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伝えない方がいい

「本当なのか?!」


ギルド内にクレメントさんの叫び声が響く。

あれから運よくアーマディロホーンも見つかり私たちのクエストは成功に終わった。他の冒険者も助けたし、何よりリディアの“ヒール”も開花させたのだからクレメントさんが驚くのも無理はない。クエスト成功の手続きの後、受付ではなんだからと応接室へと通された。


あの趣味の悪い応接室がめちゃくちゃいい感じの落ち着いた内装に変わっていた。

清潔感のある白い壁にウッディーな調度品、レザー仕様のソファー、まるで商社の応接室のようだ。うちの会社も応接室だけは綺麗だったな。


クラウンは勝手に上座の真ん中に座っている。

普通奥でしょ、あんたが一番偉いんだから。続いてリディアが手前に座った。ふかふかのソファーが気に入ったのかお尻でバウンドしながらクラウンにもたれ掛かっていた。

なんなのよ、っもう。

仕方なくソファーの後ろを回って奥の席に着いた。


「改めまして、クラウン様。リディアが“ヒール”を使えるようになったって言うのは本当ですか?」


クレメントさんは座るなり身を乗り出してクラウンに尋ねた。


「ああ、まだ精度に問題はあるが一応使えるな。」

「それもこれも皆さんのお陰なんです!」


相変わらずバウンドしたままリディアは嬉しそうにはにかんでいる。

そうかしら?クラウンは何もしていないと思うんだけど。一番多くケイブウルフを倒したくらいかしら。


「報告には俺が開花させたと必ず付け加えておいてくれ。それにリディアはギルド付きの冒険者にした方がいいんじゃないのか?戦闘は雑だし、いつ死んでもおかしくないからな。この冒険者ギルドにもいるんだろ?」


開花させたってどの口が言いますか。

ジト目でクラウンを見ちゃったわ。ちゃっかりしてんな、クラウンって。そうまでして業績を残したいわけ?まあそのために行脚してるんだったっけか。でもギルド付きの冒険者って何だろう。会社でも総務部付きという名目で心が病んだ人を在籍させてるけど。


「いえ、前には居たんですが、、、オズワルド元准男爵の時に解雇されまして。今までは形だけあのゴメスがその任を。彼が死んでからはまだ雇ってないんです。」

「ヘルプや揉め事が起こった時はどうしてたんだ?」

「わ、私がずっと対応していました。」


応接室が静まり返る。

副ギルマスが兼任するということがそんなにマズいことなのだろうか。うちの会社じゃよくあることですよ。大手企業という名のブラック企業でしたからね。私もいくつ兼任していたことか。専らじじぃのお守メインなんですけどね。


「とにかく早めに人材を見つけることだな。リディアには薬学知識の復習も兼ねて初級クラスの冒険者の同行をさせろ。普段はギルド内で格安でいいから回復をさせておけ。」

「か、かしこまりました。」


終始クラウンに対してペコペコしているクレメントさんを見てリディアがきょとんとしている。

モブキャラが現ギルマスに対してあれやこれやと指示しているのだから呆気に取られているのだろう。クラウンとクレメントさんを交互に見ながら目をまん丸にして“はぇぇぇ”と感嘆の声を上げている。“はぇぇぇ”とは言わんけど!


「じゃあよろしく頼んだぞ、クレメント。」


クラウンが席を立つ。

私も腰を上げドアの方へと向かった。


「アリスさん!」


リディアが大きな声で私を呼び止めた。


「このお洋服、洗って返します!」

「要らんわ!」


即答してやった。

半泣きで返す返すとうるさいので、仕方なく笑顔で私との記念に取っておきなさいと諭してやった。私との記念という言葉がそんなに心に刺さったのか、リディアは一瞬表情を固まらせ、次に破顔した。感激のあまり嬉し泣きで私に抱き着いてくる。あんたが一度着たものなんてお断りよという本当の気持ちは伝えない方がいいだろう。



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