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指パッチン

私は自分の顎の辺りに手を持っていき、少し身体を斜めに構えて、ムキになっているリィナをおちょくるような目で見下した。

こんな事で感情を顕わにしてくれるなんて、とっても扱いやすいわね。


「ほんとうにぃ?例えばこの部屋を隅から隅までピカピカになんて出来るのかしら?ソファーやシンクもあるし細かい所まではさすがに無理なんじゃないの?」

「この部屋のどこが広いの?カフェの方がうんと大きいじゃない。こんなの直ぐに出来るわ!」


怒りが頂点になったと思われるリィナは五本の指先をそっと合わせると瞑想状態に入った。

なんだかリィナの身体全体が淡く光っているように見える。それが合わせた指先に集まるように流れ出した。


「ハイクリーン!!」


そうリィナが叫ぶとアニメやなんかでよくありがちなキラキラのベールが部屋全体に広がったように見えた。

あくまで私がそう見えただけで、常人にそう見えるのかと言われれば疑問である。私、真眼持ちなんで。どうでもいいけどいちいち叫ばないと出来ないものなのかしら。小説とかアニメとかでも絶対に叫ぶよねー。やっぱり魔法だからなの?

そんなことを考えつつも姑のようにシンクを指でなぞったり、ソファーを叩いてみたりした。なるほど本当に新品のようで埃一つない。もうこれだけで稼ぐこと出来るんじゃね?


「すごいわね、リィナ。完璧じゃない。合格合格♪」

「当たり前でしょ?リィナの魔法は故郷さとでも折り紙付きなんだからね!まあ私にだってそれくらい出来るんだけどね!」


褒められてまんざらでもなさそうなリィナの横でティナが吠えている。

なによ、ティナは構ってちゃんなの?ついでにこいつも使ってやるとするか。


「ティナにここまでの芸当が出来るのかしら?繊細な魔法っぽいし。リィナが出来るのは何となくわかる気がするんだけど、、、。」

「何よ!リィナに出来て私に出来ないことなんかないわよ!」

「じゃぁ、ここ綺麗に出来る?」


洗面所に繋がるドアを開けて掌で指し示した。


「トイレとかシャワールームってニオイとか湿気とかカビとか色々面倒じゃない?ここを綺麗にして証明してみせてよ、ティナにも出来るんだって。」


私はティナに胡散臭い笑顔を見せた。

部屋の次はトイレ回りも綺麗にしてもらおう。本当は徹夜で一人で掃除する予定だったが、話の流れからこの部屋は上手いことリィナを使って超綺麗に出来た。残るはトイレとシャワールームのみ。正直言って掃除するの気持ち悪かったんだよね。頼むよ、ティナさん。


「はぁ?馬鹿にしてるの?こんな小さな空間、直ぐに出来るに決まってるじゃない!」


めちゃくちゃ噛みついてきてからツンとそっぽを向いて目を閉じたティナはパチンと指を鳴らした。

え?なにその指パッチンは。リィナの時のようなオーラなどは見えなかったけど終わったのか?ティナを見てもツン顔から変わった様子はない。ずっと目を閉じている。ここから何かが起こるのだろうか。そうするうちにティナが片目を開けてちらちらと私の方を窺い始めた。なんなのかわからないのでティナを観察する。


「ちょっと!もう終わってるのよ!褒めなさいよ!」


痺れを切らしたティナがまた吠えてきた。

もしやあの指パッチンで終わったのか?私は慌ててトイレやシャワールームを確認しに行った。指で触るのに抵抗があったが便器もシャワーヘッドもピカピカだった。クラウンみたいに無詠唱なの?もしかしたら指を鳴らすという行為自体にクリーンの意味を持たせているのだろうか。何か他にヤバい魔法や魔術を習得されていたらと思うと身の危険を感じる。あとで黒モフにティナが何の魔法系を持っているのか聞いておこう。


「素晴らしいわ、ティナ!完璧よ!二人がいれば怖いもの無しね!かわいい上にこんなことが出来るなんて羨ましいわ。」


とにかく今は二人をヨイショする。

機嫌を損ねられても今後に支障をきたすからだ。二人を褒めつつ、更に私も憧れてしまいますと自分を下の位置に置くことによってより相手に気分よくなってもらう。お高くとまっているロリーズにはもってこいだろう。もちろんこの言葉にロリーズは鼻高々になっている。


「じゃあ依頼を出すときにはまたここに呼ぶわね、よろしく!」

「呼んでもらって構わないんだけど、ここ何処なの。そんなに転移石使えるわけないでしょ?ギルドまでくらいならフランシスに連れて行ってもらうわよ。」


お姉さん口調のリィナだが珍しく腕組みして話しかけてきた。

いつもは胸の前で軽く拳を握るぶりっ子スタイルなので新鮮さを感じる。どうやらリィナは私が転移石を使っていると思っているようだ。そのまま勘違いしておいてもらおう。


「ここね、ローブッシュの職安ギルドなんだ。」

「「はぁ~?」」


ロリーズの完璧なハモリが部屋に響き渡った。

リィナは窓の外を確認し、ティナは入口のドアの鍵を外そうとしている。急いでティナをドアから引き離し入口を死守した。


「開けなさいよ!」

「わかった、わかったから静かにしてちょうだい。まだギルドの人が残ってるかもしれないんだから。」

「奴隷商に売り付けるつもりならただじゃおかないんだからね!!」

「だから声を落とせって言ってんでしょ!」


ちょっとムカついたから軽く首を絞めてやった。

咳込むティナにリィナが駆け寄り背中を擦る。大袈裟すぎない?ちょっと掴んだだけでしょ。私なんかしょっちゅう腹黒に気絶させられてるんだから。それと比べたらかわいいもんでしょ?


「ティナ、落ち着いて。ここは王都じゃないわ。景色と雰囲気が違うの。アリスさん、もういいから王都へ帰してちょうだい。」


わわかればいいのよ、わかれば。

ロリーズの手を引きトイレに続くドアの前に立つ。


「では、お帰りはこちらです。」


勢いよくドアを開け放ち、第二応接室にロリーズを押し込んだ。



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