスバルから仕掛けに行った。右から左からと順打、逆打を繰り返す。これもかなりの速さではあるがジェイクも的確に対処していた。横からスバルの棍を払い、スバルが押し返して来たところを即座に反対側に槍を回して真ん中を取る。ジェイクがそのまま突き込むと、スバルはすぐさま避ける。
何度目かの打ち合いでジェイクが再びスバルの棍を弾こうと横殴りしてきた。
それに合わせるようにスバルの手に力が入る。すると三節棍の上部の繋目がだらりと垂れ下がった。槍は空を切り、ジェイクが多々羅を踏む。そのがら空きになった首筋にスバルは棍を叩き込んだ。
「ぐわっ!」
ジェイクは短い声を発して前へと倒れ、痙攣している。
勝負はついたようだ。
スバルは深く息を吐くと動かなくなったジェイクに近づいた。見るとあれだけ頸動脈辺りを殴打されたにもかかわらずまだ息がある。
「やっぱ、魔物だけを殺してもこれ以上レベルは上がらないか。」
スバルはやるせない表情で三節棍を握りしめた。
そして止めを刺そうと振り上げた時、後方から大きな声が聞こえた。
「やめてくれ――!!!!」
何事かと振り返った時にはもう眩い魔法のうねりがスバルめがけて飛んできていた。
即座に三節棍を持ち替え、両手で打ち払い消散させる。図らずともジェイクを助ける形となった。




