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マジですか?

職員に言われた突き当りのドアを開けると、まるで喫茶店のようだった。

入り口にはカウンター席、窓側にはいくつかの丸テーブルが置かれていた。窓の外は庭のようになっている。一階部分は何か他の施設なのだろう。

全席ではないが各丸テーブルには女性が一人で座っている。お茶を飲んだり読書をしたり外を眺めたり。その中でも目を引いたテーブルは若い女性と中年の男性、若い男性二人のパーティーだった。


若い女性は楽しそうに話している。

キャラメル色の髪はショートボブでリボンカチューシャをつけていた。ふりふりの水玉ノースリーブシャツ、前をリボンで結ぶ形で胸元はV字になっている。シャツのボタンは花の形をした大きめのものだ。机のせいでボトムは見えない。

中年男性は全体的にスマートカジュアルな感じだ。上質な布で作られたであろうラフなブラウンのジャケット、上品な薄い水色のドレスシャツ、デニム素材のようなパンツに手入れの行き届いたロングブーツを履いている。


一方、他の二人はバリバリ冒険者っぽかった。

一人は革の胸当てを着けたままで、何かのクエストをこなした後なのかブーツには泥がついている。座っている感じからもちょっと小柄な浅黒い男性のようだ。瞳の色と同じ錆色の短めのソフトドレッドに赤のバンダナを巻いている。もう一人は後ろ姿しか分からないが金髪を一つにまとめており、仕立てのよい白のシャツを着てテーブルに剣を立てかけている。見事な装飾の鞘よりも目立つのはポンメル部分だ。鮮やかなブルーの宝石が嵌め込まれている。窓からの光を受けてキラキラと反射していた。


(パーティーで団らんとか憧れるな~。クラウンにはお小言しかもらってないもんね。基本何人くらいがパーティー人数なんだろ?)


楽しそうな集団をしり目に、クラウンがカウンター席に座ったのでその横に並んで座る。

するとカウンターの向こうからベネチアンマスクをした職員がコーヒーを出してくれた。お金を持っていないのでどうしようかとクラウンの方を見ると普通に飲んでいたので同じく口にした。


(なんで仮面着けてるの?コーヒーはタダなの?謎な設定だわ~。っていうか、なにこの部屋。VIP待遇?クラウンが王子様だから?でもクラウンは王子だとわからないように認識疎外の指輪をしてるっていうし。まあそんなことしなくても“地味男くん”だからバレないって、あっはっは!あ、やば、クラウンこっち見てる。変に勘がいいからな。でもさっき初めてあの声で“ありす”って呼ばれちゃった、きゃっ。嬉しすぎる。)


思い出しただけで照れてしまう。

ファンイベントなどがあったとしても自分の名前を呼ばれることなんてそうそうないだろう。なんならクラウンにもっと呼んでもらいたい。今のところ罵声しか浴びてないような気がする。ツラい現実だ。

今度の目標は“クラウンに名前で呼んでもらって恥ずかしいセリフを言わせる“にしようかななどと考えていると、不意に肩を叩かれた。


「ねぇ、君って魔族?色白いね。」


話しかけてきたのはあの金髪柄頭ブルー野郎だ。

隣に革靴泥男も立っていた。おっと、金髪柄頭ブルー野郎は瞳もブルーだ。こちらの方が王子に見える。ちらりとクラウンを見たらなんだか怒っていた。今の内容が伝わったのかもしれない、第三王子恐るべし。


「あ、直接話しちゃダメだった?ねぇお兄さん、この子、種族は?アルビノ?珍しいよね。」


私がクラウンを見たからだろうか、金髪柄頭ブルー野郎はクラウンに話しかけた。

クラウンはあからさまに嫌そうな顔をしている。もしや容姿で劣等感を抱いているのではなかろうか。大丈夫だ、見てくれよりも中身が大事なのだから。腹黒執事の件でよくわかった。というよりクラウンは私の好みには入る。断じて声に引っ張られているわけではない。


「サキュバスだ。普通は褐色の肌だから、おそらくアルビノだろうな。」


そうなんだ、知らなかった。

というか、個人情報を勝手に言わないでほしい。クラウンがこの手の輩に答えるだなんて珍しいと思った。一緒にパーティーを組む気があるからだろうか。実力も見てないのに大丈夫なのか?それに相手はどうしてアルビノとわかったのだろう。髪が白いし目が赤いから?ウサギか!雪女みたいで綺麗だと思うのだがこの世界ではどうなのだろう。


「いいねぇ!なぁ、こっちの方がいいと思わないか?」


金髪柄頭ブルー野郎、略して金髪ブルーは革靴泥男に話している。

胡散臭いことこの上ない。何と比べて“こっち”なのだ。そもそも“こっち”などと物扱いする態度が失礼極まりない。こんな若者に勝手に決めてさせている向こうの中年リーダーもどうかと思う。


「グリフィスがそう言うなら、俺は選り好みしねーからよ。」

「あぁ、ダニーは何でもイケる口だったよな。たまには魔族にでもしてみるか。」


なるほど、金髪ブルーがグリフィスで革靴泥男がダニーという名前か。

名乗るまであだ名で呼んでやる。金髪ブルーは自分のことがカッコいいと思っているようだが大きな間違いだ。上には上がいるとわからせてやりたい。いいとこ行って中の中くらいかな。嫌というほどいい男(二次元・CGに限る)を見てきている私からすればそんなもんだ。

クラウンには申し訳ないがこんなパーティーには入りたくない。


「ちょっと待ちなさいよ!こっちと先に話してたじゃない!」


ガタンと椅子を倒してキャラメルボブ女が叫んだ。

他の女性たちも一斉に彼女に注目する。漏れなく私も注目した。なんだなんだ、内輪もめだろうか。


「私とパーティー組むんじゃないの?いい加減にしてよ!そこの女も後から入ってきて何様のつもりよ!」


私は関係ないでしょう。

八つ当たりされても困る。メンバーではないのか?と言うことは、隣の部屋で代筆してもらっていたのは彼女だったのか。それにしても何だあの下半身は。網タイツにブルマって。悪いがもうそこにしか目がいかない。スカートを穿き忘れたのだろうか。


“ビュンッ”


彼女の股間を凝視していると一瞬風を切る音がした。反射的に右手が動いて何かを掴む。自分でも訳が分からず顔の辺りで握られた己の拳を見た。


「うわっ、何これ。」


鞭の先端をうまく掴んでいる。

あろうことか、キャラメルボブ女は鞭使いだった。その怒りの鞭が私めがけて飛んできたのだ。鞭と網タイツ、、、、製作者の安直さが窺える。キャラにはもうちょっとひねりを入れないと売れませんよなどと考えていると思わず手を放してしまった。鞭がキャラメルボブ女に返っていく。二度三度と打ち込まれたが何故か軌道が見えるのでうまいこと避けられた。


「へぇ~、いい動きしてるじゃん。決まりだな。」


金髪ブルーがニヤリと笑う。

どちらのことを言っているのだろう。私か彼女か。

金髪ブルーは四度目に飛んできた鞭を掴むとキャラメルボブ女の方へ歩いて行った。この男でも掴めるというのなら私の方が“決まり”なのかもしれない。最悪だ。

向こうではそのままギャンギャン騒いで大喧嘩している。彼女もパーティーを探しに来ていた一人なのだろう。このままあいつらと組んでほしいと切に願う。

しかしどうしてあんな動きが私に出来たのだろう。プレイヤー補正というやつだろうか。動体視力に敏捷性さがマシマシしすぎる。今なら反復横跳びが半端ない速さで出来そうだ。

色々な競技に出場している私を想像していたら目の前にキャラメルボブ女が立っていた。


「ほんっとムカつく“顔だけ“女ね!私がどれだけ努力してきたと思ってんのよ!こんな中年のオッサン相手に毎日やらされたのよ!」


自分の仲間を指差して堂々と“オッサン”なんて。

まあ脂ののったオッサンには変わりはないけれども、言い方があるだろう。スマートカジュアルな中年男性は顔を真っ赤にしている。憤慨しているではないか。これは後でお説教コース確定だろう。教えてもらえるだけありがたいと思わなければいけない。クラウンは魔法も剣技も何も教えてくれないのだから。

恨めしそうにクラウンを見つめると、何故か少し顔を赤らめて視線を逸らされた。都合が悪くなると視線を合わせない、クラウンの悪い癖だ。


案の定、キャラメルボブ女はスマート中年に引きずられるように退場した。

最後まですごい顔で睨まれてしまった。私が悪いわけではないのに。昔もよく女子に睨まれたことを思い出す。顔がよくて何が悪い。僻みもたいがいにしてほしいものだ、まったく。


「ってわけで、俺らでヨロシク!金は前金で5万ベリ、終わってから2万ベリ、合計7万ベリだ。」


金髪ブルーが前髪をかき上げ、爽やかさを装って言い放った。

何が“ってわけ”だ、気持ち悪いからウインクなんてしないでほしい。何のアピールかは知らないが逆効果なのではと正してやりたい。これではクラウンもうんとは言わないだろう。申し訳ないが残念な勘違い男よ、早々に立ち去るがよい。目を瞑ってクラウンの返事を待った。


「、、、、わかった。契約しよう。」


えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

マジですか?



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