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王位継承の儀式

魔族領でクラウンと出会った時もユージーンはそのようなことを言っていた。

この大陸のどこの国で何が起こっていようと特に関心はない。ただ散歩をしていたら人族の王子に会っただけだと。

しかしただの魔族の旅人だったとしても身なりがよすぎた。宛てのない旅をしているようには到底見えなかった。魔族領の要人である可能性も捨てられなかったので当然クラウンも警戒をした。


「こんなところで何を?」

「見ての通り散歩ですよ。今日はいい天気ですからね。それよりもこの子たちを助けてもらったので何かお礼がしたいのだけれど。」


二つの頭をわしゃわしゃと撫でながらユージーンが尋ねる。

ちぎれんばかりに尾を振り前足をバタつかせてその生き物はとても喜んでいるように見えた。


「そのようなお気遣いは――」

「君、堅いね。」


ユージーンはクラウンの言葉に被せるように話し出した。


「警戒心は強いに越したことはないのだけれど、もう普通に話したらどうです?殺すならとっくにやってますよ。弱者をいたぶる趣味はないんでね。この私が“礼がしたい”と言ってるんですからおとなしく受け取ってくれませんか、人族のおぼっちゃん。」


視線を落とし言葉に詰まるクラウンを一瞥し、ユージーンはまたシヴァたちを撫でる。

ここ一帯は魔の森でもかなり深いところだ。魔族の者でもあまり足を踏み入れない。いくら視察だと言っても魔の森の深部には来ないはずだ。それにお供の姿がないのは魔物に食われたからではないだろう。


「何がいいです?城の近くまで送る?それとも君を嵌めた奴等を殺してあげましょうか?」


いやらしく口元をつり上げたユージーンに対してクラウンは毅然とした態度で答えた。


「だったら、俺が国王になれるよう手助けをしてほしい。」


ユージーンは目を見張った。

何とも厚かましいお願いだと思ったが、クラウンの澄みきった真剣な眼差しに興味が湧いてきた。権力に固執して身を滅ぼした者たちを多く見てきたが、こんな目をしているものはいなかった。今までの奴等はもっとギラついて吐き気がするほど強欲な、ある種、魔物の目の持ち主だった。だから彼が何を求めているのか純粋に知りたくなった。


「それなら他の王子たちを始末しましょう。その方がおぼっちゃんが直ぐに王様になれるから手っ取り早いですよ。」

「いや、それでは意味がない。暗殺されたとなれば疑いが俺にかかるからな。だから王位継承の儀式で勝ち抜き、全会一致で俺が選ばれるようにしたいんだ。」

「え?王位継承の儀式?まだそんなことやってる人族の国があるんですね。廃止されたかと思っていましたよ。普通、今は問題なければ第一子が継ぐはずでは?」


ユージーンが驚くのももっともだ。

王位継承の儀式ははるか昔に一部の人族の間で主流だった次期国王の選出方法だ。

国王は同年の嫡出子を複数人もうけ、その中の男児全員が二十歳になった時に行われる。王になるには模擬戦で頂点に立たなくてはならない。模擬戦は嫡出子男児がそれぞれ五人のパーティーを組み、先鋒・次鋒・中堅・副将・大将の順で三勝した方の勝ちになる。複数組ある場合はシングルイリミネーション方式で勝者が決まる。対戦カードが完全二分木構造とならない場合、それまでの功績等を考慮したうえで選出された一組がシード権を与えられ最終戦の時に戦うことになる。

“ただしパーティー参加者は召喚術によって呼び出された者とする”

これは後ろ盾の有無や力関係により嫡出子の能力よりもパーティーに参加する者によって勝敗が決まることを懸念した当時の国王が提案したという。

召喚術によって呼び出される者は種族や男女問わずその種族の成人年齢から人族換算の二十五歳までのこの大陸に住まう全てである。


内容はざっとこんなものだが、そううまい具合に何人も同時に男児を授かることもなく、また召喚術の代償が大きいことも含めこの儀式は廃れていった。

召喚術は実は魔力と巻物があれば誰でも使えるのである。一人呼び出すと一年、二人目を呼び出すと二年、三人目を呼び出すと三年というふうに自分の寿命と引き換えに術を発動させるものだから誰もやりたがらない。そして呼び出された方も迷惑極まりない。ごく普通に生活していたのにいきなり見知らぬ誰かの見知らぬ土地に召喚されてしまうのだから。ましてや王子に呼び出され、戦いなんてしたこともない者に何ができるというのだろう。大陸において武術の心得のあるものより何もできない平民の数の方が圧倒的に多かった。

なので今はほとんどの人族国が普通に第一子を後継者としている。


しかしながらこの国では未だ王位継承の儀式が形を変えて受け継がれていた。

まず王位継承の儀式は嫡出子男児が二十歳になってからだが、模擬戦が行われるのは一年後になったこと。

また模擬戦は勝ち抜き戦になったということだ。

嫡出子の順だけは最後と決められている。極端な話、連勝できる強者が一人いるだけで戦局は大きく変わってくる。


そしてシード枠の選定基準が“王位継承の儀式開始直後から一年間の領地経営で得られた功績または収入額”となったこと。

領地経営が始まると城には戻れなくなる。一人で生活しなければならない。そのため一人だけ従者をつけられた。持参金は五百万ベリのみ、あとは自分で増やすなりしないと一文無しになる。五百万ベリと言っても自分だけが使う分ではなく、従者や召喚した者に掛かる経費もここから出さなければならない。もちろん衣服や武具の購入からそれらの手入れ・調整代、宿代・食費等々も含まれる。


次に召喚術は“四人召喚のところを三人までにし、残り一枠は任意での召喚か自国の貴族以外を雇う事が出来るようになった“ということ。

ただし雇うならお金は自分が領地経営で得た収入の範囲内でという規定がある。必ず三人を召喚しないといけないが、あとは自身の力で仲間を増やせということだ。増やせなければ四人で臨まなければならない。そして召喚した者が必ずしも戦闘に役立つとは限らない。召喚者全員が非戦闘員だった場合、傭兵が雇えなければ最悪嫡出子一人で戦わなければならない。


まともに舞台に立ちたければ強力な後ろ盾と頭を使えということになる。

当初の取り決めとは全く真逆のものになっていることから、この国ではほぼ有力貴族によって歴代の多くの国王が傀儡になっていた。

派閥争いでお妃候補送り込みが失敗に終わった貴族たちは、ここで“傭兵を用意立てすること”で躍起になりギリギリまで水面下で動くことになる。

傭兵のほとんどが報酬全額前金だ。他の貴族よりも早めに優秀な傭兵を押さえておきたいところだが、契約期間が長ければ長いほど金額も跳ね上がる。値段を吊り上げる傭兵もいるくらいだ。いくら貴族だからと言っても出せる金額に限りがあるのでなかなか折り合いがつかない。傭兵も王子パーティーになるより本業の方が稼げると踏めばあっさりと断りを入れる。何よりリスクが大きい。勝てば箔がつくし国の要職にもつけるかもしれないが負ければ最悪再起不能になることもある。勝馬に乗らなければ意味がないことから、能力が拮抗している嫡出子の継承の儀式の時や開催時に前線で活躍している傭兵たちのレベルが高いときは誰も依頼を受けたりしない。


最後に模擬戦までに一度だけ他の嫡出子のパーティーから“召喚者”に限ってトレードできるというものだ。

鉢合わせした嫡出子同士が双方同意の上で成立する。同意を得られなければ成り立たない。同意すれば双方嫡出子が立ち合いの元、同じフィールドで同時に召喚者三人での個人戦をし、勝利数の多いパーティーがトレードを申請できる。負けた方に拒否権はない。負けた方の優秀な人材と自分のいらない人材をトレードできるという仕組みだ。


正直言って終盤でのトレードは意味がない。

戦うわけだから怪我もするし、ある程度育っている戦闘型の召喚者を手放すわけにもいかない。戦闘面以外で役に立っている者を取られるのも痛い。仕掛けるなら序盤のうちがいいだろう。もちろんある程度優秀な人材を確保できていればやる必要はないし、仕掛けられたとしても拒否するか勝てばトレードを反故にできる。



「その王位継承の儀式を止めさせたいから王になるんだ。それに貴族の格差社会を変えたい。だから俺に力を貸してほしいんだ。」


真っ直ぐな瞳で語るクラウンに嘘は見当たらない。

儀式はともかく、格差社会を変えたいなど子供が言うだろうか。ましてや格差の頂点に立つ王子の身分で。


「、、、、そうですね、興味があるから力になりましょうかね。ただし、多少のお願いは聞き入れますが、基本私は私のやりたいようにやりますからね。私の意思は誰にも縛られません、自由です。だから片手間にでも手伝うことにしましょう。それに表立っては行動を共にしませんよ。これでも身バレすると色々と面倒なもんでね。あ、もちろん暗殺も無しにしておきますね。」


“バチン”と音が鳴りそうなくらいのウィンクをしたユージーンはご婦人方が見れば卒倒するくらいの破壊力があった。

クラウンですら恥ずかしくなり視線をそらせてしまったくらいだ。


「それでは遊びましょうか、おぼっちゃん。」


ユージーンはクラウンと固い握手を交わす。

久しぶりに面白いおもちゃを見つけたユージーンの目は瞳孔が縦になっていた。



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