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コントのようなオチ

うわぁ、やっぱり“ウォーターガード”効果なくなってるじゃん!

顔に生温かいものを感じながら私はスライディングした態勢のまま万歳をして天井を見つめていた。今回はかなりしんどかった。ケイブウルフ、何匹倒したんだろう。噛まれもしたし、引っかかれもした。ズキズキ痛いところが無数にある。この装備、防刃って言ってたよね?


このまま寝ていても疲れが取れるわけでもないので上体を起こす。

振り返ると綺麗に二枚卸されたデカいケイブウルフが転がっていた。臓物ははみ出てますけど。でもこの戦法、カッコよくない?普通に斬りつけて殺っちゃってもよかったんだけど、爪で弾かれたり噛みつかれたりするリスクを考えたら、やっぱこれでしょ。スライディング殺法とでも銘打とうかしら。

ぼんやりと死骸を見ていたら、一瞬リディアの辺りで淡い温かな光が感じられた。


「きゃーーー!出来ましたぁ!!“ヒール”成功しましたぁ!」


リディアは奇声を上げてその場でぴょんぴょん飛び跳ね嬉しさを表現している。

取り敢えず褒めてやるかと思い、何とか立ち上がり納刀してそちらへ向かった。見るとクラウンも戦闘終了したのかこちらに歩いてきているところだった。


「クラウンさぁん!アリスさぁん!」


歌のお姉さんのような呼びかけポーズでリディアが手を振っている。

疲れているからか余計にウザいわ。リディアのハイタッチを無視してトリスの様子を窺う。見ると傷口が塞がっているし、火傷の跡も軽くなった感じだ。心なしか顔色もいいような気がする。意識もあるようで、こちらを見て苦笑していた。


「すごいでしょ、ね、ね?私やりましたよ!あ、でもどうしよう。みんなに『光の乙女』なんて言われたらぁ、やだ~♪ひょっとして王子様にも求婚されたりして!」


リディアはくねくねしながら頬に手を当てている。

イラっとするけど仕方ない。結構な偉業を成し遂げたんだからそうなってしまうのも無理はないだろう。それに冴えないが王子ならそこにいるではないか。王子なら癒し系乙女を選ぶのが定石。リディアを選ぶなら好きにしておくれ。リディアは絶対に光の乙女ではないと思うけれども!


「お前、何でそんなに血まみれなんだ?」


ちょっと膨れっ面でプチ悲しみに暮れている私に向かってクラウンが呆れ顔を向けてきた。

呆れ顔に残念な人を見る感じがプラスされている。私を見る前に先にトリスの具合を見なさいよ。リディアもキャンキャン言ってるでしょ。ほら、私を押しのけてあなたの前に立ったわよ。


「クラウンさん!“ヒール”出来ました!」


リディアは自分の両頬に人差し指を突き立てて首を傾げた。

今どきそんなポーズする?昭和か!クラウンも何か言えばいいのにと顔を見ていたら私の方に身体の向きを変えた。こいつ、リディアを無視する気ね。


「お前、確か“ウォーターガード”掛けてもらったって言ってたよな?」

「うん。でも飛沫は弾くけど、ベッタリはダメなんでしょ?」


私は親指で後ろの二枚卸になっているケイブウルフを指し示した。

クラウンの視線がスッと後ろにずれ、死骸を見るやムッとした表情に変わった。リディアが今度は私の反対側、つまりクラウンの視線の方へと場所を変え両方の指でトリスを差している。


「“ヒール”見てくださーい!」


リディアのアピール虚しく、クラウンはまた私へと視線を戻した。


「ベッタリ付くような戦いの相手じゃなかっただろ?」

「んー、じゃあ血の付いたタオルを首に巻いたからかな~。」


苦笑いしながら回答したのだが、それを聞いたクラウンの視線が私の首元を捕らえる。

あのタオルだと気付いたのか、今度はギョッとした表情に変わった。


「リディは光の乙女です♪」


リディアがいきなり後ろから覆い被さるように私に抱き着いてきた。

所謂おんぶ状態である。なんとかして私の頬に自分の顔をくっつけてクラウンと視線を合わせようと必死だ。血で汚れようがお構いなしのようだ。


「なんでそんなことをするんだ。」


クラウンの語気にはあり得ないという強い感情が感じられる。


「だってその方が魔物の気を引けるでしょ?」

「だって全然リディを見てくれないからでしょ!」


ああ、見事にリディアとハモったな。

どこぞのコントのようなオチになってるじゃん。半泣きでふぇふぇ言っているリディアを引き剥がし、改めて彼女に話を聞くことにした。






「―――で、だんだん温かくなってきて、なんかこうパァーーって光ったんです。」


リディアが身振り手振りで経緯を説明してくれたのだが抽象的過ぎてわからない。

相変わらず擬音語が多いな。結局追い詰められたから出来たんじゃないの?人間死ぬ気でやれば何でも出来るのよ。


「とにかくもう一度トリスに“ヒール”してくれ。次の魔物に嗅ぎつけられる前にここから離れたい。血溜まりなんかは火魔法で焼却するからな。」


クラウンにそう言われ、リディアは何度か“ヒール”を唱えた。

確率で言うなら三回に一回程度でしか成功しないみたいだ。しかも全回復しない。こりゃリディアももっと修練を積まないと自分の物には出来ないだろうな。先は長そうだが大成すればポーション以上の働きが見込めるのではないかと思う。“ヒール”の燃費がわからないし、彼女の魔力量もどれだけあるのかは知らないが、魔力を回復するポーションを飲めば何とかなるだろう。それがコスト面で採算が取れるのかは疑問が残るところだが“ヒール”が使えるようになるという課題はクリアした。クレメントさんには何かしらの報酬は貰わないと割に合わない。


全員クラウンに“クリーン”を掛けてもらった。

でもこの世界の回復魔法は“ヒール”という名称なんだ。“キュア”とか別のゲームのように独特な言い回しはしないんだな。“ヒール”の上位互換は“ハイヒール”や“エクストラヒール”なんだろうか。落ち着いたら黒モフに聞いてみよう。他にも色々聞いてみたいこともある。それよりなにより黒モフに顔をうずめたいのが今の私の一番の気持ちだ。



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