第二王子
クラン地区側に近い坑道内では男ばかりのパーティーが揉めていた。
鮮やかな黄色のステンカラーコートに身を包んだ男が足元の小石を蹴り飛ばし憤慨している。それを背の低い眼鏡を掛けた痩せ型の男が宥めていた。
「もう面倒だ、帰るぞ!だいたい私は王都から離れたくなかったんだ。後はアバルト、お前に任せる。」
「お待ちください、マセラティ様!あなたが来なければトレードが出来ないんですから!」
そう、彼が第二王子マセラティだ。
来た道を引き返そうとしているマセラティを必死になって引き留めているのが従者のアバルトである。彼らよりも随分と先の方で立ち止まっているのが二人、その中間に一人いた。
先頭の二人がダラダラと戻ってくる。
「ホント、あの人、動きたがらないよな。」
「ベッドの上じゃ激しいのにな、ハハッ!ジェイクも昨日見ただろ?」
「野郎の裸見ても身持ち悪いだけだろ?俺は自分の女だけに一点集中よ!そういうお前は巨乳に囲まれて“アビトちゃん感激でちゅぅ~”って言ってたっけか?ヒャハハッ!」
「なんだよ~、見てんじゃんかよ~!」
卑猥な話をしながら肘で突き合っている。
二人とも傭兵ではなく召喚された者たちだ。マセラティも運よく戦闘経験のある腕の良い人材を引き当てたらしい。ジェイクは槍使い、アビトは肘までのガントレットをはめていて腰の後ろ辺りに短剣を差していた。軽装なので斥候も担っている武闘家と思われる。
「おい、ぼさっとするなよセレマ!年上だろ!」
「セレマじゃなくてノロマだな、ヒャハハハッ!」
すれ違いざまに肩を叩かれたセレマと呼ばれた青年は古びたリュックだけを背負っていた。
くるくるとした短い金色の髪は天然のものだろう。青みがかった瞳でソバカスがあり顔だけが少しぽっちゃりとしている。二人よりも背が低く年上には見えなかった。おどおどした感じでお世辞にも戦いに慣れているとは言い難い。恐らくは非戦闘員だろう。
「そもそもトレードなんて必要ないだろ。最終的には金で傭兵を雇うんだからな。それまではこの二人で十分なんじゃないのか?」
マセラティは今来た二人をビシッと指差した。
ひらりとしたコートの下には漆黒の剣が見え隠れしている。クラウンと同様に国王から授かった宝剣だ。三本目はもちろん第一王子が所有している。
「ですから残りのお荷物を交換するためにもマセラティ様に同行していただかないと!」
全員がセレマの方を見た。
セレマは居心地が悪そうに視線を外す。本人も自覚しているようだった。
「使い道のないやつは放置でいいだろ?私は早く帰って女を抱きたいんだ。」
やっぱりなとニヤニヤしながら顔を見合わせるジェイクとアビト。
それを見て目を吊り上げたアバルトは更にマセラティに言い募る。
「第三王子側には優秀な女剣士がいると聞きます。何度も言いますが金髪の美人だそうですよ。マセラティ様のお好みかと、、、、向こうの戦力を今のうちに削ぎ落すためにも、どうかご同行願います!」
足元に縋るように懇願してくるアバルトにマセラティは冷ややかな目を落とした。
「気に入らないな。どうしてアイツをそう警戒するんだ。私が頼りないと言うのか?まさかこの私があの出来損ないに負けるとでも言いたいのか?」
「滅相もございません!念には念をです、マセラティ様。雑草はいくら抜いても生えてきますでしょう?それに女剣士は隣国の元王女らしいので使えるのではないかと。」
アバルトは地面に這いつくばるように必死になって頭を下げている。
虫でも見るような眼差しのマセラティが口を開けようとした時、少し大きめの横穴から悲鳴が聞こえてきた。
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