イジメですか
家の角からそっと顔を出す。
男の子が倒れていて、その子を庇うように仁王立ちした犬人間がいる。犬人間?足はブーツで見えないが、手には毛が生えている。こ、コボルトだろうか、かわいい。めちゃくちゃかわいい。倒れている子供もそうだが、ザ・柴犬な顔立ちのコボルトも殴られたのか怪我をしている。案の定、ガラの悪そうな少年少女に取り囲まれていた。
「おい!何でそいつを庇うんだよ、テリー!俺たちの事を馬鹿にしてる純血だぞ!」
「そうよそうよ!いつもヘラヘラしてるけど、きっと心の中では私たちの事を気味悪がってるんだわ!」
「そんなことないよ!ヘンリーは誰にでも優しいじゃないか!」
「コイツが越してきてから教会の昼飯が減ってきたんだぞ!こいつのオヤジが嫌がらせしてるに違いないんだ!」
イジメですか。
なんとこの世界でもあるのですね、イジメ。空腹は人を苛立たせる。会社でも昔お腹の空いたお局様がイライラしていたっけ。差し入れのお菓子をあげると途端に機嫌が良くなったのを思い出した。
多分この街は物価が高いわけでもなさそうだし、やっぱり単純に働き口がないか稼ぎが少ないからだろう。教会の配給が少なくなったという事はきっとオズワルドの不正の影響に違いない。そもそも教会には貴族が寄付するものでは?ノブレスオブリージュは無いのか!ギルドにばっかり頼るんじゃない。
イジメている男子がいよいよ鉄パイプのような物を取り出したので止めに入る。
よそ者には関係ないだとか大人が入って来るんじゃないだとか散々罵倒されたが、目の前で鉄パイプのような物をぐにゃりと曲げてやると一目散に逃げだした。これはアルミだな。私に鉄が曲げられるはずがない。軽いし。
逃げた彼らもよく見ると鱗のような肌だったり何の動物かはわからないが耳だったりが側頭部に生えていた。
「大丈夫?怪我してるでしょ?」
ポーチからクラウンから初期に貰ったタオルを取り出し、腰を屈めてコボルトの目線に合わせて話しかけた。
もうなんていうのかしら、かわいいから抱きしめたい。
「ありがとうございます、僕は大丈夫ですがヘンリーが!」
お礼を言いながらコボルトは口元を手で拭うと、倒れている男の子に駆け寄った。
ヘンリーという少年はうずくまった姿勢から何とかコボルトの手を借りて立ち上がる。顔やお腹を相当殴られたようでボロ雑巾のようになっていた。着ている洋服はそこそこ良い物のようなので余計に汚れているように見える。コボルトが土埃を掃ってあげていた。
「どうもありがとうございました。僕も大丈夫です。」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。ちゃんと歩けないでしょ?家が近くなら送るわよ。」
「母さんに心配かけたくないんです。テリーもごめん、巻き込んじゃって。」
「あいつらがいけないんだ。ヘンリーは何も悪くないのに。」
「きっと虫の居所が悪かったんだよ、もういいんだ。」
なんか二人の熱い友情の世界になっている。
ヘンリーは歳の頃なら中学生くらいだろうか、ひょろっこいが背は高い方だ。この辺りでは見なかった仕立ての良い膝丈のズボンにサスペンダーを着けている。泥だらけの白いシャツを丁寧に掃っていた。あの少年たちに倒されたときに足をくじいたのか少しふらついている。
「おい、どうした!急に居なくなるなよ。」
背後からハイドさんが駆けてきた。
ハイドさんにこれこれこうこうと今までの経緯を話すと近くに教会があるからそちらに連れて行ってはと提案された。私がしゃがんでヘンリーを負ぶろうとするとハイドさんが代わりに負ぶってくれた。
「じゃあテリー君は私と手を繋ぎましょ!」
これ幸いと私は強引にテリーの手を握る。
ふわぁぁぁ!何これ、超気持ちいいんですけど。指が少し短く全体的にふっくらとした手だ。程よい弾力の肉球、肉球との間に生えた短い毛、これぞ至福の時。肉球の匂いを嗅ぎたい、隙あらば猫吸いならぬ犬吸いしたい。
テリーの手を何度もにぎにぎして興奮している顔は絶対に見せられない。フードを被ったままでよかった。ドン引きされること間違いないわ。




