あるある
クラウンにこっぴどく叱られたリディアはしばらくはおとなしかった。
だがもう遠足気分に戻っている。クラウンを先頭にリディアを挟むようにして下の階を目指しているのだが、隙があれば話をしようとクラウンの横に並んだり、私の前に来て黒い服は縁起が悪いですよなどどうでもいい話をしてくる。
途中何度か魔物と戦闘にはなったが、数体しか現れないこともあってクラウンは私に任せきりにしていた。
もちろん私はヨゼフさんの“ウォーターガード”済みなので一切返り血は浴びていない。ヨゼフさんが直々に掛けてくれたこともあってか効果も長持ちしてそうな気分になる。
たまにリディアにも《トルネード》を打たせのだが、これが最悪のノーコンだった。
魔物に当たるどころか周りの岩や壁を破壊して余計に面倒臭い事態を招いたのである。これにはクラウンも使えないなと終始うなだれていた。
そうこうしていると少し開けたフロアに差し掛かった。
その大きな広間にはヒダベリイソギンチャクのような奇妙な生物が群れを成していた。知ってる?透明っぽくて、見た感じエリンギみたいなやつね。でもうろうろ歩き回ってるんだけど。
「ねえ、クラウン。あれって魔物?」
「ああ、プレウロータクルスと言ってな、ちょっと面倒臭い奴だな。」
私とクラウンは通路の壁に身を隠すように様子を窺った。
やつらは微妙に半透明でゼリー感があり上の方がウニョウニョと動いている。斬ったとたんにブシャーって体液出たりしない?私泣かせのやつじゃないの?さすがに今日はヨゼフさんのお陰で見事にコーティングされているから平気だと思うけど。
私たちがコソコソやっている横で通路の真ん中で仁王立ちしているリディアが視界に入った。何考えてるのよ!見付かっちゃうでしょ!
「これだけの数なら私の《エアキャノン》に任せてください!このフロアには罠が無いって言いましたよね?」
そう言うや否や、リディアは貧弱な杖を振りかざし魔物の群れめがけて走り出した。
ぼそぼそと何を言っているのかと思ったが、どうやら詠唱をしているみたいだ。《トルネード》の時は詠唱無かったような。上位の魔法だから必要とか?知らんけど。
「エアキャノン!!!」
魔物の群れの前でリディアの振り下ろした杖からまばゆい光と爆風が巻き起こる。
群れていたプレウロータクルスたちは弾き飛ばされ壁や天井、仲間同士でぶつかったりして爆散している。
クラウンは“目がぁ~目がぁ~”状態なのでこの状況は見えていない。ピンポイント攻撃よりも範囲攻撃の方がこの子に合ってるのかもしれないわね。
よちよち歩くクラウンの手を引いて足元に気を付けながらリディアの方へと向かった。
「キャーーー!!」
突然リディアが叫び出した。
仕留め損ねたのか一匹だけボトリと天井から落ちてきたらしく、真下にいたであろうリディアに覆い被さっている。みるみる服が溶かされていき、上部から伸びてきた無数の触手がリディアの胸や下半身を弄り出した。
あー出た出た、異世界漫画あるある。
触手と溶かしで丸裸にされて縛られるやつね。そんなもん見せられても何とも思わんわ!
何で皮膚や髪の毛は溶けないのよ!そんなに身体をよじって喘ぐな!
もううんざりしてきたのでソッコーで倒してあげたわよ。
ヒットアンドアウェイで私は汁を被りませんでしたけどね。つくづく世話の焼ける、、、、ん?もしかして私が男性だった場合のご褒美イベントなのか?ハーレム好きだもんね、異世界ものって。大概男性主人公は女性ばっかに囲まれてるもんな~。ほぼイチャついてるか主人公の取り合いで修羅場とかだもん。
そんなことを考えつつ、私はウエストポーチからタオルと着替えを取り出した。
タオルは湯快ワールドで試作品としてもらったもの、着替えは自分で服屋で買ったもの。
ああ、お部屋での寛ぎ用として極力Tシャツとステテコに似た物を頑張って探して購入したのに。
「これで身体拭いて!それとこれ着なさい。ったく、詰めが甘いんだから。」
相変わらずふぇふぇ言ってるリディアの顔めがけてタオルを投げた。
綺麗に拭き取らせてから着替えを渡す。って言うか、タオルは溶けないんかーい!笑顔でヌルヌルのタオルを返すな!
これどうしよう。ポイ捨てはいけないし、油紙で包んで後でゴミ箱に捨てようかな。今どきの子は油紙知らないんだろうな。あの半透明の黄色っぽいテカテカした紙。昔は救急箱に必ず入ってたのに、最近めっきりと見なくなった気がする。これは道具屋で見つけた時に懐かしさで衝動買いしたものだ。こんな事で使う予定ではなかったのに。
何だか虚しい気持ちになりながら一応マナーとして後ろを向いてあげた。
「アリスさ~ん、ありがとうございます!着られました!ちょっと胸がきついんですけど、、、、。」
あー、これもあるある。
なんか主人公の女子よりも胸がデカいですアピールね。はいはいわかったわかった。
だいたいそんなしょーもない装備だからこうなるのよ。もっと色んな耐性のあるものを選ぶことね。
眩しさから解放されたクラウンは呆然とリディアを見ている。
そりゃそうよね、目が見えるようになった途端に部屋着女子が立ってるんですものね。
「もうそんなに見ないでください、クラウンさぁん。」
リディアは胸を隠すようにイヤ~ンポーズを取っている。
別に胸だけを見てるわけじゃないでしょ。嫌なら乳首にバンドエイドでも貼っとけ!
理解に苦しんでいるクラウンに取り敢えず“クリーン”してもらって、地下四階へと進んだ。
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