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寝とけ!

「実力があるのか無いのか、確かめてみたらどう?」


私は身体を斜めにし、掌を上にして指先を若い男に向けクイクイと指を立てた。

これもやってみたかったんだよね~。超カッコいいじゃん。カンフー映画サイコー!あ、でも相手が剣で戦うんなら刀で応戦だよね。体術だけで戦うのはまだちょっと私には早いかな。得物を取り上げられたりしない限りは出来るだけ剣術で立ち回ろう。体術を使うのは追い詰められた時まで取っておいた方がいい気がする。

そう考え私はゆっくりと刀を抜いた。


「姐さん!どいてください!殺されたいんですか!姐さんみたいな女の子が敵う相手じゃねぇでしょう!」


眼前にロベルトの背中が映った。

えーなになに?ロベルトって王子様ポジションなわけ?めーっちゃカッコいいんだけど髪型と合ってないわ~。ごめんね。


「なによ、ぶっ殺せばいいんでしょ?」

「何言ってんっすか!ぶっ殺されるのは姐さんの方でしょう!俺が確保しますんでちょいと下がっちゃーいだだけやせんか。」

「え?確保?殺しちゃダメなの?」

「当り前っすよ!」

「どうして?だって生かしておく必要ある?飯代も払えない奴にこの店のドアを弁償する能力があると思ってんの?」


若い男を放置してロベルトと軽い言い合いになってしまった。

もしかしていいとこ取りをしようとしてんじゃないの?

ロベルトの野郎、不届き千万!絶対に私があの男を倒してやる。とは言え、どの程度痛めつければいいのかわからないから斬った方が早くない?確保する意味が分からんわ。


「オイ!いつまで茶番やってんだ!さっさと実力とやらを見せてみろよ。」


若い男は剣を肩にトントンと当てている。

上手く挑発したと思ったのにロベルトの介入のせいで落ち着いてしまったようだ。

ん?アイツの剣は片刃なのか?

――――ッ!!これだ!峰打ちでしょ!相手を殺さずに叩きのめす方法!

時代劇の上様がよくやってんじゃん!私ってば、何でもっと早くに気付かないのよ~。

でも実際の峰打ちは相手の体に届く寸前に刃を返すって聞いたような。そんな高等技術、ちょっとイメージが湧かないから今の私には出来ないだろうし、相手が相手だから殺っちゃってもいいんじゃね?って思う。それに峰で硬いものを打っちゃうと刀が折れるかもしれないし。この刀、すごく気に入ってるんだよね~。

どうしようかな。峰打ちデビューしちゃう?腹黒がこの刀は自動修復するとか言ってたし、折れない体でいってみますか!


「ロベルト、どいて。私が確保するわ。」


ロベルトを押しのけて、私は刀身を逆さに持ち直して構えた。


「いいぜぇ、尻軽ビッチ。ヒィヒィ言わせてやるよ!」


若い男はビシッと剣を突き出し、不敵な笑みを浮かべている。

誰がビッチだって?お前のケツの穴に刀差し込んでやるわ!即座に男の側面に回り込んで横薙ぎする。

得物同士が“ガチン”と鈍い音を立てた。ビリビリとした感覚が腕に伝わる。さすがは元Bランク、一撃では倒せないか。

すかさず後ろに飛び退き、再び刀を構える。今度は男の方から仕掛けてきた。何度も何度も振り下ろしてくるその剣はどれも素早く重い一撃だった。なんとか全てを【パリィ】出来ているが鍔迫り合いになるとパワー負けは必至だろう。


せめぎ合いが続く。

嘘でしょ?コイツ、トマホークのドナシアンよりもランク下だよね?どの方向から斬りつけてもことごとく合わせてくる。どうして?

何度か打ち合っていてようやくその理由がわかった。

ああ、なるほど。片手剣だからか。ドナシアンは両手で剣を握っていたが、コイツは違う。私の攻撃に合わせてうまく手頸を使い、刀の芯を捕らえているんだ。だから少々反応が遅くなって身体がこちらを向いていなくても力があれば防げるって訳ね。

だったら腹黒の時と似た感じでやりますか。


コイツは私が受け身の時は絶対に【パリィ】するとふんで、右に左にと剣を大振りする。

自分の方が強いという思い込みからか、打ち合いになるのを喜んでいる節がある。これを有効活用させてもらおう。

いったん男から距離を取った。息切れしていると見せかけてこちらからの攻撃の手を緩める。いや実際に疲れているけれども!スタミナゲージがあるなら増えなさいよ!

一息吐かせてくれる間もなく男が飛びかかって来た。先ほどと同じように連撃するのだろう。

一パリィ、二パリィ、ここだ!!

次も【パリィ】すると見せかけた瞬間、左手で刀を逆手に持ち替えて真後ろに切先を向け、素早く背を見せ身体を屈めた。そのまま右手で柄頭を押さえ込み、全身に力を入れ衝撃に備える。


体当たりされたような衝撃と同時に、刀を握るその手に伝わってきた感覚はズブリという表現が一番しっくりときた。

続いて背中に男の全体重がのしかかってくる。若い男の握っていた剣がすっぽ抜けた感じで飛んでいき、地面に転がりガチャリと音を立てた。

私はもちろんヤツの剣の軌道上には入っていないので斬られてはいない。だがある意味押さえ込まれたような状態になっている。ヤバい、倒れちゃいそう。右足を一歩前に出して何とか堪えている。

こうなることは分かっていたけど、マジ重いわ。圧し潰されてもおかしくないよね?耐えられた自分を褒めてあげたい。奇跡。


感動も束の間、背中から脇腹辺りにに生温かいものが伝わってきた。

もしかして血だったりする?“ウォーターガード”かけてもらったはずだよね?もしかして飛沫的なのは撥水しても大量の水分はダメだとかある?

しな垂れかかってきている若い男の息遣いが聞こえてきた。

一瞬の出来事に状況が理解できないのか短く荒い呼吸でうめき声を上げている。まあ自分から串刺しになりに来たようなものだからな。ビックリするわな。

うめきながらも私の肩を掴む男の手に力が込められた。まだそんな力があるのか、意外とタフなんだな。刀が骨に当たった感触もないので脇腹辺りにでも刺さったのだろう。致命傷ではないよね、きっと。


上体を起こす勢いを利用して何とか男の身体を跳ね除けながら刀を引き抜いた。

ドサッと倒れる音が後ろで聞こえる。刀には血がべっとりと付いていた。血振りをしながら振り返ると若い男は腹を押さえながらも立ち上がろうとしている。


「寝とけ!」


私は男の傷口を蹴り上げるとロベルトを呼んだ。



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