指先に口づけ
私に勢いよく背中を押されたロリーズは“キャッ”と声をあげて絨毯に倒れる。
その声に振り返ったのはなんとカミルだった。
「え?ハニー!?」
なんでこの部屋にカミルがいるのよ!
第二応接室にはヨーコさんと黒モフしかいなかったはずだ。なのにどうしてカミルがいるの?今一番見付かってはいけない相手なのでは?
感動すら覚えた別れを思い出し、気まずい気持ちでいっぱいになった。
「こんな夜中なのに応接に誰かが入っていくのが見えてね。心配になって確認しに来たんだ。え?僕?僕は今帰ってきた所だよ。」
よく見るとジュリアスが反対の扉側に剣を抜いて立っている。
めちゃくちゃびっくりした顔だ。反対側の扉じゃなくてよかった。そっちだったらジュリアスが吹っ飛んでいただろう。
ロリーズを優しく起こしてソファーに座らせたカミルはドアの向こうで困惑する私を見て、さらにその後ろの風景を見た。
「ハニー、それどうなってるの?後ろは、、、部屋だよね?うちの廊下や吹き抜けは?」
「ちょっと待ってカミル区長、そこで止まってください。これには色々ありまして、、、。」
私の話も聞かず、そのまま真っ直ぐ進んでくるカミルをジュリアスが止めた。
「カミル様、見るからに怪しげです、お止め下さい!アリスさんではない可能性もあります!向こう側に部屋があるなど普通ではあり得ません!」
ジュリアスはカミルの前に立ちはだかり、剣を向けて私を牽制している。
少しでも動いたら即斬られそうだ。ピリピリした空気の中、ヨーコさんはロリーズにお茶を入れて通常運転している。
「もう話してしまったらどうじゃ?この状況ではどんな言い訳も通じんじゃろ。」
そう言うと黒モフは寝っ転がったままぎゅーんと伸びをして毛づくろいを始めた。
カミルは黒モフと私を交互に見ているが、ジュリアスは微動だにしない。完全に私をロックオンしている。ここで刀を抜くわけにもいかないし、ましてやカミルの付き人に手を挙げるわけにもいかない。観念してカミルたちに洗いざらいぶちまけた。このスキルの事も、今やらされていることも。
「またそんな事やらされてるの?王子殿下はほんとに人使いが荒いな。僕だったらハニーをもっと大切に扱うのに。それにしても、、、、こんなに早く会えるなんて思わなかったから気恥ずかしいよ。でもこれでいつでもハニーに会えるんだね!」
ええ、ええ、私も恥ずかしいです。
そしてそんな風にはにかんだ笑顔を向けられると弱いです、男前なだけに。
「それにしてもアリスさんの立っている場所がローブッシュだとは全く思えませんね。そちら側に行ったとして、本当に戻ってこられるのでしょうか?」
ジュリアスが恐る恐るドアから顔を出す。
及び腰で足だけでちょんちょんとこちらの床を踏んでいる様子はなんだかかわいらしい。
「私たちが戻って来てるんだから大丈夫よ。」
「でもアリスは意地悪だからドア閉めたけどね!」
ティナは一言多いな、もう。
とにかくもう夜中なのでカミルにはクラークさんを引き抜くこと、いつかはわからないがロリーズを一日借りることを話した。さすがにロリーズの件に関しては少し難色を示したものの必ず私が同行するということで了承してもらった。
カミルは別れ際にとても寂しそうな顔をして膝をつき私の指先に口づけをした。なんてこっ恥ずかしい、みんな見てるじゃないの。ロリーズが不機嫌になっちゃったし。ヨーコさんだけですよ、ヘラヘラしてるの。




