典型的な封建社会
教会の入口には巫女頭月籠り中のビラが貼ってある。
昨日スバルさんに何て書いてあるか聞いたから間違いない。しかしそれを見たクラウンが舌打ちをし、入口の近衛を無視して教会内に入っていく。何があったのかわからない私たちはただクラウンの後を追いかけるだけだ。
さすがに二階に上がりかけた時に近衛と揉めた。クラウンはバルカンを寄こせと言い放ち、そのまま昨日通された応接室へズカズカと入っていく。
クラウンが乱暴にソファーに座った。
こんな状況だからお茶は出て来ないでしょうね。クラウンが不機嫌な理由もわからないし、座るのもなんだからスバルさんと後ろに立っていた。なんだかピリピリしてるよねーってスバルさんとアイコンタクトを取る。
するとドアがノックされ、アードルフさんが入って来た。
「おはようございます、王子殿下。どうかされましたでしょうか?」
口調は穏やかだが、何となく疲れているように見える。
それに表情に焦りのようなものがあった。これは何かあったわね。
「どうかされましたかじゃないだろう。バルカンを呼べと言ったはずだ!」
「バルカン団長は所用で――」
「ベア観光坑道に行ったのか?候補の巫女に炎の印を持たせて、違うか!!」
クラウンが思い切り机を叩く。
これには私も驚いてビクッってなっちゃったわよ。こっちが怒られてるわけじゃないんだけどね。でも怒られている現場に居合わせるのって心臓に悪いのよね。現実でも同じフロアで営業さんが上司にガミガミ怒られてるの聞いてたら胃が痛くなったもの。中にはそれを見て笑ってた人もいたけどさ、私はしんどくなる派だわ。
ほら、しーんってなってるじゃない。あ~イヤだイヤだ。
この空気を良い意味でぶち壊してくれたのがボルボだった。
ドアをバタンと勢いよく開けて大手を振って入ってきたのだ。マーキュリーと宿屋に呼びに来ていた近衛と一緒だった。遅れてきたのにその態度ってないでしょ。しかもクラウンの足を跨いで前を通り、オッサンみたいに盛大なため息を吐いてソファーに座り込んでいる。マーキュリー、お前も座るんかい!
「、、、で、なんだ?この辛気臭い雰囲気は。新しい巫女頭ちゃんは帰って来たのか?」
どうよ、この空気読めない馬鹿っぷり。
この状況でよくそんな能天気な声で話せるわね。さすがボルボだわ~。
部屋の隅ではアードルフさんが一緒に入ってきた近衛に詰め寄っている。
小さい声で話してるけど全部聞こえてますよ。どうやら巫女頭候補がベア観光坑道に向かったことは箝口令をしいていたらしい。なのにどうして王子殿下に告げ口みたいなことをするんだと近衛が怒られている。そんなに内緒にしないといけないことなのかしら?
それにこの近衛は早朝にボルボと会ってるわよね?
普通ならその時に伝えない?その後の出来事だったのかしら。でも朝食時に近衛の報告を聞いてもボルボはやけに落ち着いていたわよね。普通は慌てふためくところじゃないの?クラウンはあんなに血相を変えてたのよ。
もしボルボが知らない振りをしていたとしたら?
だいたい何で近衛がムクゲ亭にクラウンが泊ってるって知ってるのよ、おかしいでしょ。他にもたくさん高級な宿屋はあったはずなのに。そう考えるとあの時に近衛と何か密談してたとしか思えない。
でも何のために?
なんですぐにクラウンに伝えなかったの?時間稼ぎみたいなことする必要ある?すぐに後を追って巫女頭候補を確保した方が状況はよくなってたはずなんじゃないの?
「おい、アードルフ!炎の印が外に出されたことを城には連絡しているのか?」
「あ、はい!明け方前にバルカン団長が出立なさった時に早馬を出しています。」
「だったら何故教会を閉鎖して近衛総出で炎の印を護らない?月籠りなんか中止して巫女頭も付き添うべきなんじゃないのか?」
なんかクラウンものすごく怒ってるじゃん。
もしかして話の内容からして炎の印って国宝級のお宝なんじゃないの?だったら厳重警備が必要よね。紛失なんてした日にゃ、ラズ地区を任されてるクラウンの立場が悪くなるんじゃないの?王位継承の件に傷が付いたりしない?だったらヤバいじゃん。
だからクラウンは焦ってたのか。
「返す言葉もございません。バルカン団長がどうしてもお一人で行かれると――」
「なんだと?!あんな奴だけでベア観光坑道に行かせたのか?」
「こ、近衛を二名付けております。」
「どうしてお前が行かない?お前くらいしか腕の立つ奴はいないだろ!」
「、、、、バルカン団長に拒否されました。命令には逆らえません。」
出たぁ、典型的な封建社会だわ。
立場が上の人に口出しすること自体非難されるのよね。バルカンなんか特にネチネチ言ってきそうだもんね。アードルフさんみたいに頭が固くて正義感があるみたいな人は生きにくい組織なんじゃないの?って言うか、なんでそんな弱っちいヤツが団長なのよ。もっと他に適任者いなかったの?筋肉ダルマみたいな、気合と力で何とかしようとする脳筋が。
クラウンは呆れかえって二の句が継げない状態だ。
ボルボの横顔は顎を引き薄っすらと笑っているようにみえる。バカにした笑いという感じではなく、ひそかに喜んでいるような、しめしめという感じだ。もし前者の場合だったら“馬鹿じゃねぇの?”とか何とか言って口を挟んでくるはずよね。噛みしめるようにニヤケているという表現がしっくりとくる。やっぱりボルボが一枚噛んでるのか?
でもなんでクラウンに不利益になるようなことをするんだろう。
そう言えば、マーキュリーが一言もしゃべっていない。
まあ会話する要素もないか。でもいつものようにクラウンにべったりもしていない。さすがにこの状況でクラウンにイチャイチャ攻撃は出来ないわよね。逆に、してたら引くわ。私がクラウンだったらぶん殴るけど。マーキュリーにも欠片程度の常識はあったという事にしておこうか。
お願いだからボルボとグルだなんて言わないでよね。
しかしこの重苦しい空気、どうにかならないものかと考えていたら、表から馬のいななきが聞こえてきた。
アードルフさんが素早く窓に駆け寄り、窓の外を見て顔をほころばせている。
「バルカン団長を乗せた馬車が戻って来たようです!」
アードルフさんの報告を聞いたクラウンは真っ先に部屋を出て行った。
それに続いてアードルフさんとスバルさんも走っていく。私も釣られて駆け出したのだがボルボたちの動作は緩慢だった。
あれ?ボルボたちは走らないの?ますます怪しいじゃん。
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