タワーディフェンス
タオル越しのトリスの絶叫が生々しく耳に残った。
トリスは痛みを堪えるように身体を支えていたクラウンを強く掴んでいた。クラウンはウォーターガードしているはずだが衣服に血が染みている。やはり飛沫はガード出来るがべったりと密着してしまえば意味がないのだろう。食い逃げの時もそうだったし。
すぐさまトリスを地面に寝かせた。
槍は穂先から柄の部分まで突起がなく、柄の長さも一メートルあるかないかだったので勢い任せでトリスを手前側に引っ張ったのだ。現実的に考えてこの方法で正解だと思う。槍はかなり深く壁にめり込んでおり、これを抜くのは難しいだろう。
トリスの身体は槍が貫通していたのだが漫画みたいに向こうが丸見えになったりはしていない。肉で塞がれていると言うか、なんだかすごくリアルだ。
「やはり出血が酷くなってきたな。何か押さえておくような布はないか?」
「無いことはないけど、、、。」
何で私を見るのよ。
クラウンだって無限ポーチなんでしょ、タオルくらい持ってないのかしら。私は仕方なくウエストポーチに手を突っ込んで、初めてクラウンから貰ったタオルを思い浮かべた。手にタオルの感触が伝わる。
そのタオルを渋々クラウンの目の前に差し出した。
「持ってるなら早く出せ。」
クラウンが掴もうとしたときにひょいとタオルを上に上げてやった。
もちろんクラウンは空を掴むようにガクッとなる。ものすごい顔で睨まれた。
「ふざけんなよ!」
「だってクラウンがくれたタオルなんだもん。」
「は?」
何よ、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔は!
何回か使ってるけど一応貴重な推しグッズなんだからね。マーキュリーにはリボンを選んであげたらしいじゃない、事あるごとに散々自慢されたんだから。それに引き換え私はタオルて。
「、、、、くだらん。いいから貸せ。」
クラウンは一瞬にして私の手からタオルを奪うと、横たわっているトリスの傷口の背中側に差し込んだ。
「後はリディア、お前の仕事だ。」
「は、はい!」
リディアの顔は引き攣っているものの、目の前の怪我人に真摯に向き合おうという姿勢が感じられる。
極度に緊張して力が入っているのだろう、杖を構えて握る手が白くなっていた。そのままリディアは深く息を吸い込むと一拍置いて目を閉じた。
「、、、、、、小さな光が集まりて、やがては大きな光河となる。満ち満ちた光は小さな闇も照らし出し―――」
リディアの詠唱が始まる。
《エアキャノン》より長い詠唱になりそうだ。人族にとって光魔法はレアだからなのかな。詠唱した方がイメージをつかみやすいとか?
「――光の聖霊の加護の元に、、、、“ヒール”!!!」
リディアの杖がトリスに向けて大きく振り下ろされた。
・・・何も起きませんけど。トリスを見て、クラウンを見て、リディアを見る。
リディアにはめちゃくちゃ気まずそうな顔をされた。
「ほ、ほら、もう一回やってみたら?なんて言うか詠唱に心がこもってないのよ、棒読みみたいだったし。もっと感情を込めて、トリスの怪我が治った様子を強くイメージするのよ。さ、何度でもトライしましょう!見守っててあげるから。」
我ながら苦しい励ましになってしまった。
でも血を見るのも怖いと言っていた彼女がここまで出来るなんてすごい進歩だと思う。酷く落ち込むリディアの肩をポンポンと叩いてあげた。
「残念ながらそれは出来ないな。招かれざる客が押しかけてきてるぞ。」
「え?」
クラウンの言葉に思わず後ろを振り返った。
何もいない。だが改めて意識するとこちらに向かってきている数十の赤の塊が【探索】で確認できた。
「血の臭いが濃くなったんで湧いてきたんだろうな。入口付近で対処するには時間がない。」
「だったらもう通路に向かってクラウンの極大魔法か魔術ぶち込んだらいいんじゃないの?」
「お前はバカか!帰り道が無くなるだろ。それに音で更に魔物が集まってしまう。ピンポイントの小さな魔術か地味に斬り伏せるしか方法はない。」
クラウンが薄暗い通路を睨むようにして剣を構えた。
軽快に地面を蹴る音が近づいたかと思った次の瞬間、通路からケイブウルフが現れた。この魔物は見たことがあるからわかる。オオカミみたいなやつだ。しかも次から次へと飛び出だしてくる。あっと言う間に数十匹が集まった。リーダーと思われる個体を先頭に両翼に分かれるような陣形を取って唸り声を上げている。
「俺は向かって右を殲滅する。お前は左だ。その間にリディアは“ヒール”を成功させろ!」
クラウンの指示にリディアは無言でブンブンと首を縦に振っている。
大丈夫かしら、この子。
「罠もあるから気を付けろ。あいつらが罠を踏んでも投擲だと避けられる可能性がある。飛んでくる物にも気を配れ!リディアたちに近づけるなよ!」
何それ、タワーディフェンスですか?




