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天狗になった鼻

第二王子たちは悲鳴の聞こえた方へと急ぐ。

比較的大きな横穴を抜けた先は数本の篝火が燃えさかる拓かれた場所だった。目に飛び込んできたのは魔物に追われている巫女の姿である。おそらく悲鳴の主は彼女だろう。マセラティたちに気付いたのか手を伸ばし駆けてくる。


「助けてください!!」


しかし巫女の叫びも虚しく、無情にも次の瞬間にはもう血飛沫を上げて魔物の口の中に納まっていた。

横から巫女を搔っ攫うように走り抜けた魔物は遥か向こうで咀嚼している。彼女の腕だけが宙から出てきたようにぼとりと音を立てて、噛みちぎられた下半身の横に転がった。


「あ~あ、食われちまったな。まあいっか、助けろって依頼じゃなかったよな?」

「ああ、あくまでも討伐依頼だったはずだぜ。でもあれが第三王子の仲間だったりしない?だったら拍子抜けだな、ヒャハハ!」

「だよな~。っかし、ランクBの魔物ってウィーズルだったのかよ。依頼書には雷獣っぽいって書いてなかったか?あれをどう見たら雷獣に見えんだよ。色といい、大きさといい、どう見てもウィーズルだろ?」

「この国の奴はみんな目ぇ悪いんじゃないの?俺は故郷の山奥で、マジで雷獣見たんだぜ!」

「ホントかよぉ~。吹いてんじゃねぇだろうなぁ?」

「マジだって!あんなの比べ物にならないくらい大迫力でよぉ。」


アビトとジェイクは魔物を眺めながら悠然と会話をしている。

目の前で人が一人魔物に食われているのになんとも呑気な内容だった。その横ではまたも怒り狂っているマセラティとそれに四苦八苦するアバルトの姿があった。


「アバルト!どういうことだ?クラウンなんてどこにもいないじゃないか!」

「いや、きっと、、そのうち、、、絶対に来ますって!落ち着いてくださいよ!」

「これが落ち着いていられるか!それに女は女でもさっきのは全然違ったぞ!」

「あれは、、、、あれは私の~、与り知らないところでぇ、、ございます、、。」


アバルトはしどろもどろになりながら人差し指を突き合わせて明後日の方向を向いている。

その仕草に余計に腹を立てたマセラティはアルバトの頭を思い切り叩いた。


「だいたいどうしてここにクラウンが来るとわかるんだ?」

「よくぞ聞いてくださいました!それはですね、私が向こうにちょっとした偵察を付けているんですよ。気が利きますでしょ、へへへ。で、そやつから昨日鳩が届きましてね、急だったので私も驚きましたよ。なんと第三王子が近いうちにここの魔物を討伐しに来るのではないかと、詳細は省きますがそう手紙に記されておりまして。」


アバルトはさも自慢げに流暢に話し出した。

いささか胸を張り、顎を上げてちらちらとマセラティの方を窺っている。よくやったとでも言ってもらいたいのだろう。


「だから昨日の今日でこの坑道か?」

「はい。」

「王都からノンストップで馬車を飛ばして?」

「はい!最高級の馬車ですのでマセラティ様はよく眠られていたご様子で。」

「こんな朝早く?」

「はい!!善は急げと言いますから!」


マセラティの質問に答えるアバルトは徐々に背伸びをしながらますます顎を上げている。

満面の笑みを浮かべ、まるで本当に鼻が伸びているかのようだった。それに比べマセラティはだんだん前屈みになりプルプルと震え出している。


「バカ野郎!!そんな曖昧な情報を鵜吞みにするやつがあるか!第一、クラウンが勝負を受けるという確証がないではないか!」

「はへっ?!」


マセラティに一喝され、アバルトの天狗になった鼻は見事にへし折られた。

ポカンとしていて何故怒られているのかわからない小学生のような態度を取っている。


「だいたい私が王都で女とまどろんでいるところを邪魔してまで優先させるべき事なのか?お前たちだけでまずは下見に行くのが筋だろう!」

「で、でもですね、マセラティ様も食いついてきましたよね?金髪美女がいるって申し上げた時、慌ててパンツ穿いてご準備なさったではないですか、、、。」

「貴様が詳しい事を言わなかったからだ!近場の女だと思ったんだよ!」


アバルトは自分を正当化するために堂々とマセラティにも非があると言っている。

更にお小言を食らってもなお、苦しい弁明を続けていた。


「みんな!ま、魔物がこっちに来るぞ!」


声を上げたのはセレマだった。

どちらの会話にも入ることができず、ただ魔物の動向を窺うしかなかったようだ。二組の後ろで震えあがっている。


「お前たち!どうでもいいから魔物(アレ)を早く片付けてくれ。目障りだ!」


マセラティはセレマを無視して他の二人に指示を出す。

セレマは召喚されてすぐにマセラティから見放されていた。彼は庭で取れた野菜を籠に入れて家に入ろうとした時に召喚にあったようで、その姿を見たマセラティは大いに嘆いたという。セレマは冒険者でも腕のいい鍛冶師でもない。国の規則で一年徴兵されたことがあると申告したものの、ろくに質問もされずに“普通の町民には用はない”と三行半を突き付けられたのだ。それからというもの、召喚解除もされず、ずっと王都の宿屋の一室に軟禁状態だった。


「倒したら魔石は俺たちが貰っていいっすか?」

「いい女をもっと回してくれたら頑張りますよ~、ヒャハハハ!」

「好きにしろ。」


マセラティの言葉を聞いた二人は顔を見合わせてニンマリするとウィーズルの元へと走っていった。



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