濃い人間コンテスト
濃い人間コンテストのような状態からようやく落ち着いた。
一応スバルさんの魂はこちらに呼び戻している。しかしかなりの洗礼を受けたようで、しばらくは上の空だった。さすがの説明君もこんな状況下で平静を装えるほどよくできたNPCではなかったようだ。逆にこういう人間味あふれるところがNPCだと思わせないよう工夫されているところなのかもしれない。
それはさて置き、ちょうど三人も今から子供たちと食事だったようで、私とスバルさんもご相伴にあずかることにした。
今日のお昼のメニューはたっぷりと野菜の入ったチキンカレーだ。人参はハートや星にかわいく模られていて、オネェの繊細さが窺える逸品となっている。味の事はわからないが、スバルさんが美味しいと言っているのでそうなんだろう。私にとっては全部薄味にしか感じないのだから仕方ない。
状況を整理すると、ロベルトが南支部Bに届け物をした帰りに教会に顔を出すとポプリの回収業者が来ていて、昼食の時間と被ってしまいそうだったのでお手伝いをしたと言う訳だ。
それでも子供たちとの食事には少し間に合わず今に至るらしい。
「この様子だと十分に教会を運営できているようですね。子供たちがひもじい思いをしていなくてよかったです。」
私たちは食後のコーヒーを飲みながら雑談を始めた。
低年齢の子供たちはお昼寝の時間、それなりの年齢の子はこの場でポプリ作りに勤しんでいる。北の教会よりも子供の数が多いので、外部からポプリ作りは雇っていない。強いて言うなら先生をもう少し雇った方がいいのではと思う。でもこのメンツじゃなぁ、余程の勇者じゃないと耐えられないとは思うけど。
「それはいいんだけどぉ~、あたしたちの手が回らないのよね~。今日はロベちゃんがたまたまいてくれたから助かったんだけどぉ~。」
やっぱりね。
ってか、ロベちゃんて。この人たちの関係は何?まああんまり突っ込んでも話が長くなりそうだし触れないでおくか。
「だったら職安ギルドで募集してみたらどうです?せっかくアリスちゃんが立ち上げたんだし、いい人材が見付かるかもしれませんよ。」
よくぞ言ってくれました、スバルさん!
思わずニンマリしてしまう。そうよね、どこからお給料が出ているのか知らないけど、公募するのが一番よね。
「あ~ん、その手があったわよねぇ。あんた、冴えないけどいいこと言うじゃなぁい。それならぁ、あたしは~、知的でぇ、力持ちでぇ、資産家のイケメン御曹司がいいわぁ~。そして恋に落ちるのよ、んふっ。」
「何言ってやがんだ!ボン、キュッ、ボンの色気ある美人に決まってんだろ。しゃがんだ時に見えそで見えないチラリズム!これぞ男のロマンだぜ!」
「女なんて絶対にイヤ~よぉ~!キーキーうるさいだけで役立たずなんだからん!」
「男の方がよっぽど役に立たねぇだろ!」
あれよあれよという間にチィスとオージンのヤンキー口喧嘩に発展してしまった。
私は一度この場面を見ているから免疫があるのだが、スバルさんはまた硬直してしまっている。ホント何度見てもチューするんじゃないかって思っちゃうわよね、あはは。
「子供の前で喧嘩するな!」
二人の頭を掴み頭突きをさせたのはロベルトだ。
やるじゃん、ロベルト。一応この三人の中では、見た目はともかく一番まともな思考の持ち主である。そうよね、子供たちの目の前で先生同士の言い争いはよろしくないわよね。でもその子供たちはと言うと、いつもの事なのか黙々と作業を続けていた。出来た子供たちだわ。
「とにかくまともな条件と給与を明確にしてギルドに依頼しろよ。好条件ならお前たちと一緒に仕事してくれる奇特なやつも出てくるだろうさ。」
呆れた感じでロベルトが言い放つ。
いちいち言う事が真っ当過ぎてロベルトじゃないみたいだ。実はすごいんだな、ロベルトって。
「で、姐さんはどうしてここに?」
感心してたらいきなり話を振られた。
そういえば言ってなかったわよね。ここに着いてからはややもあってカレーを食べただけだから。
「うん、明日この街を出るのよ。別れの挨拶ってやつね。」
「「「「えーーーーーーー!!」」」」
オージンとチィス、ロベルトだけでなく子供たちまでもが驚いた。
そんな、ずっとこの街に居るわけないでしょう。部屋を借りずにずっと宿屋に泊まってるんだし、それにそこまでこの教会に顔を出している訳でもない。そんなに驚かれるようなことかしら。
「そんなぁ!姐さん、行かねぇでくだせぇ!まだまだ色々と教えてもらいたい事があるんです、俺は姐さんの犬でしょ?もっと尽くさせてくだせぇよ!」
ぎゃー、どさくさに紛れて抱き着くな!
椅子に座っているから逃げようにも逃げられない。腕ごと抱き着かれている状態なので手も自由に動かせない。おまけに胸や腹の辺りにぐりぐりとパンチ頭を擦りつけてきている。うわぁぁぁ、気持ち悪い!頭突きをするか?いや、ロベルト石頭だったような気がする。どうする?
「止めなさいよ!」
私は角の部分をロベルトの頭に向かって思い切り振り下ろした。
“ゴチン”と鈍い音と共にロベルトが床に崩れ落ちる。相当な衝撃だったにもかかわらずロベルトはイテテと言いながらもう身体を起こしていた。ぶつけたこっちの方が脳震盪起こしそうだってーの!おでこだったら頭蓋骨割れてたな。
角を押さえながら私はロベルトにその場で正座を命じた。
だいたいあんたに何にも教えてないわ!変なのにばっかり懐かれても困るのよ。




