ジュリアナ東京か!
「あ、あの、お二人はここで何をされてるんですかね。」
笑顔を引き攣らせながらも話を聞き出すことに成功した。
オージンはオー先生、デカパイはチー先生と呼ばれており、この教会の教師みたいなものだそうだ。ちなみにチィスというのが名前だ、挨拶ではなかった。二人は聖霊にも愛されているようでどの魔法もそれなりに使いこなせるらしい。先生と呼ばれるだけあって、読み書きとちょっとした計算を教えているという。頭いいんじゃん。
朝から昼までは運動や勉強の時間を取っており、お昼ご飯を食べて解散となる。特に決まりはないので夕方までは教会で過ごす子供たちも多いらしい。
ただオズワルドがギルマスになってからは冒険者ギルドからの施しが一切絶たれており、この街を治めるソラナス男爵とその上役のコトネン伯爵からの寄付金のみで運営しているという。
少ない運営資金から昼食代を捻出するのが難しくなっており、品数・品質共に悪くなった結果、子供たちも教会に来なくなったり諍いを起こしたりするようになったそうだ。やっぱり人って空腹だと怒りっぽくなるんだな。
この二人が運営費をちょろまかしているようには見えない。何故って、こんな時代遅れの服に装飾品じゃない?いつの時代だっつーの。ジュリアナ東京か!少なくとも子供をダシにして私腹を得ているタイプには見えない。
「でもオズワルドが捕まったんだろ?後任はクレメントだろうな。昨日はそのことで街中がもちきりだったからな。ちたー変わってくれればいいんだがな。」
「忌々しい盗賊が捕まってやれやれ~って思ってたのにぃ、盗賊とオズワルドがつるんでたらしいじゃな~い?オズワルドはどうでもいいんだけどぉ、ヘンリーの事を考えるとちょっとねぇ~。」
情報早くない?
でもクレメントさんは奥さんと子供は監視するとか何とか言っていたような気がする。まさか捕らえられたりするのだろうか。思わずハイドさんの顔を覗き込んだ。
「ああ、母親と息子は観察対象なだけだから拘束したりはしないよ。ただ邸宅を売却しなければならないから、どこかに身を寄せることになるだろう。この街からは出られないからな。今後は居場所や何をしているかなどは本人たちが直接自警団に報告をする義務がある。」
ハイドさんは眼鏡を外して目頭を揉んだ。
メガネ男子はこういう仕草もいいのよね、じゃなくて、奥さんと息子は自由になれてよかったと思う。ただ好奇の目に晒されるのは間違いない。心無い人たちの誹謗中傷に身体も精神も蝕まれるのではないだろうか。あ、でもクレメントさんが何とかするかな。本人たちの人柄がいいのであれば同情してくれる人もいるだろう。
「まあ!そうだったのねぇ、よかったわぁ~。だったらここに住んでもらえばいいんじゃなぁい?ヘンリーだってもう働かなきゃいけない歳なんだからさあぁ~、うちで今まで通り子供たちの面倒を見てもらいましょうよぉ~。」
「先走るなって、チィス。ヘンリーだって他にやりたいことがあるかも知れねぇだろ。それにマリーさんにも都合ってもんがあるだろうが。」
ほら、いるじゃん、同情してくれている人。
きっと今回はこれらの駒を使ってなんとかミッションをこなせということに違いない。親子の保護は放置しておけば勝手に進むだろう。
問題はこの地域をどういう風に変えるかだ。まさかメイド喫茶を建てるわけにもいかないだろうし。早速この駒たちに色々と聞いてみよう。
「ところで、この辺りって、何て言うか治安悪くないですか?ところどころに怖そうな人いたんですけど。それに申し訳ないけど綺麗だとは言えないじゃないですか。」
「前はそうでもなかったんだぜ。オズワルドのせいで景気が悪くなっただろ?それからだ、純血とか純血じゃないとか言い出したのは。それまではみんな仲良くやってたんだけどな。」
「それにこの辺りは空き家が多い。そこに流れ着いた奴なんかが隠れ住んでるケースもあるからだろうな。空き家になったところは全部ソラナス男爵の所有物になるんだが買い手も無くてうまく利用できていないようでな、男爵から私たち自警団に不法占拠がないか見回りついでに確認するよう言われてるんだよ。」
なるほど、なるほど。
そのソラナスとかいう男爵が土地を余らせていると言う訳か。じゃあそれを有効活用すべく手っ取り早く男爵に提供してもらえばよくない?何とか安く買い叩けないものだろうか。




