美人耐性無い人
「お嬢ちゃん、めちゃくちゃ美人だよね。団長とはどんな関係なのかな~?」
「今、団長は外出中なんだけど、よかったら奥の部屋でお茶でもして待たない?」
「団長、ああ見えてもう四十近いよ。奥さんも子供もいるし、切ない関係よりも俺たちと楽しい時間を送ろうじゃないか。」
「そうそう、あんな嫁一筋なオッサン眼鏡より俺たちの方が歳も近そうだしさ。」
ハイドさんを訪ねて自警団本部に顔を出したのだが、いきなり男数名に取り囲まれて質問攻めにあっている。
あんたたちは獣か!そんなにグイグイ来られても対応に困る。むさくるしいし、何だったら部屋全体が男臭い。一般人も来るだろうに、もう少し清潔感というか入り易い雰囲気を作るべきではないのか。それに女性の団員が見当たらない。事務員でもいいから女性を雇えばいいのにと思う。何と言うか華が無い。
「誰がオッサン眼鏡だと?」
入口にはハイドさんが冷気を漂わせて立っている。
蜘蛛の子を散らすようにその場を離れる団員たち。取り残された私は鋭い眼光の餌食となった。
「どうして君がここにいる。何か用かな。」
ちょっとだけ顔を顰めたハイドさんからはあまり私と関わり合いたくなさそうな雰囲気が漏れている。
そんな顔をされても私も仕事で来ていますので。折角ですから深い仲になりましょうよ、カミルみたいにこき使ってあげますから。心の中で“釣れますように”とお祈りしながらハイドさんににっこりと笑いかける。
「よろしければどなたかと一緒にスラム街に行きたいんですけど。」
騒がしかった部屋が静まり返る。
何か変な事を言ったかしら?目が点になっていたハイドさんが近づいてきて耳打ちをした。
「それは第三王子の命令か?」
「ええ、まあ。全部丸投げされてますけど。」
私もハイドさんに合わせて小声で回答する。
命令というか何と言うか、これがこのゲームのストーリー進行なのだろうから仕方がない。このまま逃亡しようものなら全力で探し出されて処罰されるか、早く進めろと言われるかの二択だろう。
「なら、自分が行きます!」
「何言ってんだ、俺が行くよ!」
「お前らじゃ心配だ、ハイド団長!私が行きますよ!」
黙り込むハイドさんを見て急に騒ぎ出す団員たち。
みなさん先ほど姿を消したのでは?俺も俺もという圧がかなり強い。私は案内してくれるのなら誰だって構いはしないのだけれども。
「いや、私自らが行こう。お前らはまだ仕事が残ってるだろ、それを片付けるんだ。」
ハイドさんの一言に部屋全体がブーイングの嵐になった。
“職権乱用”だの“奥さんにチクる”だの、様々な批判の言葉が飛び交っている。ハイドさんはそれをさらりと無視して私の手を引き、攫うように自警団本部を出た。
そのまま爆速で通りを横切って四つ角を曲がった先で解放された。
若干連行された気分なんですけど。掴まれていた手首を擦りながらハイドさんの顔を覗き込んだ。
「あの、、、みなさん仲がよろしいんですね。」
「、、、、、。」
え?無視ですか?
ちょっと気まずいのはご勘弁。雰囲気が悪いのはうちのパーティーだけでもうお腹いっぱいなんですが。辺りを見回してハイドさんは四つ角でお馴染みのベンチに腰を掛けた。取り敢えず私も横に座る。
「あの、、、ハイド団長?」
「はあ、よし!誰も付けてきていないな。今一度聞く、スラム街へは何をしに行くんだ?」
別に団員に聞かれてもいいでしょう!
それともスラムに何か後ろ暗いことでもあるのだろうか。
「クラウンにスラム街をテコ入れしろって言われただけです。何をすればいいのか分からないので状況確認と言いますか、実際にこの目で確かめて何か改善点があればいいなと思っただけです。お願いできませんか?」
嘘は言っていない、と言うか嘘を吐いても意味がない。
正直な気持ちをハイドさんにぶつけた。きちんと伝えたのになぜ顔を赤らめ目を逸らす。別に告白しているんじゃぁないんだぞ、私の目を見ろ。
「わ、わかった、わかった。頼むから見つめないでくれ。」
あー、美人耐性無い人ね。
私も人のこと言えないけど。見ていたらそのうち慣れるわよ、美人も三日見たら飽きるって言うでしょ。だから私でも浮気されたんですけどね。
「スラム街ってヤバい所なんですか?少しはクレメントさんに聞いたんですけど、自警団が見回ってるって。」
「そうだな、変に先入観を与えるのは悪いと思うが、純血が少なくてな。」
ハイドさんによるとスラム街とは純血人族がつけただけで正式名称ではないらしい。
もちろん純血人族も住んでいるし店なんかも存在している。メインストリート近くとなんら変わりのない生活環境らしい。ただ少々血の気の多い人々が目立っているような地域だそうだ。このゲームの世界観が未だによくわからないのだが日本人の感覚は捨てた方がいいかもしれない。クレメントさんも盗みとかスリとか普通だって言っていたし。
とにかく視察しましょう。その場所の空気感は自分の肌で感じないとわからない。なんとかなると思うし、トラブルに巻き込まれたら相手をぶっ倒したらいいんじゃない?




