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クソゲー

翌朝、少し薄暗い時間に目が覚めた。

なんだか思っていたRPGと違う。もっとサクサク進んでイベントごとに風景が切り替わって美味しいとこ取りで、、、って思ってたのに現実世界で日々を過ごすのと代わり映えしない。一日一日きっちり時間は過ぎていくし、毎朝起きて仕事してご飯食べて寝るの繰り返し。本当に現実では少ししか時間が経っていないのだろうか、不安が募ってくる。気分爽快にならないと何のために別の人生を体験しているのかわからなくない?これぞ生き地獄なのでは?こんなの普及しちゃダメでしょ、ゲームくらい自由にダラダラ過ごしたいのに。それに万人受けする愛されキャラでもないし、仲間の一部には嫌われてるし。何が面白いのよ、このゲーム。クソゲー確定か?


なんだかなーと物思いに耽っていたらもう朝食の時間になった。

憂鬱だ。仲良しこよしでもないのにどうして奴等と一緒に食べなきゃいけないんだろう。会社の飲み会でもいやいや参加しているのに、毎朝毎晩ってどうよ。忍耐ゲージがあったら私すごく高くなってるんじゃない?私に悟りを開かせようとしてます?




これと言って報告するような朝食場面でもなく、淡々と時間が過ぎてゆく。

食べ終わったらそのまま箱馬車の停車場に行くそうだ。クラウンはフロントで腹黒と何かを話している。きっと会計を済ませているのだろう。ボルボとマーキュリーはもう一足先に停車場に向かっている。私もスバルさんと一緒に先に行ってもよかったのだが、人に払わせているのに先にこの場を離れるのは気が引けた。ゲームだと割り切るには現実感がありすぎるので、性格上どうしても払ってくれた人に感謝の挨拶がしたい。

腹黒が深くお辞儀をしている。もう済んだかな。こちらに歩いてきたクラウンに声を掛けた。


「クラウン、ありがとう。」

「何がだ?」

「いやあの宿泊代出してもらってるでしょ、だから。」

「あ、ああ、そのことか。別にいい、必要経費だ。」


一瞬目を合わせただけでクラウンが先に歩きだした。

なにその言い方。本当に会計済ませたんでしょうね。もしかして値切ったりしてるの?王子なのに?なんだったら無料でもいいくらいよね、身分的に。最初の方でもお金に対してドケチだったわよね。王位継承に関係あるのかしら。聞いたのかもしれないけど忘れちゃったわ。


「アリスちゃんって律儀だよね。なんだか払ってもらうのに慣れちゃってた自分が恥ずかしいよ。謙虚って大切だよね。」


スバルさん!

私を待っててくれるあなたこそ律儀ですわ。もうこのNPCとは絶対に離れないわよ!こんな風にいいNPCもいるんだけどなぁ。なんだかなー。


「アリス!よかった、間に合ったよ!」


むむ、この声はカレンさん?

陽だまり亭の前で呼び止められた。スバルさんは気を遣ってか私ににっこり微笑むと、相変わらず歩みを止めないクラウンを追いかけていってしまった。そこは待っててほしかった、スバルさん。


「ほら、注文通りの首輪だよ。嵌めてみな!」


カレンさんはその場で私の腕を強引に引っ張って跪かせるといきなり首輪を嵌めてきた。

よかった~、昨日買ったタートル着てて。さすがにちゃんとタートル部分を伸ばして慎重に嵌めてくれた。案外と優しいんだなと思っていたら、自分で作った首輪の出来を確かめるためだったようだ。つくづく仕事きっちり拘り屋さんなんだな。

一応感想はというと、注文通りワンタッチで着脱可能な着け心地快適で重さも感じることない匠な逸品だった。


カレンさんにそのことを述べたところ、嬉しかったのか背中を思い切り叩かれ、ものすごい勢いで制作過程を話し出したのだ。

痛みのあまり私は土下座ポーズになってしまっている。そしてカレンさんが腕を前に組んでいつもの調子で突っかかるように話しているのだ。どう見ても私がカレンさんに怒られてるようにしか見えませんよね。しかも陽だまり亭のすぐ前ですよ。腹黒に見られたら超恥ずかしいじゃん!


痛みに耐えつつ立ち上がるタイミングを見計らう。

それはもう製作段階のカレンさんの脳内思考まで懇切丁寧に語られたので、この首輪は言うまでもなくとてつもない完成度の高い高級素材品だというのはわかった。でもそろそろ話を切り上げてほしい。これ以上長引くと置いてけぼりを食らってしまう。カレンさんの息継ぎのタイミングで話しかけた。


「あの、カレンさん。お代は出世払いでいいですかね?」

「何言ってんだい!あたしがそんな小っちゃい奴に見えるのかい?心外だね!餞別だよ、持ってけってんだ!」


おお、女神か!

改めてお礼を言う。また叩かれそうになったので華麗にかわすと、手を振りながらその場を後にした。




やっぱ、いいNPCはちゃんと存在するよね~。

ちょっとは心が救われた気がする。心なしか足取りも軽くなり、文字通り最速で停車場に着けた。


とうとうこの街ともサヨナラか。

ここでも盛りだくさん仕事をしたと思う。ハプニングもあったけど色んな人に出会えたし、簡易だが別れの挨拶も出来た。まあいざとなればあの白い部屋を使えばいいし。

スイとライはお出掛けしていたので伝言してある。彼らとならまたどこかの街で会えるかもしれない。

出会いと別れを繰り返して成長する様を体験出来るRPGなのかな。

そう考えるとこれはこれでいいゲームなのかなとか思っちゃう。


そんなことを感じながら、箱馬車の中を一台一台チェックしていく。

無論案内板が読めないからゆえの行動だ。なかなか当たりを引けない。これで最後の箱馬車なのだが、これに乗ってなかったら置いて行かれたってことになるのか?ドキドキする気持ちを抑えつつ、恐る恐る荷台部分を覗き込んだ。


「おい、魔族女!チンタラしてんじゃねーよ!」


前言撤回。

やっぱクソゲーだわ。



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