魔族は別だ
「アリスちゃん、よかったら君について行ってもいいかな?色々話も聞きたいし。」
「ええもちろんよ、スバルさん。早く行きましょ!」
陽だまり亭の食事処から魔族女とスバルが仲良く出て行った姿を見て、俺は短い鼻息で軽蔑を表現した。
残りのスープを飲み干し、マーキュリーを見る。
「何見てるんですの?まさか私たちに着いて来る気じゃありませんわよね?」
マーキュリーが肩眉を上げ、俺を睨みつけてくる。
いちいち突っかかってくるようじゃ、まだまだコイツもガキってとこか。胸も少し小振りだし、まあ男を知らなさそうだからな、仕方ないか。
「へえへえ、デートの邪魔はしませんよ、お姫様。今日は一日俺も自由にさせてもらうわ。」
「ボルボはいつも自由なんじゃなくって?」
「ひでぇな、ちゃんとクラウンのお守はしてるつもりだぜ。」
席を立ちながら軽く手を振る。
しかしマーキュリーはもう俺を見ていない。身体ごとクラウンの方へ向いていた。そんなにがっつくほどいい男か?王子ってだけでフィルターがかかってんじゃねぇのか?
おっと、マズいマズい、クラウンと目が合うところだったぜ。
「ダーリン、今日は街の外に出掛けませんこと?ゆっくりと休めそうないい場所を見つけたんですのよ。」
「足がないぞ。」
「私が馬車を貸し切りますわ!」
「おいボルボ、お前もあまり遠くに行くなよ。」
「もう、ダーリン!今は二人のお話ですわよ!」
温度差のある二人の会話を聞きながら、俺は食事処を後にした。
ローブッシュに来てからというもの、日の高いうちから一人でいることはなかった。魔族女が盗賊退治をするまではスバルと組んで街中や街道沿いなどを警戒していたし、その後は魔族女以外のメンバーと近隣の村に行ったりしている。専ら夜の単独行動の方が多いわな。
「さてと、早いとこ話をまとめに行くか。数日後にはローワンの街だからな。」
俺は手を翳しながら真上に来るにはまだ時間がかかりそうな太陽を見てそう呟き、首の骨をポキポキ鳴らしながら南の方の飲食店へと足を向けた。
南地区にある飲み屋街まで来た。
ここは朝っぱらからでも飲める店が多い。王都では風紀の関係上、ほとんどの店で昼間からのアルコール提供はされていない。それに比べりゃ天国のような街だな。いつ来たって女も買える。綺麗どころは多くはないが、床上手でアソコの締まり具合が良けりゃ顔なんて関係ねぇ。見なくても出るもん出せりゃ便所と変わりねぇしよ。まあ、美人に越したことはないけどな。
―――ただし、魔族は別だ。
どんなに美人でもお断りだね。人族の一部では魔族マニアもいるらしいが、想像しただけで鳥肌が立っちまう。生理的に無理だ。勃つものも勃たないしな。あの忌まわしい種族とは同じ空気を吸うのも嫌なくらいだってのに。
魔族どもはここ最近では和平だの何だの言っているようだが、掌返しも甚だしいぜ。
奴等がどれだけ人族を苦しめてきたか忘れたのか?歴史は変えようがないんだ。太古からの人族の敵、あんな鬼畜種族どもに人族の地を荒らされたくはない。ましてや自分が生まれ育った国だったら尚更だ。
改革派や中立派に任せていればいずれこの国は魔族の属国となるだろう。何としてでも保守派で護り抜かねぇとな。
この辺りの店には夜に何度か来ているので客層や雰囲気がだいたいわかる。
ただ夜と違って昼間だと店に明かりが点いているかが分かりづらい。営業中の看板を掛けていない店も多いのだ。やってるのかやってないのかわからない店が並ぶ中、ほどほどに人が入っている店前で立ち止まる。
ここはしけた店だし常連客も少ない。ふらっと立ち寄る者が多いので、顔を覚えられることもなく目立ちにくいのがいいところだ。席に着くまで店員も寄ってこない。
恐らくこの店だろう。
中に入り、入口からは見えにくい席を窺う。手前の隅には二人組が、奥の席には男が一人座っている。あれで間違いなさそうだな。
俺は奥の席に向かいながら店員に安酒を注文した。




