全ての元凶
窓の少ない店内は日が差さないのでもう明かりを点していた。
その魔鉱石も古いものなのか黄色く鈍い光で全体的に薄暗い。こんな小汚い店はこの私、マーキュリー=ゴールディングには似合いませんわ、絶対に。
本来ならホーソーンへはクラウンと来るはずでしたのよ。
二、三日かけてガザルドグを討伐する間、またずっと一緒に居られると思っていましたのに。ガザルドグなんて小物、私の手に掛かればいとも簡単に制圧できると見せ付けたかったですわ。
クラウンを王様に出来るのは私だけ。
私の腕ならば他の王子たちに引けを取らないはず。伊達に女性騎士団の団長をやっていた訳ではないのですから。地位・教養・実力・容姿、全て兼ね備えている私だからこそ務まっていたと言っても過言ではなくてよ。
クラウンが王位を継承した暁には私を妻として娶らせてあげようと思っていますのに。
なのにどうして私に興味を抱いてくれませんの?
彼に対しては精一杯のボディータッチや愛情表現を心掛けていますわ。やはり肌を重ねる必要があるの?
今回はあの冴えないスバルと組まされてしまいましたわ。
そんなに大きくない村だと聞いていましたし、今度こそクラウンと同じ部屋に泊まることとになるのではと覚悟を決めましたのに、忌々しいですわ。
前回はソラナス男爵の所へ行ったのだけれど、きっちりと二部屋用意されていましたから。まあ相手は王子殿下なのですし、男爵の取った行動は間違ってはいませんわね。そもそも年頃の未婚の男女が同じ部屋に泊まることなどあり得ないことですもの。しかも王族となれば以ての外。その辺の下賤の者とは違うのよ。なのに――
“あんた、処女でしょ”
全ての元凶はアリス。
アリスさえいなければ、最悪でもパーティーから外れてくれさえすれば、、、、。
店の奥のテーブルにローブッシュに来てから端金で飼った男を見つけた。
銀色の長い髪を赤い紐で一つにまとめていて、眉間に傷跡のある男ですわ。街で見かけた時はその髪に無性に腹が立ちましたもの。何故って、アリスを彷彿させたから。
名前は知らないし、知ろうとも思わない。ただ面白いことに使えそうでしたので飼い慣らしただけですわ。オモチャに名前は要らないでしょう?
大体はこんな感じで定期的に報告を受けていますの。
私はその男と同じテーブルに着き、店員を呼び水割りを頼んだ。
「水割りって、こんな時間から飲んで大丈夫なの?」
「無駄口を叩く暇があったら報告なさいな。」
駒の分際で私に意見しないでちょうだい。
女みたいな声が余計に癇に障りますわね。どこの馬の骨だかわからないお前を取り立ててあげたのはこの私。主人が話す前に口をきくなんて、教育も受けていないのかしら。
この男にはローブッシュの街で働いてもらっていますのよ。
もちろんアリスの評判を落とすため。直接手を下せないのなら間接的に追い込めばいい。カミルの時は下手を打ってボルボにバレてしまいましたけど、今回はうまく水面下で動けていますもの。
「それで、実際にはどれくらい狩れているのかしら?」
「当たりハズレもあるんだけど、それなりに。睡眠作用のあるスプレーは有難いんだけど、あの衣装じゃ目立つから表通りではなかなか、、、。」
「目立つために着ているんですのよ。そうね、今度から少しくらいは怪我させたらどうかしら。ただの盗みなんてぬるくてよ。」
「バカ言わないでよ。そんなこと出来るなら冒険者辞めて盗賊になってるさ。」
「金品を盗んでおいて冒険者ですって?もう後戻りできないでしょう?大好きな彼女に知れたらどうするつもりかしら。」
こんなゴミのような能力しかない冒険者、誰もパーティーなんか組んでくれるものですか。
【早足】のスキルしか使えないじゃないの。逃げることしか出来ないなんて哀れだとは思わないのかしら。だから私がそれを有効活用させてあげているのでしょう?どうして無言で俯くのかしら。
「もういいわ。次に会うときにまたスプレーを渡してあげるから、さっさとローブッシュに戻りなさい。」
なによ、その顔。
見ていてイライラしますわね。その不満を口にする度胸もないくせに。底辺は底辺らしく強者に従っていればいいのですわ。
空席になった前をぼんやり見つめて、私は次に打つ手を考える。
どうにかしてアリスをローブッシュで追い落としてやりますわ。




