バカさ加減
私たちは階段を駆け下り、入口の前までやって来た。
教会の門を通過して馬車がこちらに向かってきているのが見える。御者台には近衛が二人座っていた。入口にアードルフさんやクラウン他大勢が立っているものだから手綱を握っている近衛が驚いている。横の近衛は眠っていたらしく叩き起こされていた。
馬を操っていた近衛は素早く馬車を止め、二人で馬車を降りて走り寄ってくる。
「おはようございます、王子殿下!」
「お疲れ様です、アードルフ副団長!」
ビシッと敬礼を決めている。
さすがは近衛、きびきびしているわねって言いたいところなんだけど、涎の後や目やにが付いてるのよね。こりゃ、二人とも寝てたな。そこは誰もツッコミを入れないのね。
視線を近衛から馬車の扉に移したが、待てど暮らせど誰かが出てくる気配は全くない。しびれを切らしたクラウンが直立不動の団員に問いかける。
「バルカンはどうした。」
声はともかく、ものすごく怖い顔になってますよ、クラウンさんや。
同時にアードルフさんが馬車の扉をノックして、返事がないのを確認してから扉を開けた。馬車の中には誰もいない。座席に凹みなどがないみたいだからしばらくは誰も乗ってなかったみたいね。
「どういう事だ!お二人ともどうされたのだ!」
真っ青になったアードルフさんは近衛たちの胸ぐらを乱暴に掴んでいる。
近衛たちは直立の姿勢を変えることなく目をぎゅっと瞑って声を絞り出した。
「じ、自分たちは不要だと言われ、巫女頭候補とお二人で坑道に入っていかれました!」
「団長には昼に迎えに来るようにとの命令を受けております!」
今にも殴られるのではないかとプルプル震えて答えている。
やっぱり命令は絶対か、しょーもない集団だわ。命令も大切だけれども、自分の意志で行動することも大事なのよ!この指示待ち族めが!
アードルフさんはため息を吐き近衛を解放した。きっと複雑な思いなんだろうな。自分も命令に逆らわなかったんだから近衛たちを責められるはずもない。今度は腕を組んで近衛たちを睨みつけている。
「往復でこんなに時間がかかるはずがないだろう。」
「申し訳ありません!自分たちは仮眠を取っておりました!」
「どうしてすぐに戻ってきて状況を説明しなかったんだ!ベア観光坑道にクラスBの魔物が出ていることはお前たちも知っていたはずだぞ!」
ごもっともなご意見で。
ついて行くことは叶わなくとも、早急にそのことをアードルフさんに告げることはできたはずよね。職務怠慢だわ。どんだけたるんでるのよ、この人たち。なんでも元気に答えたらいいってもんじゃないでしょ。逆に馬鹿なんじゃないのって思っちゃうわ。
「もういい、アードルフ。俺たちがベア観光坑道に向かう。おい、お前!この馬車をもう一度出せ。」
これ以上のバカさ加減を見たくないクラウンは近衛に指示を出し、さっさと馬車に乗り込んでしまった。
マーキュリーもボルボもいそいそと後に続いている。なんだか心なしかウキウキした雰囲気を醸し出しているような気がするんだけど。怪しいわね。気のせいだったらいいんだけどな。
そんな肩を落としている私の横を抜け、アードルフさんが軽快に御者台に飛び乗った。
「王子殿下!私もお供いたします!」
そこ!私が座ろうとした場所!取らないでよ!
マジで?この箱の中に五人乗るんですか?所要時間はどれくらいですか?この狭い空間でまたハブられるんですか!




