クラークのツケで
途中、自警団の巡回に出会ったりして時間をくってしまったが、だいたいの時間配分は出来ていると思う。
この時間は両ギルド共にそんなに忙しくないはずだ。今からギルドで少し大切な話がある。いや、私にとってめちゃくちゃ重要な話だ。
「アリスさん!!今日はカミル色なんですね!少しジェラシーを感じます!」
ギルドに入った瞬間にデカヴォイスが飛んでくる。
言うまでもなくクラークさんである。ちゃんと仕事してるのかしら。どうしていつもいつも私が入ってきたら声を掛けるの!恥ずかしいじゃない!
クラークさんと初対面のスバルさんは目が点になっていた。クラークさんはあの化粧でいつもスポットライトが当たっているかのように身振り手振りが大袈裟なのだ、スバルさんが驚く気持ちはわかる。これからどんどん濃いキャラにご対面していくのだが、スバルさんは着いてこられるだろうか?
「クラークさん、こんにちは。ちょっとクレメントさんと一緒に応接に来てくれる?」
私は笑顔で二階を指差した。
うーん、これはいい茶葉使ってるわね、きっとクラークさんの見立てだわ。
お茶を持って来てくれた職員と入れ違いでクレメントさんとクラークさんが入って来た。相変わらずクレメントさんは寝癖がすごい。まだここで寝泊まりしてるのかしら?
「アリスさん!今日は新しいボーイフレンドですか?綺麗な花には次々と蝶が現れるといったところでしょうか!」
「あー、クラーク君、ちょっと小さい声で話してくれないか?今日は二日酔いできついんだよ。」
ボーイフレンドって何よ!
それにしてもクレメントさんに覇気がない。二日酔いですって?仕事に支障をきたすような人には見えなかったんだけど。愚痴で深酒するような感じでもなさそうだし、いいことでもあったのかしらね。どうでもいいけど。
「あのさ、浮いてるお金、ちょっと分けてくんない?装備買うお金が欲しいのよ。一応この街に貢献してきたんだから少しくらいいいでしょ?餞別代りにお願いよ。」
何だか親にお金をせびりに来ているドラ息子みたいにない言い方になってしまった。
この人たちに敬語使ってたっけ。色々ありすぎてわからなくなってしまった。さすがにスバルさんも驚いている。まさか私がお金を無心しにギルドに立ち寄ったとは思ってなかったでしょうから。
「餞別って、この街を出て行くのか?」
クレメントさんに動揺が見えた。
クラークさんは二度目だし、そろそろ頃合いかと思っていたようで優雅に紅茶を啜っている。
「冒険者ギルドの膿は出し切ったし、職安ギルドもクラークさんがいるから順風満帆でしょ?お風呂屋さんも作ったし、もうこの街ではやることがないからね。明日発つのよ。」
私もクラークさんに倣って美味しそうに紅茶を飲み干した。
「確かにそうかも知れないが、明日ってのは急すぎるだろ。クラーク君からも何とか言ってくれよ。」
クレメントさんは少し困惑気味に頭を掻きながらクラークさんの方へと目をやった。
クラークさんは目を閉じたまま、まだ紅茶を口に含んでいる。
「それに装備なんかは王子殿下に言えば買ってもらえるんじゃないのか?もう少しこの街に滞在してもらえるとありがたいんだが。その、リディアに指導なんかもお願いしたいし。」
心細いのかクレメントさんの二日酔いで青白い顔が余計に白く見える。
私を引き留めたいと思ってくれていることには感謝するけど、上からの命令は絶対なのよね。サラリーマン的思考がよぎる。異動の時も同僚にこんな顔されたなぁ。
すると空のカップを掲げてクラークさんが立ち上がった。
「クレメントさん!アリスさんにも事情というものがあるのですよ!次の街が彼女を待っているんです!」
この人の行動はいちいちドキッとする。
きっと紅茶がなみなみと入っていたとしてもこの行動を取るのだろう。
「アリスさん!先日お買い物をした店で装備を購入してください!“クラークのツケで”とおっしゃって下されば現金で支払わなくとも大丈夫です!」
クラークさんは片手を後ろに頭を下げ、掲げていたカップを勢いよく腹の辺りに持って来ている。
まるで舞台でのお辞儀のようだ。小指が立っているのも妙に気になる。
「ちゃんと余剰金から使ってよ。クラークさんの自腹は嫌だからね。」
「もちろんですとも!」
ギルドの入口まで着いてこられてクレメントさんには行かないでくれと言われたが、こればっかりはどうしようもない。
ちょっとした騒ぎになったものの、スバルさんの手を引き、強引に笑顔でさよならを告げた。この場にリディアがいなくてよかった。余計にややこしくなるところだったわ。
次の挨拶回りは自警団本部だ。
今日はハイド団長、出掛けてないといいんだけどな。
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