ステルス系ゲーム
何もない白い部屋。
これは私のためにカレンさんに作ってもらった部屋だ。そう、覚えやすさ重視のシンプルな部屋。ちょっとだけアクセントになるように湯快ワールドのタオルを飾っている。ただの四角い空間だったら、もし同じような場所があったら記憶が混濁すると思ったのよ。まあ滅多にないとは思うけれども、湯快ワールドのタオルなら唯一無二でしょ。誰も額縁なんかにタオルを入れたりしない。これでもオリジナリティーを追求したんだから。
私は早速ラハナスト侯爵邸の応接室に繋いだ。
いつもならいの一番に黒モフと念話をするのだが、今日の私は一味違う。そう、私から応接室に行ってやろうという大胆な犯行に及ぼうとしているのだ。これだけ簡単な部屋なら絶対にイケるはず。私は振り返ってもう一度小さな空間を目に焼き付けた。
恐る恐る足を前に出す。
右足がふかふかの絨毯に着いた。まだ身体半分だけ。扉の可動範囲外に出れば一定時間で閉まってしまう。それは学習済みだ。拳を握りしめ意を決してテーブルまで近付く。
今ならまだ戻れるか?
後ろを振り返った。いや、ここは我慢、我慢の時。向こうに広がる小さな白い部屋を見つめる。するとゆっくりと扉が閉じていった。
パタンと小さな音を立てて完全に扉が閉まる。
私は小さく息を吐きだした。そして【探索】を展開する。前回のクエストで結構コツは掴んだので、この屋敷くらいなら取りこぼしなく拾えるはずだ。階層限定だけど。
よし、この階に人はいない。おそらく吹き抜けになっている下のエントランスホールも同じく。ただエントランス入口付近に誰かがいるようだが、内側か外側かわからない。この部屋には他の扉もないことから、先ほどの小部屋に繋げられるかどうかは入口の扉で確認するしかない。まずはエントランス入口付近の人物が内か外かを確かめるべきね。
私は入口のドアノブに手をかけ、少しだけ扉を押し開けた。
エントランス入口を目視する。どうやら外側だったようだ。まあ考えたらそうよね、建物警備なら侵入者を防ぐから外に立つわよね。私がこの部屋に入った時点でお縄にならないってことは、ここは【探索】されてないはず。
安心して扉を閉める。そしてあの白い小部屋を想像しながら再び扉を開けた。
「おほほほ~!!やればできるじゃん!」
ガッツポーズで奇声を上げてしまった。
思わず口元に人差し指を当てて“し~っ”ってしちゃったわよ。向こう側は防音で大丈夫だけど、こっちには耳のいい黒モフがいるのだ。気付かれるとマズい。だって黒モフを驚かせたいんだもの。
まあローブッシュに戻れることは分かったので元私の部屋、今は黒モフの部屋に潜入しますか。寝起きドッキリ敢行してやる!寝てたらだけど。
【探索】・【隠密】・【隠蔽】のフルコンボで元私の部屋近くまで辿り着いた。
もうステルス系ゲームやってるみたいでめっちゃ楽しいんですけど!サイレントキルなしでのガチステルス。相手の視界に入らないようにうまく障害物を利用して進んで行く。あのゲーム、ノーマルモードでも判定厳しかったから何度も主人公の名前叫ばれたわ~。
まあここではそんなに人とは遭遇しなかったんだけど、この服でしょ?動きにくいのなんのって。無駄にフワフワしてるし隠れづらいし、何の縛りプレイかと思ったわよ。
前に黒モフから聞いていた通りこの部屋の扉にはドアストッパーがしてあって、この服の私でも十分にすり抜けられる程度には開いていた。
隙間からそっと中を覗く。目の前の窓ガラスからは温かな光が差し込んでいた。その手前にふかふかのマットレスのようなものの上で黒モフが眠っていた。ゆっくりと部屋の中に入る。衣擦れの音に少しドキリとしたが黒モフは起きる気配がない。
私はそのまま黒モフに近づいた。




