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基本私ひとり

よく晴れ渡った空には雲一つない。

通りには既に人々が繰り出しているが陽だまり亭の喫茶には朝食後のティータイムを楽しんでいる客も多かった。気品高い紅茶の香りが喫茶からロビーへと流れてきている。

開け放たれた入り口から自警団団長ハイドが部下をぞろぞろと引き連れて入って来た。


「団長様、おはようございます。どうかなさいましたか?」


カウンターの外にいたホテリエがハイドに駆け寄る。

ハイドはそれを手で制し、部下を数人ロビーに残し喫茶の方へと向かった。喫茶の奥にはクラウンたちが見える。ボルボたちに今日の予定を話しているのだろうか、命令口調のクラウンの声が聞こえる。ハイドはそのままテーブルに近づいた。


「おはよう、アリス君。昨日起きた殺人事件の重要参考人として本部までご同行願いたい。」


ハイドの声が聞こえた周りの客たちがコソコソ話を始めた。

それが伝搬するように喫茶全体が不穏な空気に包まれていく。突然のことに目を丸くしておどおどしているありすにパーティー全員が視線を送った。


「じゅ、重要参考人ってどういうことなの?私が疑われてるわけ?」

「アリス君、昨夜十時過ぎにはどこにいたのかね?」

「それくらいならここに戻って来たと思うわ。私、時計持ってないからわからないけど。」

「おい、今すぐカウンターに行ってアリス君の記録を調べろ。」


泳いだありすの目を見逃さなかったハイドは横の部下をカウンターへと向かわせた。


「それを証明できる第三者は?」

「アリバイなんてないわ。基本私ひとりなんで。冒険者ギルドから歩いてここに戻ってきたんだもの。」


ありすが答え終わると同時にカウンターへ向かった部下が戻って来た。

ハイドの耳元で何かを話している。


「アリス君、記録によると君が戻ったのは十時半ごろだそうだ。」


辺りがしんと静まり返る。


「おーおー、人殺しとは聞き捨てならねぇなぁ。やっぱ魔族は怖ぇえからよ、この際だからパーティーから外しちまおうぜ、なぁクラウン。」


ニヤニヤしながら大袈裟な手ぶりのボルボに対してクラウンは目を閉じた。

マーキュリーも口の端を上げてボルボに賛同している。ありすの事を心配しているのはスバルだけのようだった。


「ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでくれる?私は何もやってないわよ!」

「取り敢えず本部まで来てもらうよ。」


両脇を自警団員に抱えられたありすはそのままハイドに連れ去られてしまった。

喫茶ではまだ騒めきが続いている。


「マスター!どうするんですか?アリスちゃん、連れて行かれましたよ!彼女がそんなことするわけがないですよ。」

「スバル、あなたはどうしてあの女ばかり気に掛けますの?何でもかんでもあの女が勝手に進めるから悪いんじゃなくて?自業自得なんじゃないのかしら?」


マーキュリーはスバルに冷たい視線を送りながら紅茶を飲んでいる。

実際にありすは誰にも相談せずに物事を進めていたようなのでスバルはうまく反論できなかった。


「だから最初から娼館にぶち込んでりゃよかったんだ。ある程度の金が貯まるまで四人で続ければいいだろ?さっさと次の街に行こうぜ。」

「同意いたしますわ。それにダーリンも色々と面倒ごとが無くなるからいいんじゃありませんの?」


マーキュリーは机の上のクラウンの手を握ろうとしたが、すっと避けられた。

苦々しい顔のマーキュリーはそのままぎゅっと拳を握る。


「みんな、言いたいことはそれだけか?予定は変更しない。時間だ、行くぞ。」


クラウンは何事もなかったかのように立ち上がると、そのまま宿の入口へと歩いて行った。



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