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と言うことで

閉館時間近くになっても結構冒険者ギルドには人がいるもので。

クラウンとの話のあと冒険者ギルドに来たのだが、受付の人数が少ないから余計に多く感じるのかもしれない。ギルマスであるクレメントさん自身が受付対応に追われている。昨日の今日では職員が戻らなかったのだろう。なにせ職員であることが副業だと言っていたのだから。クレメントさんに軽く手を挙げ挨拶をすると、私はそのまま左の階段を上っていった。


今朝の時点で控室の鍵は貰っている。

階段を上った直ぐ傍のドアに鍵を差し込んだ。なかなか回らなかったのだが悪戦苦闘の末、ガチャリと鈍い音がして鍵が開いた。そっとドアを開ける。数年使っていなかったようなのでちょっとカビ臭いニオイがした。

明かりをつけ、軋んだ窓を解放する。天井の照明はファンと一体型で、大きめのソファーに机、壁際には本棚とカウンターにスツールもあった。簡単なシンクが備え付けられており、その横の扉のからは洗面所にトイレと一応シャワールームに繋がっている。なかなかに居心地の良さそうな休憩所だったのではと想像できた。でもソファーにダニ湧いてない?ケツかゆは勘弁なので座るのは止めておこう。


部屋の時計が十時を告げた。

ラハナスト侯爵邸の第二応接室を思い浮かべながらシンク横のドアノブにゆっくりと手をかけた。少しの隙間から向こうの様子を窺うようにそっとドアを開ける。


「うわぁ、本当にアリスさんだ!」

「凄いわね!どうなってるのかしら?」

「こんばんは、アリスさん!」


職安ギルド初期メンバーが一斉にこちらを見ている。

それに見知らぬ顔もちらほら見受けられた。きっと新しいメンツなのだろう。黒モフも横たわっている。ちゃんと呼んでくれていたのね、ありがとう黒モフ。


「こんばんは。えーっと、皆さんお仕事順調ですか?」

「まあなんとかね。職員も増えたから少しだけ余裕が出来たかな。アリスさんにも紹介するよ。こっちに来て座ったらどうだい?」


モブ顔のポールさんが席を立って勧めてくる。


「いや、ちょっと諸事情がありまして、、、、そちらには行くことが出来ないんですよ。この場所からで失礼します。」


みんな“何で?”って顔しているわよね。

入口で棒立ちしているんですもの。行きたいのはやまやまなのだがそっちに足を踏み出してしまうと戻れなくなる。ちょっと困った顔をしただけで何かしら訳ありなのは察してくれたようでそれ以上は質問されなかった。出来た人たちだな。


「あのー、軌道に乗ったところで申し訳ないんですけど、、、、ローブッシュにも職安ギルドを作ることになりまして、、、、どなたか来てもらえませんかね?」


非常に言いにくいことを口にしたことによって、私の笑顔がますます引き攣っていく。

あれだけざわざわしていた部屋が一瞬にして静かになった。これ、怒られるパターンですか?


「アリスさん!」


ひゃー、デカヴォイスのクラークさんの声だわ!

大声で罵倒されるのね。あの顔で罵倒されるのね!


「私が行きましょう!ちょうど新たな生活を欲していたところなのですよ!」


その場で立ち上がり、大袈裟な身振り手振りで発言している。

右隣に座っているラミレスさんが頭を抱えて防御姿勢を取り、左に座っているジェシカさんはクラークの腿にグーパン連打していた。


「兼ねてからここを出ようと思っていたんです。カミルに頼りっぱなしなのは私のプライドが許さないものでね!他のみんなには悪いけれども私は行こうと思う、己自身のために!」


ミュージカルか!タカラジェンヌか!

まさか普段着がそれ?いや、コスプレイヤーなのか?


「まあクラークの言い分もわからないでもないわ。私もずっとカミルの家に住む気はないもの。そのうち親がカミルを狙えとか言いかねないし。」

「そっか、ジャネットのお姉さん、婿養子の件で相手と揉めてるんだっけ?子爵家としては手っ取り早くカミルを婿養子にしようとか言いそうだもんね。その点、うちは気楽だわ~。店は兄さんが継いでるし姉さんは二人とも結婚して子供もいるから、もう私には何にも言わないもの。」


なにそのジェシカさんとジャネットさんの女子トーク。

貴族は貴族でややこしそうだし、商人の子沢山も何かと不満があるようだ。


「僕はまだ街に馴染んでないからカミルに甘えようかな。あまり獣人も見かけないから一人で出歩くの怖いし。あ、ポールはちょっと前から一軒家を借りてるんだよ。」

「そうだなぁ、結構先まで家賃を払ってしまったし家具なんかも購入したしなぁ。」


ラミレスさんは控え目なところがあるし人慣れしていないのかな。

ポールさんはさすが伯爵家次男だけあって経済力はあるようだ。しかし王都で一軒家借りる?めっちゃ高そう、金持ちは違うなぁ。


「と言うことでアリスさん!私がローブッシュに行きますよ!!」


クラークさんは私の目の前で華麗なターンを決めてポーズを取っている。

まあ本人がいいって言うんなら構わないか。冒険者ギルドの半分を買い取ったので建物や機材は揃っていること、職員の補充はローブッシュの冒険者ギルドの職員から選出することやその前の説明会を開いてほしい事などを話す。クラークさんも本当の一からの立ち上げではないことに喜んでいるし説明会の講師役にも乗り気のようだった。


説明会の日程をクラークさんに決めてもらったり、新しい職員の方々とも少し話をしてお開きにしたのだが、私にはまだやることがある。

黒モフにロリーズを第二応接室に呼んでもらうようお願いした。



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