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何とも思わない

ま、まさか、、、、黒い目薬に腹黒の血が入ってただなんて、、、、。

あの忌々しい血が私の瞳に触れたかと思うとゾッとする。今すぐにでも目を洗浄したい気分だ。それに虫とか葉っぱとかも入ってるって、終わってるでしょ!錬金窯か!


目をゴシゴシしながらトリスの話を聞いていたが、先に歩いていたマガニーがおかしくなって、振り返りざまに斬りつけてきて、チャンバラになっている時にマガニーがファイアウォールの罠を踏んじゃって発動、掴まれた腕を振り払って逃げたら投擲武器の罠を踏んでこのような状態に至ると言う訳らしい。

ファイアウォールの罠を避けたくらいからマガニーがおかしくなったのね。トリスは振り払った時に尻もちでもついたのかしら。そのままずるずると後ずさった時に槍に貫かれたみたいね。壁に刺さっている槍の高さが低いもの。まあそう考えれば辻褄は合うわよね。


「とにかくこのままだと失血でお前は死ぬな。」

「そんな!」


うんうん、それはヒドい。

わざわざ死を宣告するために起こすか?気絶したままあの世に旅立った方がよかったんじゃないの?トリスが私だったら余計なことするなって怒ってるわ。不憫過ぎて何とかしてあげたくなる。


「ここまでしたんなら助けてあげましょうよ、可哀想じゃない。槍からこの人を引っこ抜けばいいんでしょ?痛いのさえ我慢してくれればの話だけど。」

「お前な。簡単に言うが、引き抜いた時点でさらに出血が酷くなるぞ。」

「そこは彼女に任せればいいんじゃない?」


私はリディアを指差した。

こういう時の回復要員なんじゃないの?切羽詰まった状況なら発動するんじゃないかしら。


「おい、リディア!こいつに“ヒール”を掛けてみろ。」


リディアは耳を塞いでワーワー言っているのでクラウンの呼びかけが聞こえていない。

子供か!って言うか、なんでポット出のあんたがクラウンに名前を呼ばれるわけ?おかしいでしょ!腹立ちまぎれにリディアの両手を後ろで締め上げ、クラウンの方へ向かせた。


「なんですかぁ!見たくないです!やめてくださいぃ!」

「あんたが“ヒール”しないとこの人死んじゃうのよ!駄々捏ねてないでさっさとやりなさいよ!」

「出来ませんー!もうイジメないでくださいー!!リディのポーション全部渡しますからぁ!あーん、クラウンさ~ん、アリスさんがひどいですぅ!」


きったない顔で泣くんじゃないわよ。

いつの間にポーションをポケットに入れてたわけ?余程嫌なのだろうか、もがく力が男性と変わらないくらい強い。気が付けばリディアに馬乗りになって押さえつけていた。なんだか私もロベルトにやられたような気がする。


リディアが差し出したポーションをトリスに飲ませると、幾分かは落ち着きを取り戻した。

逆に騒がしいのはリディアだ。そんなに出来ない出来ないとキャンキャン吠えないでほしい。トリスも胡散臭がっているし。お互いが信じなければ治せるものも治せないし、治るものも治らない気がする。ここはひとつ人生の先輩として若者たちを導いてあげようか。

私は目をギュッと瞑ってしゃがみ込んでいるリディアに近づき諭すように話し掛けた。


「ねぇリディア、落ち着いて聞いてね。今あなたとトリスは人生の岐路に立たされているのよ。あなたは回復魔法が使えるか使えないか、トリスは生か死かよ。」


あんなに騒いでいたリディアが急におとなしくなった。

しかし目は開けたものの、俯いて地面ばかりを見ている。


「トリスの方が重いって思ってる?でもそうじゃないのよ。」

「はぇ?どうして?」

「トリスの現状は自分たちが蒔いた種よ。ここで命を落としても誰にも文句は言えないわ、冒険者だしね。だから私たちがこのまま何もせずにここから立ち去っても何の問題もないのよ。でもね、リディアは違うでしょ。あの時救えたかもしれない命があったっていう気持ちがずっと心に残ったままになるの、死ぬまでね。」


リディアが一瞬肩を震わせた。

もちろん私は見捨てたって良心の呵責は全くない。だって知らない人だし、思い入れないし、NPCだし。なんだったらボルボが死んだって何とも思わないわ。


「でも、もし失敗したら、、、、。リディのせいで、、、、、。」

「どうして失敗することが前提なの?やってみなくちゃわからないでしょ?精一杯やってダメなら仕方がないわ。リディアのせいじゃない。」


私は出来る限り聖母のような笑みを浮かべ、子犬のように縋る眼つきのリディアの手をぎゅっと握ってあげた。


「、、、、そ、そうだな、、、。あんたのせいじゃないさ。、、、俺たちが真っ当な方法で、、、、クエストに臨まなかったのが悪いんだ、、、、、。頼む、やってくれ。」


会話に入って来たトリスの息が荒い。

間に合うか、これ。槍から引き抜くだけでも結構体力使わせると思うんだけど。それにリディアが気合だけで本当に“ヒール”が使えるようになるのかはいささか疑問ではある、私の提案なのだが。でもまあ、かくいう私も気合だけでスキルを習得できたのだから大丈夫だと信じよう。


とにかくみんなの士気が高まったところで、トリスを槍から引き抜くことにした。

あのベタベタなタオルをトリスに噛ませ痛みを堪えてもらう。クラウンと私とでトリスを支え一気に手前に引き寄せた。



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