サルのゲロ
ありすが連れて来られたのは自警団南支部B管轄の飲み屋だった。
カレンと出会った場所からかなりの距離があった。途中でカレンの知り合いや自警団の連中ともすれ違っている。
三人はウエスタン風の入口を入っていった。
店内は薄暗く照明も弱い。少しすえた臭いがし、全体的に埃っぽかった。むさくるしい男たちやいかがわしい男女が昼間から酒をあおっていて、がやがやと騒がしい。
「坊やたち、元気だったかい?久しぶりにショーを始めるよ!」
カレンが大声で呼びかけるとワッと歓声が沸き、客と思しき人々がテーブルをどかしたりしてあっと言う間に会場が出来上がった。
指笛が激しく鳴る中、店の中央に置かれたテーブルにありすが着席させられると途端にヤジが飛んできた。
「こりゃ美人のねーちゃんだ!今回は見応えありそうじゃねーかよ!」
「カレン!俺たちにご褒美かよ!早く始めろや!」
カレンも手を挙げながらそれに答え着席する。
すると店員が大きなボトルと小さなショットグラスを持ってきた。
「アリスって言ったね。今から勝負だよ。先に潰れちまった方が負けさ。」
カレンはそう言ってショットグラスを並べると、自分とありすに透明の液体を注いだ。
ありすの方へずいとグラスを押しやる。ありすは不思議なものを見るかのようにグラスを眺めていた。
「知らないと思うから説明するけど、これはサル酒って言ってね、その名の通り猿から採ったもんだよ。猿が食ったもんを吐き出させて特別な工程で発酵させて、純度を高めて抽出したもんさ。」
カレンの話を聞いたありすは真っ青になった。
口元に手をやってえづいているようにも見える。それを見たカレンの機嫌が少し悪くなったようだ。
「なんて態度だい。サル酒は貴重なんだよ。なんてったって他の酒とは度数が桁違いさ!」
カレンはそう言うと自分のコップに《着火》魔法を使い火を点けた。
ゆらゆらと青白い炎が立ち、勢いが増したかと思うと真っ赤な炎になって蒸発した。ギャラリーからは勿体無いなどの声が上がっている。
完全に固まっているありすを気にかけてかロベルトが横にしゃがんで耳打ちをした。
「姐さん、、、、負けた方が、、その、、、、真っ裸になるんですぜ。」
「はあ??」
ありすは素っ頓狂な声をあげてロベルトの顔を二度見した。
すかさずロベルトの胸ぐらを掴み顔を引き寄せる。
「こんな得体の知れないもの飲めるわけないでしょ!言うたらサルのゲロじゃない!お前が飲めよ!」
「あ、姐さん、あっしは下戸なんで、、、。」
ありすは情けない顔のロベルトに頭突きをかまし乱暴に突き放すと、自分に注がれたサル酒をじっと見つめた。
そして正面に座るカレンに視線を移す。
「カレンさん、もう一度確認させてちょうだい。私が勝ったら仕事受けてもらえるのよね?」
「ああ、勝ったらね。なんだったら報酬無しで受けてやるよ。その代わり、、、、。」
カレンが頬杖をつきながらニヤリと口の端を吊り上げる。
「負けたらここであんたに盛大にストリップショーを開いてもらうよ!もちろん私の無駄にされた時間分、金も払ってもらうからね。」
カレンの発言に指笛と野次が嵐のような轟音を立てる。
ギャラリーは一人、また一人と増えている。美人の裸体を拝めると聞いて周りの店からもどんどん人が流れ込んでいた。
店の端ではよれたタキシード姿の店主がどちらが勝つかの賭けを始めているようだ。
分かり切った結果に誰もありすに賭けようとはしていない。店主が賭け内容をありすが何杯飲めるかに変更しかけた時だった。
「そこのタキシード!私は私が勝つ方に百万ベリ賭けるわ!勝馬に乗りたい人は私に賭けなさい。損はさせないわよ。」
威勢のいいありすの声に店内が水を打ったように静まった。
と同時に大きな笑いが起きる。笑い声が重なりオーケストラ演奏のように店内に響き渡った。誰しもが口にした、カレンに勝てるわけがないと。
完全にアウェイな状態でありすはショットグラスに手をかけた。
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